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第26話:使用禁止記録庫再び

 僕たちはある作戦を考えていた。

 あの日使用禁止記録庫へ潜入した時のドキドキを抑えることは無理だった。


 そして今夜、その作戦を決行する。


 夜の校舎は、昼間のざわめきが嘘みたいに静まり返っていた。

 石造りの廊下に足音が響くたび、僕の心臓も一緒に跳ねる。


「大丈夫よ、前よりスムーズに行けるから」

 先頭を歩くパールが、にやりと笑った。

 彼女の後ろ姿は頼もしい……けど、その声が妙に響いて余計に怖い。


 デーネは眼鏡を押し上げて、小声で注意を促す。

「静かに。……ここから先は人の気配を探らないと危ないわ」


 その言葉に、僕は無意識に神力を指先に流した。

 青い光がほんのりと皮膚を覆う。……けど、やっぱり探知は苦手だ。

 こういう時にパールの感覚は役に立つ。


「……誰もいないわ。今のうち」

 パールの囁きで、僕らは再び図書室の奥、例の影合わせの扉へ。


 影を合わせると、カチリと錠が外れる音がした。

 そして目の前に現れるのは、薄暗い秘密の部屋。



 前回は手前をざっと見ただけで引き返した。

 でも今日は違う。僕らはランプを掲げ、さらに奥へと進んだ。


 棚には黒ずんだ紙片や焼け焦げた本。机の上には誰かが書きかけて放置したような羊皮紙。

 竜の紋章が刻まれた金属板なんてものまで転がっている。


「やっぱり……普通の禁書庫じゃない」

 デーネの声が低く響く。

「クロカ王国の公式の歴史とは、まったく別の記録がここにある」


 パールも眉をひそめて紙片を手に取った。

「“神獣は、敵ではない”……? これ、どういう意味なのよ」


 僕は喉を鳴らした。

 昨日まではただの噂や憶測だった“もうひとつの歴史”。

 けど今、確かに証拠のかけらが目の前にある。



 その時だった。


「おい、誰かいるのか?」


 背筋が凍った。

 扉の向こうから声がする。しかも複数。


 デーネが青ざめる。

「巡回じゃない……生徒の声よ」


 次の瞬間、ガチャリと扉が開いた。

 入ってきたのは、同じ学年の男子生徒たちだった。


「なんだよここ……え? お前ら!」

 完全に鉢合わせだ。


「ちょ、ちょっと待って!」

 パールが慌てて手を広げたけど、男子たちは顔をしかめる。


「何隠してんだよ。……ここ、立入禁止だろ?」

「先生に言ったらどうなるかな」


 嫌な空気が流れる。

 彼らは元々パールにちょっかいをかけてくる連中だ。

 まさかこんなところで再会するなんて。


「言うわけないでしょ」

 パールは強気に言い返した。けれど男子はにやにや笑う。


「じゃあ条件次第だな」

「例えばパール、俺らと今度一緒に……」


「ふざけないで!」

 パールが一歩踏み出した瞬間、僕の中で何かが弾けた。


 気づけば、拳に青い光が走っていた。

「やめろ!」

 拳を机に叩きつけると、ズシンと重い音が響き、埃が舞い上がる。


 男子たちは一瞬ひるみ、そして舌打ちを残して退いていった。

「……チッ。つまんねぇ」

 扉が閉まると、重苦しい沈黙が残った。



後味と決意


「……ごめん」

 僕はぽつりと呟いた。

 本当は冷静でいたかったのに、思わず手を出しそうになった自分に戸惑っていた。


 けど、パールは首を振った。

「いいの。……助かった」

 その顔は笑っていたけど、どこか影が落ちていた。


 デーネは紙片を握りしめたまま、ぎゅっと目を細める。

「……分かったわ。結局、どれだけ真実を知っても、私たちだけじゃ動けない」

「ゲーリュ団に入らなきゃ、本当の答えには届かない」


 その言葉に、僕は深く頷いた。

 そうだ。強くならなきゃ。

 僕たちが真実に触れるには、もっと先に進むしかない。


 ただ、今の胸のざわめきは「真実への渇望」だけじゃなかった。

 パールが誰かに絡まれて、僕は自分でも驚くほど頭に血がのぼった。


 それをどう整理すればいいのか、まだ分からなかった。


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