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第21話:白銀の髪のおてんば娘

 ラプラス神力学校に通い始めて、もう半年。

 気づけば、毎日が少しずつ慌ただしくて、でも退屈しない。


 私、パール・アジメーク。

 「白銀の髪のおてんば娘」なんて呼ばれてるけど……おてんば? 失礼ね。私はただ、みんなより少しだけ自由にしてるだけ。



 最近の学校は、ちょっと面倒くさいことが多い。

 例えば今日も、廊下を歩いているだけで男子たちが「パールさま〜!」って寄ってくる。


「今日も髪がきらめいてますね!」

「声が天使!」

「筆箱貸してもらえませんか!? 一生の宝にします!」


 ……もう、ほんとに困っちゃう。

 だって私の髪なんて、生まれつきなんだから努力も何もしてないのに。

 まぁでも「可愛い」って言われて悪い気はしない。ちょっとだけ、ね。



 授業中。

 デーネが先生の質問にスラスラ答えて、みんな「すごーい!」ってなる。

 ウルスは机に顔を伏せて必死にノートを取りながら、でも絶対理解してなさそう。

 レグは……レグはもう、ずっと元気。


「俺はノートなんか取らない! 心に刻むんだ!」って叫んでたけど、次の日には「何も覚えてねぇ!」って騒いでた。

 でも、そのレグに「かっこいい!」って言う女子が出てきたのは驚きだった。

 どうしてああいう脳筋を好きになれるのか……謎すぎる。



 私は、いつも授業の合間に考える。

 ——ゲーリュ団に入ったら、もっと外の世界を見られるのかなって。


 この壁の中にずっといるだけなんて、つまらない。

 だって私はパール・アジメークなんだもの。

 名前の通り、星のように輝いて、もっと大きな世界に立ちたい。



 また今日も、私は“おてんば娘”を演じていた。

 先生に指名されれば元気よく返事をして、クラスメイトにからかわれれば笑って返す。

 それが私の役目。母に言われてきた「明るく強いパールでいなさい」を守るために。


 でも、内心は……。

 いつも胸の奥で、演じている自分を冷たく見ている、もう一人の自分がいる。



 その日の放課後。

 校舎裏で、私はこっそりため息をついていた。


「はぁ……今日も“おてんば”演技、完遂……」


 壁にもたれかかりながら、空を見上げる。

 ほんとの私は、そんなに強くも、明るくもない。

 父さんがいないからって、母が望んだからって……なんで私ばっかり。


 その時だった。


「……パール?」


 声に振り向くと、ウルスが立っていた。

 しまった、聞かれてた? 私が“素”でため息ついてたところを……。


「な、なに、どうしたのよ。べ、別に落ち込んでなんか……」

「いや……いつものパールじゃないなって思って」


 その一言で、心臓が止まりそうになる。

 ——“いつものパール”じゃない。

 つまり、ウルスにはちゃんと見抜かれてるってこと。


「……そ、そんなの気のせいよ! 私は明るいし、元気だし、おてんば娘なんだから!」

「でも……無理してるように見える」


 笑顔が張りついたみたいに固まった。

 どう返せばいいのか分からない。

 母に言われ続けてきた“おてんば娘”じゃなく、私自身の姿を見られた気がして、怖かった。



 沈黙に耐えられなくて、私は慌てて話を逸らす。


「そ、そういえば! あんたこそ神力の訓練どうなのよ? また失敗して顔に泥つけたんでしょ!」

「……うん。つけた」


 なぜか、即答。

 そして真顔で泥だらけの体験談を語り出すウルスを聞いてるうちに、私の肩から力が抜けていった。


 あぁ……この子は飾らないんだ。

 弱いところも、そのまま出せるんだ。


 私は、母の言葉に縛られて、強く明るく振る舞わなきゃと思っていた。

 でもウルスを見てると、そうじゃなくてもいいのかもしれない……そんな気がしてくる。


 胸の奥に溜まっていた冷たいものが、ほんの少しだけ溶けていった。


***



 翌朝。

 教室の席についた途端、私は落ち着かなくて、無意味にノートをめくっていた。


 ……昨日のことが頭から離れない。

 校舎裏での、あの瞬間。

 私がため息をついているところをウルスに見られ、しかも「無理してる」なんて言われて。


 あの時は笑ってごまかしたけど、心臓はバクバクで、顔は熱くて。

 寝る前まで布団の中でゴロゴロ転がって悶えていた。


 ——私、今まで誰にも気づかれたことなかったのに。

 どうしてウルスだけ……。



 授業中。

 先生が板書している横で、私はつい視線を横に流す。

 そこにはいつも通り、不器用で、どこかドジっぽいウルスの姿。


 鉛筆を落とせば、机の下で慌てて探して先生に注意されるし、問題を解けば妙に惜しいところで間違えるし。

 でも、昨日の言葉だけは……不思議なくらい、真っ直ぐに心に刺さって残っている。


「……無理してるように見える」


 思い出すだけで、また胸がざわざわする。



 放課後。

 デーネが「図書室行こ」と声をかけてきて、私は頷きかけたけど、思わず口をつぐんだ。


「……ごめん。今日は、いいや」


 驚いた顔をされたけど、無理に笑って誤魔化した。

 だって今、図書室に行ったら、またウルスと顔を合わせてしまう。

 きっと、昨日のことを思い出して……まともに目を合わせられない。



 帰り道。

 夕焼けに染まる道を歩きながら、私は小石を蹴飛ばす。


「おてんば娘でいなさい」って母に言われてきたから、私はその通りに生きてきた。

 でも、昨日みたいに素を見られて……意外と嫌じゃなかった。

 怖いのに、恥ずかしいのに、なんでかホッとする。


「……あーもう! 何なのよ!」


 誰もいない道に声をぶつけてみるけど、気持ちは収まらない。

 私はただ、明るくて元気なおてんば娘でいたいだけ。

 それなのに、どうしてウルスは——。


 胸に小さな違和感が芽生えているのを、自分でも否応なく気づいてしまっていた。


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