表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/159

第19話:日常回・カオン王国散策

 僕たちは、その日、久しぶりに授業も訓練もない休みを手に入れた。

 目的地はクロカ王国北側——武具職人の街。


 街の門をくぐった瞬間、僕は思わず足を止めた。

 そこは、まるで武器と防具の祭典だった。


 石畳の道の両脇に、鎧や剣がずらりと並ぶ。

 大きな槍、きらめく剣、背丈ほどもある盾、鉄の籠手や鎖帷子。

 道を歩くだけで鉄の匂いが鼻をつく。

 金属を打つ音が、あちこちの鍛冶場から響き渡っていた。



「すごい……!」

 パールが目を輝かせて駆け寄る。

 ショーウィンドウに飾られていたのは、銀細工のように美しい細身の剣。

 鍔には宝石が埋め込まれていて、刃が光を反射して虹色に輝いていた。


「これ、私に似合うと思わない?」

「うん、確かに似合うけど……値札見た?」

「え?」


 パールが値札をのぞいた瞬間、固まった。

 ——金貨50枚。


 僕はそっと言った。

「それ、僕らが半年間食費を節約しても買えないよ」


 パールの肩がガクンと落ちた。



 一方、レグは大剣の並ぶコーナーで立ち止まっていた。

 分厚い刃を握りしめ、振りかぶる仕草をしてみせる。


「悪くねぇ……でも、やっぱり俺には必要ないな」

「なんでだよ。カッコいいじゃん」僕は思わず口を挟む。

「拳が最強だ」

「またそれ……」


 レグは本気の顔で頷いた。

「剣は折れるが、拳は折れても治る。だから拳が最強だ!」

「……いや、折れる時点で最強じゃないだろ」


 横でパールが笑っていた。

「でも、レグが剣なんて持ったら確かに似合わないわね」

「おい! 褒めてるのか貶してるのかはっきりしろ!」




 そんなやりとりをしていると、ひとりの職人が声をかけてきた。

 髭をたくわえた大男で、エプロンには煤の跡がびっしりついている。


「坊主たち、目が肥えてるな」

「い、いや、僕らまだ学生で……」


 職人は豪快に笑った。

「だろうな! けどよ、いい武器は高い。

 本気で欲しいなら、ゲーリュ団に入るんだな。あそこに入れば、武具も支給される。

 その上、金も入る。立派な武器を持つ資格も手に入る」


 パールと僕は目を合わせた。

 職人の言葉が、ずしりと心に残った。




 職人と別れ、僕らはさらに街を歩いた。

 北側はとにかく屈強な男たちが多い。

 裸同然で筋肉を晒しながらハンマーを振るう職人、

 真っ赤に焼けた鉄を川に突っ込んでジュッと蒸気を上げる鍛冶場、

 路地裏には少年が木刀を振っていて、その音が金属の響きと混ざり合う。


 日差しは鋭く、街全体が金属の熱を反射していた。

 僕の額から汗が流れ落ちる。

 でも、なぜか心は高揚していた。


 パールはまだ宝石の剣に未練があるみたいで、

 時々振り返っては「いつか絶対買うから」と呟いていた。


 レグは拳を握りしめ、

「鍛冶場の空気を吸うだけで、俺の拳が強くなる気がする!」と真顔で言っていた。


 デーネはそんな僕らを見て、呆れたように言った。

「結局、みんな同じよ。ゲーリュ団に入らなきゃ何も手に入らない」


 その言葉に僕は深く頷いた。

 剣も、防具も、そして“真実”も。

 全部、ゲーリュ団に入らなければ届かない。


 北の街の喧騒の中で、僕は改めて心に誓った。

 ——絶対に、ゲーリュ団に入ってやる。



***



 北側の街を歩き尽くした僕たちは、今度は西側へと足を向けた。

 そこは「上級ウェズダ族」が暮らす高級住宅街。


 門をくぐった瞬間、空気が変わった。

 石畳は北側よりもさらに磨かれ、建物はどれも石造り。

 ただし窓はやたら小さい。陽の光を拒むみたいに閉ざされていて、全体がどこか陰気な印象だった。


 痩せ細った体、猫背気味の姿勢。すれ違う住民たちは皆、ゆっくりと歩きながら、僕らをじろじろと眺めてくる。



「おや、子供か」

 道端で立ち止まっていた初老のウェズダ族が、細い目を僕らに向けた。

 その声には露骨な見下しが混じっていた。


「君たち、学生かね? 随分と平民らしい顔立ちだ」


 パールが即座に眉をひそめた。

「顔立ちに平民とかあるんですか」

「もちろんあるとも。骨格の気高さが違うのだよ」


 ……いや、猫背の人に骨格語られても説得力ないんだけど。



 歩けば歩くほど、石の建物が続く。

 門柱の先には高い塀、塀の上には鉄の柵。

 まるで「ここから先は入ってくるな」と言わんばかりだ。


 装飾は細かく、家の玄関には彫刻された紋章。

 けれどどれも閉ざされていて、人の気配は薄い。

 ——生活の匂いがしない街だった。



 さらに進むと、通りの真ん中で子供たちが遊んでいた。

 僕らが近づくと、その子供たちはぴたりと動きを止める。


「ねぇ見て、お客さんだ」

「本当に? ……でも、ちょっと田舎っぽくない?」


 子供の声は素直すぎて刺さる。

 パールは笑顔で近づき、しゃがんで言った。

「こんにちは。遊んでるの?」

「……あなた、髪が派手ね。庶民のくせに」


 にっこり笑っていたパールの頬がピクついた。

「ふーん。じゃあ、この庶民の“派手髪”に勝てるくらい、あんたたち速く走れる?」

「えっ?」


 次の瞬間、パールは子供たちを相手に全力疾走。

 ——もちろん圧勝。

 子供たちはぽかんと口を開けて、その場に立ち尽くしていた。


「庶民、強い」

 その一言にパールがドヤ顔を浮かべた。



「……でも、やっぱり嫌な雰囲気ね」

 横でデーネが小声で呟いた。

「この街、全部が“閉ざす”ための造り。窓も小さいし、塀も高い。

 彼らはきっと、外の人間を拒絶して生きてる」


 確かにそうだ。

 北の街が「開いて、作って、鍛える街」だったとすれば、西の街は「閉じて、隠して、威張る街」だった。



 すれ違う人のほとんどが、鼻で笑うように僕らを見てくる。

 北の街では「お前たちも頑張れよ」と声をかけられたけれど、ここでは逆。


 僕は胸の奥がチリチリと焼けるみたいに熱くなった。

 ……ゲーリュ団に入ったら、こういう人たちにも頭を下げさせられるのだろうか。


 そう考えながら、石造りの街を後にした。


読んでいただきありがとうございました。

面白かった、続きが気になると思ったら評価、ブックマークよろしくお願いします。

筆者がものすごく喜ぶと同時に、作品を作るモチベーションにも繋がります。


次回もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ