第18話:半年
◆半年後
半年という時間は、思ったよりあっという間に過ぎ去った。
その間、僕らにはいろんなことがあった。
最初に言っておく。
歴史の秘密——あの「使用禁止記録庫」で見たもの。
あれからずっと気になっていたけど、結論から言うと僕らにはどうにもできなかった。
調べれば調べるほど突きつけられるのは「ゲーリュ団に入らない限り、何も触れられない」という現実だった。
だから僕らは腹をくくった。
今はとにかく力をつける。試験を突破する。ゲーリュ団に入る。
その先で真実に近づく。
そういう目標に切り替えて過ごした半年だった。
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◆パール、女神化
パールはというと、半年で完全に「男子人気No.1」になった。
理由は分かりやすい。顔。声。仕草。全部が完璧。
昼休みは毎日、彼女の机の前に男子生徒の列ができる。
「パールさん! 僕と一緒に食堂へ!」
「ごめんなさい、今日はお腹いっぱいだから」
「まだ何も食べてないのに!?」
——こんな調子。
断られようが冷たくされようが、それすら「ご褒美」になるらしい。
僕は理解不能だったが、男子の熱狂ぶりはまるで宗教。
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◆レグ、なぜかモテる
だが驚いたのは、レグだ。
戦闘狂で脳筋。
宿題を僕に押し付けて「筋肉は勉強より重い!」と胸を張るようなやつ。
そんなレグが、なぜかモテ始めた。
きっかけは合同実技の公開戦。
レグが全身オーラでぶち抜いて、巨大な石像を素手で砕いた時のことだ。
「すごーい!」「かっこいい!」
女子の黄色い声が飛んだ。
以来、彼は「荒ぶる獅子」「天然の破壊神」と呼ばれ、女子の間で謎の人気を獲得した。
もちろん本人はまったく気づいていない。
「ウルス! 今日もタイマンだ!」
……いや僕を殴る前に、そのラブコールに気づけ。
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◆僕とデーネ
僕とデーネはというと、筆記試験に向けて地獄の勉強漬け。
デーネの“暗記リズム法”はさらに進化し、もはや洗脳に近かった。
「ゲ・ル・リ・オ・ン! 七匹どん!」
「星を守った英雄さま〜♪」
朝の教室が合唱会場と化す日もあった。
先生が「頼むからやめてくれ」と泣きそうになったくらいだ。
……でも正直、覚えやすかったのは事実だ。
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◆全校合同の実技試験
最大のイベントは「全校合同・神力実技試験」。
広大な演習場に全生徒が集まり、模擬戦形式で披露するのだ。
火球を飛ばす者。氷壁を築く者。風で相手を吹き飛ばす者。
会場はほとんど魔法大会。
僕はといえば——地味に体を強化するだけ。
だがなぜか実況役の先輩に気に入られた。
「おっとー! 赤毛のウルス君、見事な加速! 普通の走りが、ちょっと速いぞおお!」
……ちょっと速いだけだよ!?
その日、僕は一番笑いを取った生徒として名前を覚えられる羽目になった。
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◆気づき
こうして半年。
僕らは笑い、必死に勉強し、時に恋バナの渦に巻き込まれ……少しずつ前に進んだ。
歴史の秘密を追いかけたい気持ちは消えていない。
でも、今の僕には分かる。
——まずはゲーリュ団に入らなきゃ、何も始まらない。
以前の僕なら、ただ巻き込まれて震えていた。
でも今は違う。
僕が自分の足で進んで、掴まないといけない。
あの日、影の扉の奥で感じた“違和感”。
それを確かめるために。