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第0話:ウルス・アークトの日記(当時8歳)

 僕の住んでるクロカ王国は、壁に囲まれている。


 ……いや、誤解しないでほしい。

 これは比喩じゃない。ほんとうに物理的に「ぐるりと巨大な壁」で囲まれてる。


 北も南も、西も東も。どこを見ても、視界の端にはあの灰色の壁。

 景色に変化ゼロ。壁マニアにはたまらない環境かもしれないけど、僕はそんな趣味ない。


「空ってこんなに狭かったっけ」

 昔、兄さんがぽつりと呟いたのを覚えてる。……兄さん? いや、そんなやついない。たぶん夢の中の話。


 さておき、壁の外に何があるのかというと、これがまた妙で、誰も本当のことは知らない。

 いや、知ってる人はいるのかもしれないけど、僕みたいな庶民に教えてくれるはずもない。



 クロカ王国の西には、やたら偉そうな人たちが住んでいる。

「上級ウェズダ人」なんて呼ばれてて、全員が黒いローブ着用、鼻で笑うのが得意。

 たぶん笑い方も訓練されてる。


 彼らの家は石造りで、窓がやたら小さい。

 防犯なのか、光が苦手なのかは不明。見た目は完全に吸血鬼。

 でも実際は「先祖がゲルリオンの側近だった」という理由で威張ってるだけらしい。



 北は武具職人たちの街。

 朝から晩までカンカンカンカン、空気は常時鉄の匂い。

 住人は全員が筋肉モリモリで声がデカい。

 僕が行ったら間違いなく握手で骨を折られる自信があるから近づかない。



 南は……未開拓。

 動物が多くて道も整ってなくて、地図にすら載らない集落があるらしい。

 たまに探検に行く猛者もいるけど、大抵次の日には風邪ひいて学校を休む。

 ある意味、命より免疫力が試される場所。



 で、東。ここはちょっとロマン枠。

 自然が豊かで木々がうねり、川も透き通っている。

 でも人はほとんどいない。理由は簡単、「魔物が多いから立ち入り禁止」。

 しかも行くには冬に凍るガイド川を渡らなきゃならない。完全に季節限定ダンジョン。



 そんなこんなで、壁の中の生活も意外と悪くない。

 魚が主食って点を除けば……いや、やっぱりそこは不満だ。


 朝は焼き魚、昼は煮魚、夜は……焼き魚(再)。

 魚はもう友達通り越して親戚レベル。


 肉は祝祭日のごちそうで、牛なんて幻の生き物。

 漁師は町ではそこそこ大事にされてて、ちょっと羨ましい。



 話は変わるけど、この国のほとんどは「ゲルリオン教」を信じている。

 教会は町の中心にあるし、毎週の礼拝も必須。僕も小さい頃から連行されてた。


 ゲルリオンは、昔この星を守った英雄で、天から降ってきた7匹の神獣を倒したらしい。

 その功績で「唯一神」となり、国王の祖先にもなった。つまり今の国王は神の子孫――建前では。


「神の子孫なら、もっと国を良くしてほしいんだけど」

 母さんがぼそっと言ってた。……これは絶対秘密。


 教えでは「神獣は悪」「星を滅ぼす存在」「倒して正解」。

 だから歴史の授業は、必ず「英雄ゲルリオン」でフィニッシュ。


 教科書の挿絵のゲルリオンは、背中に光の翼、敵を一刀両断する大剣、そして顔は実物比1.3倍のイケメン加工。


「この世で最も偉大な者はゲルリオンである」という教義。

 でもそれって、「この世で1番うまい食べ物は魚である」と大差ない気がする。

 ……いや、魚は嫌いじゃないけど、できれば唐揚げ食べたい。



 あと、この国には「ゲーリュ団」って組織がある。

 かっこよく言えば神の使い、ざっくり言えば武装エリート集団。

 神力っていう特別な力を持って、国のために戦うヒーロー。子供の憧れ。おもちゃ化済み。


 でも僕はあまり実感がない。

 だって、身近に神力持ちはいなかったし、僕にももちろんそんなものはない。


 僕にとってのヒーローは父だ。

 

 チャンタルホーク村の騎士団の団長であり、この村の英雄。

 僕が今よりも、もっともっと小さい時に遊んだ記憶があるんだけど、正直あんまり覚えてない。


 今はどこか遠くに任務に行ってるんだって。

 

 いつか会いたいなー。



 ……でも最近、ちょっと考える。

 本当に世界は「壁の中」だけなのか。

 壁の向こうには、なにがあるんだろう。

 僕らが信じてる歴史は、全部正しいのか。


 そんなことを考えると、少し怖い。

 でも同時に、知らない世界を覗いてみたい――そんな自分もいる。


 いやいや、ダメだ。こういうやつ、昔話だとだいたい途中で退場する。

 まずは目の前の問題からだ。

 ……今夜の夕飯も焼き魚なんだよなぁ。


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