表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/186

第163話:正しい判断

 レグと拳を合わせたあの瞬間から、胸の奥がずっと熱いままだ。

 この熱は怖さじゃない。

 やっと、自分の足で立てた証みたいなやつだ。


 目の前では、スサとノウが三人の団長と渡り合ってる。

 いや、渡り合うなんて言葉じゃ足りない。

 圧倒してる。

 嵐と灼熱が重なって、戦場そのものが揺れてる。


 ギウス団長の大剣が地面を叩けば地平が割れる。

 ルナーア団長の矢が空を裂けば熱が散る。

 アル団長の槍が踏み込めば空気が泣き叫ぶ。


 それでも、スサの風は止まらない。

 ノウの熱は笑うみたいに燃え上がる。


 あの二人……強すぎる。

 人なんてとうに越えてる。

 でも、そんな怪物みたいな力なのに、背中が頼もしいと思ってしまう。


 反対側から悲鳴が聞こえた。


「ひっ……ちょ、無理無理無理無理っ!」


「パール、もうちょっと引っ張って……いって……痛っ、手がもげる……!」


 逃げ惑うパールとデーネ。

 その後ろには続々と迫る団員たち。

 ライネルが一人でその群れを刈り取ってるのが見える。


 あの人は本当になんなんだろう。

 笑ってしまうくらい強いのに、ずっと冷静で静かだ。


「ウルス! レグ!」


 パールの叫び。

 こっちを見た瞬間、顔がぱっと明るくなる。


「来るの遅いぞヒーロー達!」


「おいこら避難してろバカ!」


 口は悪い。

 でも、安心してる声だった。

 レグにチラッと視線が向いて、ちょっとだけ涙ぐんで笑ってた。


 ああ、やっぱりそうなんだ。

 この瞬間を、待ってたんだな。


「レグ! ウルス! 突破するぞ!」


 スサが叫ぶ。

 目はまだ団長たちから逸らしてない。

 その横でノウが笑ってた。

 戦場で余裕なんて、普通ありえないのに。


「おーい兄ちゃん。さっさと来いよ。置いてくぞ」


 足が自然に前へ出る。

 怖くない。

 この足はもう止められない。


「行くぞレグ」


「当たり前だろ。俺の拳はそっちだ」


 肩が少しだけぶつかる。

 それだけで心が軽くなった。


 さぁ、抜ける。

 この包囲を、抜ける。


 そう構えた瞬間——


「……っ!」


 空気が震えた。

 大地が、一瞬だけ息を止めた。


 何かが近づいてくる。

 重い。

 冷たい。

 遠くから、黒い波の気配が押し寄せる。


 鳥の声が止まるみたいに、音が消えた。


 ライネルが顔を上げた。

 スサの表情が変わった。

 ノウの笑みが消えた。


 来る。

 分かる。

 まだ姿も見えないのに、膝が軋む。


「……王か」


 スサの低い独り言が、風に混ざって消えた。


 背中が冷える。

 それでも、刀を握る力は緩まなかった。

 逃げないって決めたから。


 そこへ——

 砂煙を割って影が走ってくる。


「……間に……合った……!」


「カヤ!?」


 体中ボロボロのカヤが倒れ込むように現れた。

 腕を支えると、熱い血が手に触れた。


「すまねぇ……遅れた」


 その後ろから、影が三つ。

 黒い毛並みを揺らし、銀の牙を覗かせ、低く唸りながら歩く獣。


「犬……神……!」


 知性を持った魔物。

 ベーセホリスで会った、あの……。


 そしてその間を縫って、巨大な双頭の黒犬——オルトロスが走る。


「皆、乗れ!」


 カヤが叫ぶ。

 その声はもう掠れていた。


「ここは……王の匂いがする。長居は死だ」


 選択の余地なんてない。

 スサが顔を上げる。

 ノウが拳を鳴らす。


「……行くぞ」


「逃げる? 楽しいじゃねぇか」


 レグが笑った。

 僕は刀を納めた。


 生きて——真実を見るために。


「全員、乗れ!」


「言われなくても!」


「はやく! 来る前に!」


 パールとデーネが飛び乗る。

 レグがカヤを担ぎ上げる。

 スサとノウが後ろを振り返り、風と熱で道を割る。


 僕も、牙だらけの背中に手をかけた。


「行こう」


 振り返らない。

 振り返れば、足が止まる気がしたから。


 オルトロスが地を蹴った。

 世界が一気に流れていく。

 風が頬を切る。

 背中で誰かの息が震えている。


 遠くで、静かな声が響いた。


「……我を逃がすつもりか、子らよ」


 背中に凍りつくような気配。

 でも、振り返らない。


 まだだ。

 まだ終わらせない。


「ウルス、しがみつけ!」


「落ちたら置いてくぞ!!!」


「落ちないよ!!」


 叫んで、笑った。

 泣きたくなるくらい、今が生きてる。


 砂を巻き上げながら、僕らは戦場を離れた。


 まだ終わらない。

 これは逃げじゃない。

 次につなぐための一歩だ。


 だから、刀を強く握る。


 まだ、戦う。

 まだ、行く。


 その先に——僕らの未来がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ