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冬のキャンプ場

僕ね、キャンプが趣味なんやけど。あっ、別にコロナ禍で始めたわけじゃないで!もう20年以上前からやってんねん。むしろ昔のキャンプブームの時にやり始めた口やね。子供が生まれてからは当分やってなかったんやけど、小学校に上がる前くらいからまたキャンプやり始めてん。もう子供たちも社会人と大学生やからめっきり一緒にキャンプについてきてくれへんねん。嫁なんてもっての外で温泉旅館なら行くけど、なんで出かけてまで料理作らなあかんねん!って一緒に行ってくれないやわ。そんで一人でキャンプ行くようになってん。今はソロキャンって言うみたいやね。昔はそんな言葉もなかったわ。

僕こう見えて虫苦手やねん。なんでキャンプなんかしてんねん!って思うやろ?せやねん。だから夏はキャンプできたもんじゃないんや。虫もそうやし、キャンプの中ってほんま暑くなんねん。ひどい時サウナ状態やで。今は昔より夏暑いから死人出るんちゃうん?

やから僕は秋の終わりから冬にかけてキャンプに行くんよ。虫もあんまりおらんし。関西やと雪も降らんし、ちゃんと対策したら凍死せんしね。


今年の1月なんやけど、年明けの三連休あるやん?成人の日の。その三連休使ってキャンプに行ったんや。雪は降ってへんけど、やっぱ寒いから僕以外に男の人一人しかおらへんかったんよ。その人もソロキャンらしくて、そのキャンプ場には僕とその男だけやったん。その男の人は軽自動車をキャンピングカーに改造してる人で羨ましかったわ。

昼過ぎにテント立てて、焚火して、ひたすら火見ながらコーヒーを飲むっていうなんとも言えない贅沢を堪能してましたわ。むっちゃ寒いんやけどね。前は色々凝って肉焼いたり、鍋作ったりしてたんやけど、準備も片付けもめんどいし、なんだかんだで寒空の下で食べるタップラーメンが一番うまいっていう結論に至ったんよ。お湯だけ沸かしてカップラーメンにずるずる啜ってたらテントの後ろ側の林から「ガサガサガサッ」って聞こえてきてん。熊は冬眠中やし、鹿かなんかかと思ってその時は音にびっくりしただけで特になんも思わなかったんよ。

キャンプって特にやることないから、夜早めに寝るんです。その日も九時過ぎには焚火消して照る準備に入ってました。年取ってからはキャンプでは酒飲まないようにしてたんです。何かあったらすぐに運転できないと困るやん。ソロキャンやと尚更よね。家族から何か呼び出しがあったらすぐに帰れるようにせんとあかんし。もうむっちゃ寒いし、寝袋に包まって寝たんです。


何時か分からんけど、テントの外の物音で目覚めたんよ。明らかにテントの周りを何かが回ってるんです。足音がするんです。ゆっくーり『ザッ……ザッ……』って。確実に二足歩行の動物の足音なんです。スマホで時間を確認したかったんやけど、光が漏れて起きてることがバレたら何かされるかも分からんって、なるべく音を出さないように息を潜んでたんです。同じキャンプ場に来てたもう一人の男の人かもしれんって思ったけど、軽キャンで来てる人がわざわざテント張ってる人のところにくるわけあらへんし、キャンプ場の人は夜おらんくなるから絶対ちゃうしって頭の中グルグル考えててん。

どれくらい経ったか分からんけど、数十分経った時にその足跡が止まったんです。ああ、終わったわ、はよどっか行けって思ってたんよ。でも、去ってく足音はしなくて、物音はせんのにテントの外にソレが経ってる気配はずっとあるねん。分からんけど、確実にこっち向いてる気がすんねん、ソレ。もう寝袋が擦れる音すら出さんようにじっとしてたんです。目玉しか動かしてなかったですね。こういう時金縛りやったら音出んでええのに、別に体は動くしでほんまはよいなくなってくれ、いなくなってくれ~って頭の中で考えててん。

ふと考えたんよね。こういう時にお経唱えるとおらんくなるみたいなの聞くやん。もう必死に「南無阿弥陀仏~波阿弥陀仏~」って頭の中で言い続けてたんよ。その間もずっと外からはソレの気配があったんよ。足音も何もせんけど。真っ暗やから姿もシルエットも分からんけど、確実におるんよ。


「効かんで」


男の子っぽい声でそう聞こえたんです。ソレがこっちに向かって言ってきたんです。もうそこから記憶がないねん。気絶したんやね。


気付いたら外は明るくなってて、時間見たら7時過ぎててん。もうソレの気配はなくなってたわ。でもまあ、恐る恐るテントから出たら、近くでもう一人のキャンプ客の男の人が焚火用の枝拾っててん。もう必死にその人に「こっち来てくれ」って呼んでテント解体するん手伝ってくれってお願いしたんよ。別に自分一人でも片付けることなんてできるけど、一刻も早くここから出ていきたくなったんよね。その人もいい人やったから手伝ってくれて。お礼して「ここのキャンプ場なんかおるからはよ帰った方がええ」って言って帰ってきたん。その人もなんかを察したのかもしらんけど、焚火せんで荷物車に積んで帰ったっぽいわ。

こうやって聞くとそんな怖くないやろ?でも、ほんまその時は必死やってんよ~。もうあのキャンプ場には行かへんわ。

懲りずにソロキャンはしてるんやけど。


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