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トラックメイカー

トラックメイカーっていう職業を知っていますか?和製英語で海外では使われていないみたいなんですけど、作曲家や編曲家といういわゆる曲を作る人のことをかっこよく言ってるんですよね。僕は十数年前のボーカロイド全盛期にボカロPと言われるボーカロイドを使った曲を何曲かネット上にアップはしていたんですけど、まあまあ鳴かず飛ばずで神と神格化されていたボカロPにはなれずでした。それでも音楽の道は諦めきれずに大学を卒業してからレコードショップで働きながら曲を作ってました。周りの同じ大学の人はメガバンクやら大手電機メーカーに就職していて、親からもだいぶ言われましたよ。いい大学まで入ったのにもったいないって。自分で言うのもアレですけど、関西ではまあまあな偏差値の大学でしたから。

大阪のレコードショップで働き始めて3年した26歳の時に、時代の影響もあってそのレコードショップが閉店することになったんです。社員は他の関西の店舗に移動しないかっていう声がかかってたんですけど、その頃にはネットで発表していた曲がボチボチ再生回数が上がっていたのと、編曲家としてちょこちょこ仕事が入っていたので、思い切って音楽一本で生きていこうって決めたんです。

この間解散しちゃいましたけど、●●っていうアイドルの曲を作ったこともあるんですよ。あの子たちはもともと関西で活動してましたからね。曲作っただけで会ったことはないんですけどね。


編曲の作業ってすごい思ってるより大変なんですよね。作曲は0から1を生み出すんだから一番大変って思われるかもしれないんですけど、正直作曲の方が楽ですね。まあ、これには賛否両論あると思うんですけど。編曲の仕事が入っていざ依頼された曲を聞いたらアカペラのガタガタの曲送られてくるなんてのも日常茶飯事ですからね。これをちゃんとしたメロディに直して、ギターやピアノ、ベースライン、打楽器を入れて肉付けしていくのが編曲です。骨の折れる作業です。でも、そんなめちゃくちゃな曲でも出来上がるとやっぱ満足感ありますよ。


納期がキツキツじゃない限り大体の曲の依頼は受けるようにしてるんですよ。作業にも慣れてきて結構早い時間で曲完成させることができるようになったんでね。ただ一回だけ途中で断った仕事がありまして。それはスマホゲームのゲーム音楽でした。移り変わりの激しいスマホゲームの世界で私の作った曲が使われているゲームのほとんどがサービス終了になってます。その断ったゲームなんですけど、ホラーゲームで謎解きが主なゲームだったみたいです。今までのスマホゲームの作った曲は女性向けのイケメンの男の子を攻略するものや、アイドルが歌って踊る音ゲーが多く、明るい雰囲気の曲ばかり作っていたので、楽しそうって思ったんですよね。なかなか暗い感じの曲を作ることは少ないですからね。

内容は昔の呪いが今も続いていてその呪いを解くための謎を解くみたいな感じでした。ゲーム内の選択や内容よって数曲作らなくちゃいけなくて、結構苦戦しましたね。どれも暗い曲希望なので、似たような曲調にならないような工夫が必要でしたから。日常風景はほぼなく、ひたすらにホラー要素の強い内容が続く内容だったんです。曲のオーダー表のようなものがあって、廃神社で流れる曲、地下通路の曲、といった感じですごいざっくりしたもので、その雰囲気になんとなく合うような曲を作るんです。全部で20曲以上作りました。過去一苦労したと思います。納期の一週間以上前には提出しました。

本来の納期から二週間ほど経った時に先方のゲームスタジオから連絡がありまして、一曲だけ修正してほしいというものでした。イメージに合わなかったや、テンポが速いなどの理由があるので、修正が入ることに関しては特に問題視はしていませんでした。何なら一曲で済んでラッキーくらいに思ってましたし。

『#13井戸』の曲でした。井戸から髪の長い女の幽霊がこちらに向かって追いかけてくる、という何千回と見たホラー演出の一つでした。どんな修正なのかと思えば「異音が入っているので取り除いてください」というものでした。自分でギターを弾きそれを曲に入れることは多いが、ゲーム音楽のようなBGMにはキーボードで打ち込みパソコンで編集をするという方法しか使わないため、異音が入る可能性はないんです。

まあ、とりあえずその『#13井戸』を聞いてみました。37秒付近で聞こえるとのことだったので大体35秒くらいから聞いてみました。全く異音がないんですよね。打ち込みをした曲の元データの方を見てみても特に異常はなかったんです。

念のため最初から聞いてみたんです。そしたら始まって33秒くらいのところに明らかに女性の声が入ってたんです。

「……ツノ」

ガサガサという雑音の最後にツノというか細い「ツノ」という声でした。

元のデータを見てもおかしいところはないし、元データを再生してもソレは入ってない。音楽のデータとして先方に送ったものだけにこの声が入ってるんですよ。

まあ、正直元の打ち込みのデータをもう一度音楽のデータに変換して送ればいいって思ってたんです。さっき33秒のあたりでその声が聞こえたので30秒付近からまた再生してみたんです。そしたら流した瞬間に


「死んでるの」


と今度ははっきりした声で入っていたんです。さっきより早い秒数になってるし、明らかに大きい声になってるって、その瞬間心臓バクバクして、これ聞いちゃダメなやつだって思って、その『#13井戸』の曲だけ辞退したんです。

後日、一曲辞退したにも関わらずそのゲームの作曲代は満額支払われていました。


そのゲーム、リリースはしたものの3か月もしないうちにサービス終了になったみたいなんです。人気がなかったとかバグが多かったみたいな評価がネットには転がってるんですけど、一部で「ゲームのある場所に行くと変な女の声が聞こえる」と界隈では有名だったみたいです。どの場所かはなんとなく想像がつきます。ネットの都市伝説なんで本当かどうかは分かんないですけど。今となっちゃできないゲームだし確かめようがないですしね。


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