ダムに沈んだ集落
怖い話が聞けるバーがあるって聞いて初めて来たんですよ~。中の雰囲気は普通のバーなんですね。なんならデートでも使えそうな。怖い話で脅かして「一人で寝れな~い」を狙う客とかいたりします?あ~、やっぱいるんですね。へ~そういうお客さんのツレの女の子にはアルコール出さないんですね。バーテンさんってそういうところちゃんと見てますよね。
怖い話ですか?いや~、仕事が仕事なんでよく聞かれるんですけど、怖い思いはしたことないんですよね。あっ、仕事ですか?ダムで働いてるんですよ。よく自殺する人いるの?とか幽霊見たことある?とか色々聞かれるんですけど、全くなくて。僕が鈍感なだけかな?っては思うんですけど。自殺ってのも僕が入ってからは聞いたことないですね。そういうところってなんか場所決まってるんですよね。僕が勤めてるところはいわゆる名所ではないんで、ないですね~。
でも、不思議な体験はしたことあって。なんなら今現在も。あっ、全然怖くないんですけど!僕のとこのダムって昔集落があったところで、そこ住んでた人はダムできる前にみんな街の方に引っ越したみたいなんですけど、家とかそのままダムの下に沈んでて。水位が高いときは全く見えないんですけど、水位が低くなると家が見えたりするんですよ。って言っても管理室から見えるほど鮮明じゃなくて、パトロールするときに船に乗ってると見えるんです。あ~、ダム勤務の人は結構小型船舶の免許持ってるんですよ。
それを初めて見た日はめちゃくちゃ晴れてて太陽の光で水の中が綺麗に透けて見える日だったんです。いつも以上に集落の家とか門があったんだろうなところとか見えたんです。そしたら、人が見えたんです。水の中に。畑で作業してるおばあちゃんが。ほんと今まさにそこにいるように鮮明で。でも水の中だから波が出ると少し歪んで見えて。よく見たらちょっと先には帽子被ったおじいさんもしゃがんで何かしてて。一緒にパトロールしてた先輩に「下見てください!おばあちゃんが!」って言ったら「あ~、よくあるんだよね~。まだここに住んでるみたいに日常送ってるんだよ。あっち側に学校の分校があるの分かる?そっち行ったら子どもいっぱい見えると思うよ。今日天気いいし。」って平然としてて。どうやら水位が低い晴れた日には高確率で見えるみたいで、ここに勤めてる人にとっては晴れた日の日常だったんですよね。
どうせだったら分校の方も見てみようよって先輩が言ってくれて、分校の方まで船を出したんです。そしたら本当に子ども達が校庭で遊んでて。今にもはしゃぐ声が聞こえてきそうなくらいだったんです。でも、やっぱり服装は昭和チックっていうかちびまる子ちゃんみたいな格好で。それに怖くないんですよね~。先輩に聞いてみたんです。「これって幽霊とかなんですかね?」って。そしたら、「さっきいたおじいさんおばあさんは死んでると思うけど、ダム建設の時期から見て、分校にいる子どもくらいの年代の人はまだ60代くらいだろうし全然生きてると思うよ」って言ってて。言われてみればあの小学生くらいの子たち全員がもう死んでるとは思えないんですよね。あれってその場所にある記憶とかそういうのなんですかね?こういう話って他で聞いたことあります?
いまだに凄く晴れた日は水の中にはいるんですよね~。もう僕にとってもそれが日常になっちゃって。慣れって怖いですよね~。




