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消える夜景

すいませ~ん!表の看板の焼きサバ定食ってここのお店で合ってます?あっ、良かった~。でも、ここってバーですよね?こんなお洒落なバーで定食って珍しいですよね。

いや~、不規則な仕事してて、実は今起きたばっかりで。ここ数日家にこもってて、カップラーメンくらいしか食べてなくて。いわゆる家庭料理みたいなの食べたくなって家から出たんですけど。まさか家の近くにこんなバーがあるの知らなかったです。あっ、お食事は最近始めたんですね。もともとは普通のバーだったんですか~。雰囲気もいいし、通っちゃいそうです。ご飯もあるし!バー来るの初めてで……。飲み物の種類全然分からないんですけど、生ビールとかもあるんですか?良かった~。カクテルとか全く知らなくて。

あと、さっきから気になってたんですけど、あそこに貼ってあるポスターで~。今週末、怪談ナイトっていうのがあるんですか?これって予約制ですか?来れたら来ようかな~。楽しそう!えっ、ここオカルト系の人がよく集まるバーなんですね!ほんと近所に住んでるのに何も知らなかったです!あっ、バーテンさんオカルトライターなんですか?いやいや、底辺ライターだなんてご謙遜を!出版関係のライターさんですか?あ~、最近は出版社も冬の時代ですもんね~。いや~、僕も出版業界の端くれみたいな仕事なんで分かります。

お恥ずかしながら漫画家をしてまして。もともとは青年誌でゴルフ漫画を連載してたんですけど、編集さんに言われるがままにゴルフを題材にしただけで全然興味持てないのもあってか、7巻で打ち切りになっちゃいましたね。それから読み切りを何回か掲載したんですけど鳴かず飛ばずで。さすがに食っていけないって気付きまして、今は完全に成人向け漫画を描いてます。出版はしてなくてダウンロード販売なんですけどね。汚い話、連載時代より収入が10倍以上になりまして。なんで連載にこだわってたんだろうって今となっては思います。


僕、東京の美大に行ってたんです。その時に出版社でバイトしてたんです。募集見てすぐ応募したんですけど、配属されたのが女性向けファッション誌で。本当はやっぱり漫画の編集部が良かったな~って思ったんですけど、そう簡単にはいかないですよね。やってた仕事は撮影するときの雑用とか荷物持ちとか、あとは頼んでた服と小物がちゃんと届いてるかの納品チェック、アンケートの集計とかが主でしたね。美大で絵が描けるってバレたら、女性の恋愛特集の読者の体験談を掲載するページの絵描いたり、最後の占いページの星座の擬人化の絵描かされたり、色々させられましたね。女性の職場で俺以外に男の人が一人しかいなくて、ほんと片身狭かったです。ああいうとこで働いてる女の人ってめちゃくちゃ強いんですよ。唯我独尊タイプの人が多くて、人使いが荒くて。まあ、そうじゃないと生き残っていけない世界なんだと思いますけどね。

学校もあるし、そんなに長い時間働いてはいなかったんですけど、やっぱり校了前が忙しくて夜遅くまで作業してましたね。ある日、僕ともう一人、編集の女の先輩と二人だけでオフィスで作業してたんです。撮影した写真の人物とアイテムの切り抜きをひたすらするっていう作業に頭おかしくなりそうでしたね。夜の9時40分を過ぎたときに一つの窓が一瞬暗くなったんです。周りも高層ビルばっかりだし、東京の夜景が見れるような場所だから外は常に明るいんですよ。それなのに一瞬窓からの光が入ってこなくなったんです。えっ!と思って暗くなった方の窓を見たら、残ってた先輩に「作業しな。終電間に合わなくなるよ」って冷たく言われて作業に戻ったんです。

それからも全く同じ時間に外が一瞬暗くなるんです。9時40分過ぎに。でも、人間って慣れてくるもんで、何回も続くと気にならなくなってきて、なんならそれが起こったら「こんな時間か。そろそろ帰ろう」って時計代わりになってて。ある時、入社して2年目で一番年齢の近い先輩と残ってた時に「この時間あの辺一瞬暗くなりますよね。あれなんなんすかね」って言ったら「知らないの?」って全部教えてくれたんです。

賞にノミネートはされたことはあるけど、受賞はしたことがないくらいの小説家の人がいて、内容は素敵な小説だったみたいなんだけど、最近はやっぱり賞受賞しないと話題にならないから全然売れてなくて。書くのもあんまり早い方じゃないから一年に一冊も書けなくて。売れっ子の小説家って色んな出版社から年に何冊も出すことが多い中、売れてないのに年に一冊も完成させられないって文芸の編集者に結構つっつかれてたみたいで。そういうのが続いてたからか、ある日の打ち合わせ終わりの夜にうちのビルの屋上から飛び降りたって。それが9時43分。あれからその時間になると飛び降りの人が窓から見えるんだと。毎日、毎日繰り返し飛び降りてるって。もう見ない方がいいと。なんでも違う階の人は飛び降りてくるその小説家と目が合って精神的におかしくなった人もいるとか。もうみんなその現象が当たり前になって過ごしてることにちょっと気持ち悪さを感じたんですよね。自分もこのままここにいたら、感覚が麻痺してその飛び降りた人のことを何とも思わずひたすらに働く人間になっちゃうんじゃないかって。そのあとすぐに、青年誌の連載が決まってバイトは辞めました。そのままこの出版社に就職するなら口利きしてあげるって編集長に言われるくらいには気に入られてたんですけど、やっぱり違和感がぬぐい切れなくて。漫画打ち切りになった時はめちゃくちゃ惜しいことしたなぁって思いましたけど。


あっ、僕のペンネームですか?「リト丸水産」っていうふざけた名前なんですけど。一応、作品一覧がこれですね。スクロールしていいですよ。おっ、これ今20%オフになってますね。バーテンさんも僕の漫画買いませんか?えっ!これ買ったことあるんすか!テニサーの美女先輩とチョメチョメするやつでした?こういう性癖って自分の味わえなかった青春がもろに反映されるんですよ。バーテンさん、もしかして学生時代しょっぱい思い出アリな感じすか?


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