ハイハイ
ハイハイ商法って分かります?まだやってるとこあるんかなぁ?20年前くらいに流行った高齢者向けの悪徳商法なんやけど、公民館とかの狭いところにそこの地域のお年寄り集めんねん。最初に洗剤とかの日用品、ほぼタダ同然で売るんです。「これ欲しい方手をあげて!」って言って「ハイハイ」って手あげさせて「じゃあ、そこの声の大きなお母さん!」ってやんねんって。選ばれるとめっちゃ嬉しいらしい。散々安く日用品買わせたあとに布団とか健康器具を高額に売りつけるってやつ。タダも同然で色んなもん貰ったし、狭い空間に閉じ込められて出づらい空気やし、近所の●●さんも買ってたし、みたいなんでよう分からんもん買ってしまうらしいんすよ。
うちのばあちゃんも生きてる時にハイハイ行ってたみたいで死んでからばあちゃん家行った時にこんないらんやろってくらいの歯磨き粉とかスポンジとかむっちゃ出てきたんです。知らんメーカーの歯磨き粉でこんなんどこで売ってんねんって思っとったらハイハイで貰ってきてたみたいで。玄関には乳母車まであって、もう使う機会なんてあらへんのに。こんなんまでもらってきたんやって呆れましたわ。
それからうちの母親と一緒にばあちゃん家片付けによく行ってたんです。その時は大学生やったから時間は死ぬほどあったし。もしかしたら金目のモノ見つかるんちゃうかっていう期待もしつつ。まあ、そんなんはなんも出てこうへんかったけど。ある時からばあちゃんと仲良くしてたっていう近所のおばあさんが片付け大変やな〜って飲み物の差し入れ持ってきてくれた事があんねん。生前のばあちゃんの話なんかを聞かせてくれて、その中で「変な人形あらへんかった?」って言うんです。人形?信金から貰った干支の置物みたいなのやったらテレビの前にあったけど、他に人形みたいなんあったかなぁって思ってたんよ。それそのまんま伝えたら「なかったらええんよ、忘れてや」って言ってばあちゃん家からいなくなったんや。母ちゃんも俺もあの人なんやったんやろね〜でまた片付け再開したんです。
母ちゃんもパートあるし、俺も大学とかバイトがあったから月に二回くらいばあちゃん家に行って地道に片付けしとったんです。田舎の家やから無駄に広いし、荷物は多いしで大変やったわ。今思えば全部業者にお願いすれば良かったんやけど、あん時はそこまで頭回らんかったから。
ばあちゃん家の片付け始めて2ヶ月くらい経った時にまたあの近所のおばあさんが来たんよ。大量の林檎持って「親戚から毎年もらうんやけど、この年やと硬くてぎょうさん食べられへんからもろてや」って。母さんとありがたいなぁって言ってたら、「遠くからここまで来るんも大変やから私も手伝うで」って言ってくれたんです。金目のものももうないし、捨てるようなガラクタしかあらへんからって鍵渡して普段はそのおばあさんが片付けしてくれることになったんです。ゴミは居間にまとめておいてくれればいいからって言って。ええ人やなぁ、今度何かお礼せんとあかんな~って母さんと話してたりもしたんですよ。
それからばあちゃん家に行ったんは3週間経った時やったんやけど、家入ったら全然片付けされてへんかったんよ。なんなら散らかされてて。昔の子供部屋だった場所のタンスなんてひっくり返って倒れてて、押し入れの中のランドセルやら昔の工作やらが出されて散乱してて。母さんと二人で唖然としちゃって。まあ、そうは言っても片付けはしなきゃいけないからその散乱したものから片付けてたんですよ。そんなこんなしてたら夕方4時過ぎになっちゃって。夜になる前に帰ろうって言うてたら、「すいませーん!」って玄関から男の人の声がするんです。ここに訪ねてくるのなんてあのおばあさん以外にいなかったから、母さんと恐る恐る玄関に行くと50代くらいのおじさんが立ってたんです。
おじさんはあのおばあさんの息子さんだそうで、どうも認知症を患っていてばあちゃん家から色んなものを持ってきていたそうで。すみません、という謝罪の挨拶でした。実は部屋もひどく荒らされていてっていう話もしたらすごい勢いで謝り倒されました。あのおばあさんは今どうされてるのか聞いたらつい一週間前に亡くなったと。やっと家が落ち着いてきたところで、今日この家に車が止まってるのが見えて急いできたということやったんです。どうも子供の服やら人形を持ち帰ってきていたみたいで。返しますって言われたんですが、どれも捨てようと思っていたものなのでお手数じゃなければそちらで処分してもらっていいですって言ったんです。おじさんは「すいません、すいません」って終始謝ってて、こっちが逆に申し訳なるくらいに。なんでも、うちから持っていった木彫りの子供の人形に赤ちゃんの服を着せて、本物の子供を扱うようにお世話してたそうなんです。おじさんの家族もいよいよやなって思ってたらほんとその数日後に亡くなったみたいで。お線香をあげさせてくださいって言ったら、今日は遅いから後日来てくださいって言われたんです。
その次の週にはあのおばあさん家にお線香をあげに行ったんです。その時におじさんとその奥さんが少し話しにくそうに言ったんです。「あの木彫りの人形なんですが、実は近所のおばあちゃんがうちから持ってちゃったみたいで……」って。別にいらないんでいいですよ、って答えたらどうやら変なことになってるようで。そもそもその木彫り人形この辺のどこかのおばあさんが最初にハイハイでタダでもらってきたものらしいんですが、その人形をもらってすぐ死んじゃったみたいで、そうしたらそれを欲しがるおばあさんが出てくるみたいで、家の人もいらないからってあげちゃうんですよ。そうするとそのもらったおばあさんが次々死んじゃうみたいで。うちのばあちゃんは四人目だったみたい。おじさんもおばあさんが死んでから近所の人に聞いたみたいで。その時にはもうすでにその人形、近所のおばあちゃんに取られたあとらしくて。気持ち悪い話やけど、そんなの家にずっとあっても気色悪いしちょっとホッとしとるんですって言ってましたわ。
その日はばあちゃん家を片付ける気分じゃなくてそのまま帰ったんです。帰る時に車から外見てたら赤ちゃんをおんぶしてるおばあさんとすれ違ったんです。その赤ちゃん顔が茶色くてかくかくとしてて人間じゃなかったんです。もうこの地域には関わりたくないなって思って、ばあちゃん家の片付けは業者にお願いして家も売りに出しました。
多分あの木彫りの人形って今でいう呪物っていうやつだと思うんですよね。当時はそんな言葉知らなかったけど。もしかしたら今も誰かがお世話してるんかなって思うんすよね。場所教えます?兵庫の田舎なんすけど、取材とかします?




