第4話 王の威厳はやはり強い
宿屋を過ぎ、道中朝だからか人通りも少ない町中を道なりに歩行する。
城への道は真っ直ぐ直線に行けば着くレベルで何もない。この王国を象徴する城なのでなるべく目立たせる計らいが見える。
そしてその城への中央道の周りの家にはほとんどが商人がおり、行きゆく人それぞれに声をかけ自分の自慢の商品を紹介している。
「いい街ですよね」
「ああ。そうだな」
二人して鑑賞にひたり、声をかける人を断りながら代わり映える人や売り物を見つつ門の前までたどり着く。
門はよくある両開きの木の門。近くで見る門の近さには圧巻したが誰も戸を開けてくれない。
「あのー開けてほしいんですけど……」
マールが門を守る傭兵に話しかけ、門を開けるように説得する。
「いや今は関係者以外の立ち入りをご遠慮していますので……」
「そこをなんとかこの王国始まって以来の奇跡だから」
「そう言われましても……」
傭兵には任された仕事を遂行すべく、怪しい者を通すわけもなく、説得には応じない。
雇われの男らは困った顔でマールを見ている。モールも強情だからかこちらの用事を全うしようとし引こうとしない。
「マール一旦帰ろう」
マールの腕を引っ張り門から遠ざかろうとして傭兵から引っ剥がす。
傭兵は困り顔のまんま霧たちを見送る。
霧は会釈をし、申し訳のなさをアピールしその場を痕にしようとした。
門が開き、中から金髪のイケメンか出てきた。
「まあ待ちたまえ」
イケメンに呼び止められ一時退散する足を止め振り返る。
「門が騒がしいと思って来てみたらマールか」
「お兄様」
金髪は血を継いでいるようだ。
「この者は私の妹だここを通して貰おう」
「はは」と傭兵たちは頭を下げて、お兄様に連れられて門をくぐり抜ける。
門を越えてからは想像を絶していた。
城下町の雰囲気とは別物の国を感じさせるほどに中は緊迫していた。
中を守る騎士たちも険しい表情でお兄様以外は誰一人も顔が曇っている。
「なんで来たマール。今日は来るなと言っただろ」
「いや大事なようがあって……」
何やら城が騒がしいのにも理由があるようだ。
「シブーが倒されてこちらも急遽大忙しになってんだよ。ただでさえ他国間との関係で困っているのに」
この国は色々な問題を抱えてそうなやばい国かもという心配がよぎる話だ。
「そう。今回はそのシブーの件でここに来たの」
お兄様も妹の表情から以心伝心が出来たようですぐさま玉座まで案内されることとなった。
ただでさえ人前は苦手なのにいきなり王とはハードルが高いにも程がある。
最初の正門並に大きい扉に出会う。正門とは対照的に王を証明する赤色を主体として模様に金色で装飾されている。
「こっこれが王の間」
ボス戦前のような会話と反応。あまりのデカさと装飾の凄さは前の世界ではほとんど味わえない程の興奮を与える。
ファンタジーの世界に転生したからこその光景でスライムの光景とは違いそこには転生した喜びを与えられる。
「うんそうだよ。ここからは私語を慎めよ」
お兄様が扉を両手で開ける。
隙間からの光が次第に大きくなり、中の様子が明確に見えるようになる。
そこには玉座の前に円卓があり、そこに貴族ぽい人たちや大臣らしき人、親族やなんやらが集まっており会議が行われている。
予定していない登場だったからか誰しもが扉の方を見て、全員の視線が俺という未確認生物に注目される。
「今は会議中だぞ控えよ」
大臣らしき人物。この会議の司会みたいな人がこちらを注意する。
「待ってください。今の会議の内容に関わっている案件でして」
円卓がざわつく。隣の者に皆が顔を合わせて意見が飛び交っている。
「静まれ!」
王が鶴の一声で皆を黙らせて立ち上がる。そしてこちらに歩み寄る。
ゆっくりと静かなる歩きには誰もが魅了され、威厳を感じてしまう。
「「王様」」
兄妹が頭を垂れて、膝をつきひれ伏す。
その後ワンテンポ遅れて流れに合わせた霧に多少馬鹿にする円卓に座る人がいたが霧は気にしていない。
目の前にたっただけなのに、老人とは思えないほどの勝てない感。
威圧だけで既に負けを確信してしまう。
「面をあげよ」
さっと立ち上がる二人にまたしても一歩遅れて立ち上がる霧を横目に話が進み出す。
「こちらの者がシブーを倒した者らしいです。説明してくださいマールよ」
マールがことの経緯とこれまであったことを説明する。
その間にも霧のような貧弱で覇気もない男が本当に倒したのか円卓のざわつきは止まらなかった。
王はそんな中でも話を聞き続けて終わるまで待っていた。
「とのことから。こちらの者がシブーを倒したと……」
「そんなこと信用できるか!」
親族らしき人物が話に突っ掛かってきた。ただでさえ面倒な話し合いなのにも関わらず面倒が増す。
「そうだ!」という一声と共に次第に嘘をついているという流れに変わってしまう。
「確かにそういう意見もある。だったら証明すればいい」
王が話始めで声がしなくなり皆が自重する。
「俺はどうやって証明すればいいですか?」
「そんなのは簡単だともスキルを使えばいい」
スキルそれを持っているとしたら霧の中ではジャイアントキリングだけだ。
だが王が言っているのはそれではない。シブーを倒し、それにより取得した報酬をみたいという願望。
自分のスキルページを開く。
少し薄い青。水色を透明にしたような背景に霧の能力値やレベル、その他の情報まで書いていた。
100レベルを倒したのに2レベルという似つかわないレベルとほとんど一桁の能力値は言うまでもない。
ステータス割り振りみたいなのは出来ないがスキルを見ることが出来た。
スキルのタブを押すとジャイアントキリングの他に結界なんていうシブーの特徴の1つであったスキルが出てきていた。
「結界を使えばいいのか……」
独りでにこそっと呟く。周りの視線は全て霧という男に向いているのにことの張本人はスキルの使い方がわからず苦戦を強いられている。
「早く使いなさい。出来ないのか」
どっかのお偉いさんが急かしてくる。どうやら霧に恥をかかせたいという思念と信じたくない思いが交差しているようだ。
「使えばいいんですよね。結界発動」
急かされ勢いのまま結界を作り出す。透明な円が霧を囲み次第に大きくなる円に皆が一歩後退り。
半透明で完全に見えないわけではないがそれでも遠くに行けば見づらい。
「これで文句ないですよね」
皆が近付き本物かどうかを確認し始める。
叩いたり、蹴ったり、物をぶつけたり、どうにかして壊そうと剣で斬り掛かってくるものまでいる。
それを全て跳ね返し反動で吹き飛ばされたのは当然のこと。
確認が終わり、段々と諦め席につき始める。
「これでわかりましたか。俺はシブーを倒した者です」
今回はこれを主張しに来たのが目的ではないがあまりに用心深く、話が先に進まない。
ただでさえ急いでいるというのに中々帰してくれないのが現状。
「なるほど本当に倒したのだな。やっとか……」
「やっと?」
落ち着いた威厳と肩の荷が下りたような安心した態度に寒暖差を感じざるを得ない。
ギャプといえばそうだがその一言では片付けられないほど差というものを感じる。
「これでこの国は平和になる。是非とも君を歓迎したい。いや祭りを開きこのことを世に知らせたい」
今回の目的。本題にやっとたどり着く。
今回の目的とはそもそも目立ちたくわないがこの国のためにシブーを倒したことは言っていいが霧のことは口に出すなという話。
「そのことで話があります」
「なんだ。英雄」
「このことを公表するのはよろしいですが俺の名前を出すのは止めて頂きたい」
「ほう」と顎をさすりながら様子を伺う。
「目立ちたくないのだな」
「はいその通りです」
王はすぐに霧の意見を汲み取り真意を理解する。目立てばどこからか期待と要望が寄せられる。
そうなればこの世界も生きづらくなるのは目に見えている。
「まあそういうことなら名前は出さないがシブーを倒した件については王国側が倒したということにしてもよろしいか?」
この確認は全ての手柄を横取りされ、王国側は多大なる脅威と期待が乗っかってくることになる。
それだけには飽き足らず他国への抑止力にすらなるのは必然である。
100レベルを倒せるものが王国側にいるという抑止力は他国の判断及び戦争への一歩を鈍らせる。
「全然大丈夫です」
そんな重要な情報でさえもあっさりと譲ってしまう。
王国側の対応は喜び、今後の物事をスムーズに進めることに歓喜している。
皆が喜んでいるなか王だけが何故か不服そうであった。
「うーん。流石に何かお礼がしたい。このままではこの国はただの手柄を奪いとるだけの盗人国になってしまう」
王ただ1人だけがそれを軽視していない。このことは後々足枷となる情報だ。
英雄を無礼に扱い、そんな1人の男にさえも丁重どころか無下に扱ってしまう国。
王はそれを警戒し、他国に寝返られる可能性を無くす為に動く。未来を見据えている王だ。
「それではこちらなんかはどうでしょか?」
大臣らしき人物が王に耳打ちをする。
王は聞き、内容がお気に召した。護衛の兵士にその物を持ってくるように伝えた。
段々とその物の正体が明らかになっていくなかでまたもや騒ぎが起こる。
貴族たちがこぞって「そんなものをあげるべきではない」などの批判的な声が多数上がる。
それをものともしない王の行動には多少の批判が積もる。
「持ってきました」
兵士が両手で持ってきた物は剣であった。
洋風の剣。鞘はあり、両方切れるようになっている。
取っ手がかなり豪華で青く輝いている。
「この剣は今この国にある最高峰の剣で、この剣の一振りは山を断絶し、海を削り取る力があるといい伝えられています」
大臣が大げさぽく話し出す。
剣の歴史ではあったがそんな物があるのならばシブーを一撃で屠ることが出来たに違いない。
「どうかこの剣をお納めください」
剣を受け取ると剣の説明が表示された。
確かに同じような説明がされており攻撃力やなんやらで見れば霧の数値の100倍は超えている。
「これいいんですか?」
あまりの強さにこれほどのものを序盤に貰ってインフレが始まらないかを恐れている。
ざわつきの正体に気付いたところでこの国宝を一般的な英雄に上げるのは国の存亡に関わる。
「はい。こちらの剣は能力こそ高いんですけどだれも鞘を抜くことが出来ない代物でして……」
「だからお前のような強い者に上げれば鞘を抜くことが出来るのではないかと思ったからな」
大臣の言葉に王が被せにいき、中々の間の悪さ。
剣は鞘を抜けない最強の木刀。鞘を抜ければ逸話が光る。
国宝には呪いと伝承があったわけだが多分霧にはただの木刀である。
ジャイアントキリングによりダメージを与えることに成功した男は敵が強くない限りステータスは商人なんかと何ら遜色ない。
いずれにせよこの鞘を抜けるかどうかは断定は出来ない。
「じゃあこれにて会議を閉会する」
国宝を渡し終え、難題を乗り越えた王国側はこの会議をお開きにする。
貴族や役職を持った者たちが続々と扉から出ていき、最後の最後まで残されたのは霧達だった。
その大名行列とは逆の方向に進んでいこうとした。
「ちょっと待て」
王に呼び止められて、進む足を止めて王の方へ振り返る。
「いつかまた会おう。その鞘が抜けるようになったときに」
見透かされていたの如く霧の心情を的確に読み取り返す。
心に盗聴器でも仕掛けられたみたいで少し気分の悪さと使えないと分かっていても国宝を贈る男気に感動した。
その言葉を最後に城を後にした。
「キリよくやったね。まさか国宝を手に入れるなんて」
「マール。まだ城の中だぞそんな大きな声で話すな」
喜びと尊重を感じ、胸がドギマギする。
辺りの人々は誰も話を聞かず注目すらもしていない。
マールは再度周りを見てから話始める。
「キリどうするの?これから」
「また倒しにいくよ100レベルの奴らを」
城の中で繰り広げられる話。100レベルを全て倒すという宣言。
願いの為ではなく、自分の心の安寧のためである。
「君はあの逸話を信じているのだね」
ここでは逸話として知られている。
「ああ。100レベルのモンスターを百体倒すと何でも願いが叶うっていう逸話。俺はそれを叶える為にここにいる」
この願いを叶える為にレベル上げ+武器防具が必要になる。
その工程をすっ飛ばし今回はシブーを倒したわけではある。
「ふーん。キリって凄いやつだね」
マールは寂しそうに褒める。
「じゃあそろそろだね」
またここ正門に戻ってきた。
扉が開き間から眩い光が差し込む。
より一層見違えた景色と黄金色の夕日に心を打たれた。
腰にさした鞘をさすりながら城から出る。
「私達は城住みだから。じゃあね」
城住みというパワーワードにツッコミたいという気持ちが溢れ、それを心に留めて静かにその時を迎える。
「また会おう。英雄よ」
真っ赤な光源に包まれた兄妹は霧に手を振り送り返す。
英雄という言葉には重みと有難みが刻まれていてなんだか悪い気がしなかった。
「じゃあまた」
手を振り返し。バイバイと一言……言いかけて止まった。
別れの言葉はしんみりが強くなる。
トボトボ歩いたその道は一生忘れない思い出。剣と霧は夕日に向かって進んで行った。