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第3話微々たるものにも使い物なし

 暗黒に包まれた世界に光が差し込み情景が浮かび上がる。

 懐かしの記憶と遥かなる過去の思い出。光が次第に鮮明になり、情景に色が与えられる。


「ねぇ。お母さん叶えたい夢って何?」


 これはテレビ番組でやっていたある話が切っ掛けの質問だった。

 子供の何気ない質問にお母さんは微笑み、洗濯物を干す手を止め向かい合う。


「お母さんはー……霧の夢が叶うことかな?」

「えぇーなんかずるい」


 あからさまに逃げるようか回答に不服であった。何故なら霧は……いや俺はその夢を叶えて上げるのが多分このときの夢だったから……


「えぇーって何よ。じゃあ霧の夢は?」


 一瞬戸惑った。お母さんを喜ばせる質問だったのにこのままでは終わらない無限ループになってしまうと感じた。

 だがすぐに答えにたどり着いた。


「うーん霧はね。大好きなお母さんとこれからもずっと一緒にいること」


 率直な意見に驚いたお母さん。

 ニコリと笑顔でお母さんのことを見続ける俺。

 この空間を見れば誰しもが平和で微笑ましい思い出の空間だと言ってしまう。


「嬉しい霧そんなこと思ってたのね」


 人肌の温もりを感じより一層この場から離れたくないと思い出にしがみつく。

 だが思い出はそれを許さない。

 しがみつく俺を引っ剥がし真っ暗闇に引きずり込む。

 意識が覚醒していきやがて目が覚める。

 目を開けると草ではない感覚と全く知らない天井が目に入る。

 まずここは何処なのか周りを見ようと立ち上がろうとすると手が何かに当たる。


「うっーー。あれもう起きたの?」


 横を振り向くと知り合いですら友達ですら恋人ですら愛人ですら妻ですらない人間が俺の隣で寝ていた。

 手に巻き付くその女の子の姿は毛色がまるで違う美しい人だった。

 金髪の毛色に魅了され驚きも相まって声が出ない。


「おはよう。知らないところでびっくりしたよね?」

「あっああ。ここはどこなんだ?」


 思い出したかのようにここがどこなのか。そもそもスライムはどうなったのか。

 疑問を浮かべればきりがない。そんな疑問を一瞬で解決する女の子がいる。


「ここは私の家のまあ言い換えれば宿屋みたいなところ」


 木で出来た家に備え付けられた家具。ほとんどがベッドで埋め尽くされているため確かに宿屋ではある。

 続けて女の子は話す。


「君が森で倒れてるところを見つけて近くに家がなかったから宿屋に連れてきちゃったよ」

「お金を使ってまで助けてくれてありがとうございます」


 異世界は結構親切な人が多いのか?疑問に疑問が生まれる。

 対して女の子はまだベッドに寝っ転がったままでさぞかし眠かったことが伺える。

 寝っ転がっている子を横目に霧は上半身を起こしベッドから降りる。いつまでもそこにいたら足に根っこが生えるのはわかっていたからだ。


「よし。ここのお金どれくらいかかりました?」

「なに?まだ朝早いからゆっくりしていけばいいのに……」


 そうともいかない。女の子は険しい顔でこちらを見つめ、心配の眼差しを贈っている。

 一方こちらは死にかけのところを見ず知らずの人に助けて頂いたうえにこれ以上お世話になる訳にはいかない使命感と申し訳ない感。


「俺もやることがあるので……」

「やることって?」

「スライムが倒されていたか確認しなくちゃいけなくて……」


 明らか強いスライムだったのでもしかしたらあれだけでは倒せていないかもしれないからだ。言い訳をたれつつもどうにか逃げようと画策する。

 それを尻目に女の子は深刻な表情に変わる。


「この辺にスライムなんて魔物はいないよ」

「え?いや確かにいたはずです。青くてぶよぶよしてて100レベルのやつ」


 険しい表情だった顔が更に険しくなる。


「あなたあいつを倒したの?……あの重要危険魔物……結界のシブー」


 そんなにやばいやつを倒してしまったのか。しかも見た目スライムなのに名前はそれとは見合わずシブー。

 二つ名が結界ってのは結界を貼りながら歩いていたということなのだろう。


「シブーはただでさえ100族で強いのにも関わらず結界を壊すことの出来ないものには戦う資格させも与えられないのよ」


 霧は転生した直後にそこにいたから本来結界を壊してから戦いそこで勝たなければならなかったことを最初の工程を削除し、結界を残したまま戦ったということ。

 本来ない資格が不正により取られ、その残った結界が功を奏し勝利をしてしまった訳だ。


「まあ俺も死んでないし、あなたも俺を助けることが出来たのが何よりの証拠だけど……」

「確かに……じゃあ城に来てもらわなきゃ」


 急に展開が速まる。話の流れがほとんど見えないが1つだけ言えることがやばいことを起こしてしまったという事実。


「なんで行かなきゃならない?」

「このことはこの王国始まって以来の奇跡だからだよ」


 更に続けて……


「あのシブーは歩いているだけで人を虐殺し、見るものを全てを殺す殺戮者。やつを殺したとなればこの名誉は最高峰に値する」


 やつは結構悪い魔物だった。確かに発見されたら死ぬまで追いかけてくる執念とすぐに突撃してくる荒っぽさは殺戮者の名にそれこそ値する。

 スライムの速度を考えるに大した速さではなかったがそれでも不意打ちからの殺害が多かったのだろう。


「だから来てほしいそれを証明と報告のために」

「いやいかない。名誉を持つと生きづらくなる」


 有名人はそれだけで必ず人から注目される。その注目は良い方にもなるが、ましてや悪い方になったら最悪と言わざるを得ない。

 歩いているだけで監視され、どこをいくにも注目の的となる。


「有名人ってのは大変な奴らなんだだから俺はそんな奴らにはならないぞ」

「何を言っているのかわからないけど、でもこのことは報告しなければこのあと大変なことに……」


 王国側の気持ちを考えればその救世主を祝福し、崇め、喜ぶのが筋であり王国側の対応となる。

 霧はそれすらも嫌なのだ。同じ人間であるのに生活が制限され、自由を縛られ、自分の意見ですらも言えなくなるそんな世の中になってしまうのが嫌。

 異世界に来てもなお縛られる自由を誰が望むであろういや誰も望まない。

 自分の思考が固まった結果……


「報告は別にしてもいいよ。でも俺の名前、顔を公表するのだけは止めて。それを約束出来ないのならここで俺はあなたの口ごと閉じなければならない」


 一瞬黙って考えたが即座に答えを出した。


「わかった。いいよ。その条件飲むよ」


 渋々というよりは肯定的な感情。おそらくこのシブーを倒したという事実を公表出来るだけで王国側としては十分だと言える。

 利害が一致したからか霧と女の子は早速城へ向かい出した。


「そういえば君名前は?」


 添い寝していた仲であるのにも関わらず名前からとは順序を知らず尋ねた。


「私の名前はマール.リテアルよろしくね」

「俺は霧よろしく」

「よろしくキリ」


 自己紹介が住んだところで宿屋を痕にすることにした。

 宿屋の木の扉を開け、ひしひしという音と共に今日始めての太陽とのご対面。

 目が慣れておらず眩しく、美しく見える。


「気になってたんだけどなんで腕を掴んでた?」


 単純な疑問だ。初対面なのにそこまでした理由。


「君が泣いていたからだよ」


 夢に怯えていた。

 悲しさを少しでも和らぐためのハグだった。

 優しさと温もりに包まれたことは一生忘れない思い出となる。

 君がくれた思い出。

 宿屋を通り過ぎても忘れない記憶が刻まれた。

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