第1話 スライムよりも弱い君へ
この世は不条理だ。誰もが一度は思うことだと俺は自負している。
始まりの森と言わざるを得ない場所にチュートリアルを代表し、みなが知っている有名モンスターと相対した俺、巨番 霧は困惑している。
緑の見た目と液体なのか個体なのか分からない物質。目や口はついていない比較的リアルなモンスター。
近年では廃れた文化だが洗濯のりなんてものを入れるだけで作れる身近な存在。
もはや言うまでもないがそのモンスターはスライムだ。
ぶよぶよした存在感に圧倒などされるまではなかった。その姿を見るまでは……
「やはり見間違いじゃないのかよ」
視力1.5の俺でも見間違いを疑うほどの事実とは、スライムのレベルが100ということだ。スライムの頭上にあるレベル100の文字が俺をどん底まで突き落とした理由である。
俺のレベルが1で99レベルの差をつけられてここまで絶望しない奴はいない。
レベル上げをするモンスターなのに相手からすればMAXだとしないのなら俺は経験値はなんの足しにもならない雑魚人間。
転生したばかりの俺では荷が重いほどにスライムは強敵となっている。この森のボスモンスターまである。
「ひとまず言えることは……逃げろーー!」
なんやかんや考えた末に出した結論だ。スライムに背中を向ける男は俺が初めてでもいい。スライムにビビってもいい。恥ずかしさなんて微塵も感じない走りは感情があるタイプのスライムならドン引き物だ。
ただ俺は目的のために死なないこの男は執念だけで森の中をダッシュで駆け抜ける。木々という障害物の後ろに隠れ様子をみる。
ぺちゃぺちゃぺちゃ。
音のする方向へ木の後ろからひょっこり見る。
「おいまじかよ」
全然遠かった。予想以上に足は遅く走っても逃げ切れるくらいには。正直無駄な体力を使ったと思わざるを得ない。
「意外に遅いな足。いや液体か?」
高レベルなほど全ステータスが高いという訳でもないらしい。ただ元が弱いスライムではこのぐらいの強化にしかならないのか、本気を出していないのかなんて疑問はあるがひとまず転生した瞬間にゲームオーバーなんてものは避けることができた。
「じゃあこのままとんずらして他のところでレベル上げと行こうか」
この距離を保ったまま逃げようとした。スライムの速度では追いつけないほどのスピードを出し、このまま振り切ろうと走った。
ゴン。歩きスマホしている時に家や電柱にぶつかったような感覚に襲われる。
眼の前には木があることもないただの空気にぶつかり触れる感触がある。
パントマイムのように恐る恐る触ると壁があることに気付いた。
一度離しもう一度触り何度も確かめた。
「結界?みたいなのがある」
予想しゆる限り最悪の状況。この結界の中には俺とスライムの二人っきりの空間。
「逃げ続けるのも無理になったな」
この状況からスライムと戦いが確定し、逃げても体力が尽きるだけだ。
だから……
「せめてこいつを倒し、レベル上げをしないとな」
ポジティブに考え、気持ちが乗らないのを避ける。
とは言ったもののどう倒すかどうかは決めかねない。
物理攻撃しか出来ないがそもそも効くかも分からない。ゲームのスライムでは効かない奴もいるし、漫画でもそうだ。
「それよりも奴のステータスが問題なんだよ」
レベル100の奴を相手にする限り考えなければならないことだ。
思考を巡らせると1つの終着点についた。その答えはこの男に一筋の光明となり希望ともなる。
「もうこれしかないのかよ」
木の前から飛び出し、スライムの前に姿を表す。その瞬間にスライムは飛びついてくる。
目に見える速度で反応出来る程のものだが、油断せず横に飛び回避する。
回避と共にスライムを目で追い、背中を見せない。
スライムの行く先には先程俺の隠れ家であった木。俺に突撃した勢いのまま飛んでいき、木にぶつかる。
バッッッッキー。ぶつかった周辺は破壊され、木は折れる。
あの速さに似合わぬ威力に圧倒させる。この威力じゃあ一発でも食らえばゲームオーバーのクソゲーとかす。
もうスライムだと侮れない。100%の知恵でこいつをなんとか倒す。
「スライムよく聞いておけ。今からお前のことを倒す俺の名を」
策よりも先に自分を奮起させる。テンションを上げることで頭を活発かさせ最善の策を作る。
「俺の名は巨番 霧あの世でこの名を叫んでな」
会話の通じないスライムだろうとそう豪語する。相手は即時攻撃持ちの最強アタッカー。
それに加えこちらは一文無しの武器なし無能。脳だけしか勝っているところがない。
だからこそ俺の持っているスキルが輝く。この転生時に貰った俺のスキルがな。
「ジャイアントキリング」
スキルジャイアントキリングは敵とのレベルが離れていれば離れているほどこちらもそれに対応し強くなるというもの。
転生しステータスを開いたときに出てきていたスキルだ。
当初はこんな始まりの森で使うなんて思っても見なかったスキルだが今となっては最高のスキルだ。
力がみなぎる今なら世界最強のスライムの足元くらいの実力はある。ジャイアントキリングはあくまでたまたまが重なり通常では勝つことのできない相手でも勝つというものだ。
だから99レベル差でも足元程度までしか強化は起きず、結局のところジャイアントキリングせよということではある。
「足元だろうと勝ってやるよ最強のスライム」
風は向かい風、それでもなお立ち上がろうとするものにはなんの障壁にもならない。
それを吹き飛ばし追い風にする程には妥協と自信に満ち溢れている。
「まずは拳で迎え打とうか」
じわじわ接近するスライムにボクシングの構えをとる。
射程圏内に入ったのかスライムは速度を上げて、飛び込んでくる。
先程木を破壊する威力を目の当たりにしているのでこれを正面から受けるのは死を意味する。
「だから俺はここで敢えての見逃し」
突っ込んで来た方向は華麗に回避しそのまま後ろの結界がある方へ勢い変わらず突っ込んだ。
無音の空気が流れ、困惑する。
「結界が……ない」
結界にぶつけ、それと俺のパンチによる圧力アタックにより倒す算段が崩れた。
この結界は動いていることを見るにこのスライムの周りを取り囲む結界で強制ワン・オン・ワンを強いる鬼畜な所業。
「勝ち筋が思い浮かばん」
暗雲立ち込め雨も降り出す。ぽたぽたという音だけが結界外でなり続けこの結界の頑丈さを示すこととなる。