第10話 散々で屈辱
考え無しの突撃。相手より先に動くことでこの戦いの主導権を握る。
その動き出しに合わせてマールも進行しオークに放つ魔法の準備に取り掛かっている。
「おい。オーク呼んだのはお前だな」
オークとある程度の距離。遠くもなく近くもない距離。その距離を保ったところで急に止まる。
マールも驚くように急停止し、開始の合図を待つ。
「うおおお」
言葉の壁は越えることは出来ないが獲物を逃さない狼のように鋭く向かい合っている。
睨み合いが続く。この間合いを間違えればどちらかが攻撃を食らうことになる。
オークが食らう分には相手は大したダメージは負わないがこちらは一発でも致命傷に成りかねない。
1つ1つの行動を慎重に行わなければならない。
飛んだ。
先に動いたのはオークだった。主導権が移った。
飛び上がり上から叩きつけるように手を握り、その握った両手を振り下ろす。
慎重になり判断が鈍った霧の隙を付き、完全に結界を使わざるを得ない状況に持っていかれる。
「結界!!」
目の前に拳が当たる。
すれすれで間に合った結界を壊す勢いで殴ってきた。
この結界を壊すのがこのオークの狙い。この結界を壊してしまえばオークは怖いものがない。
このオークの力を持ってしてもしぶとく壊れない結界にこの戦闘は助けられている。
「マール撃て」
「言われなくてもそうするよ」
叩きつけている間に魔法を発射する。溜めていた火魔法は近くにあるだけでも暑さを感じ限りなく大きい火の塊を投げつけている。
「いけー!ファイヤーロック」
「んー絶妙にダサい」
ダサい魔法は回避する余裕を与える前に発射され、直撃する。
近くにいる霧も熱さを感じているため一旦下がる。追撃したいところだがあの燃え上がっている状態に攻撃しても諸刃になるのは目に見える。
火の塊が無くなるまで待ち、動かないオークを見守っている。
少しした後に火がなくなりその姿を見せる。ほぼ無傷。火傷を負っている様子もなくどこか温泉に入ったかのように少し赤色に変色している意外特段変わったところはない。
「おいおいどうなってやがる。こいつ強すぎだろ」
「うん。あの魔法も効かないとなるといよいよ勝ち筋が見えなくなってくるよ」
オークの強さが露呈してくる。霧たちの想像を絶するほど強く実際に傷を受けて欲しい場面では何度も無傷生還。
このままではオークを殺すどころか傷を付けられるかも怪しくなってくる。
空も雨雲のような黒い雲がかかってきて風よりも暗さが増していく。
通常時でさえも暗い空間が環境のせいで昼間に部屋の電気を消したときのような若干の暗さを与えてくる。
「やっぱりリベンジとは言っても一筋繩ではいかないか」
「私も百害は初めて戦ったからこんなにも強いとは」
戦って見ないとわからない相手だ。地上戦しか出来ないほとんど打撃しか出来ないような姿なのにも関わらず期待を裏切る。
脳を使い、その状況と分析により次の行動に変化をもたらせるオーク。
攻撃をすれば、手の内を見せれば、奥の手を使えば、それを全て対応していき最終的には追い詰められていく結果になる。
「あのオークにはスキルを使い過ぎないほうがいい。頭がいいから対応してくる」
「そうだね。実際私の使った技はほとんどかわされるし対処法もやってくるよ」
攻撃は出来たとしてもどんどん対応されていく、新しいことを見せれば最初は通用するがそれが次第に適応、そして最後には利用される。
ここまでの流れが出来上がるほどこのオークの戦闘に対する執念や美学が備わっている。
動作の1つ1つに意味があり、それが相手の誘導に繋がっているだから今もこうしてどんどん追い詰めさせている。
今霧たちが距離を詰める度にオークは一定の幅を保ちながら下がり続けている。
霧と戦った時は真ん中に居て、今回は円周に寄る。意図が見えない。
「「まずい一旦下がろう」」
異変に気付いたのは霧だけではなく、戦闘経験が豊富なマールもだった。
「なんだ気付いてたのか」
その異変の正体にはたどり着けてはいないが違和感があるという事実だけを鵜呑みにして一旦こちらも距離を離す。
オークは立ち止まる。腕を組みながら考え込むようにその場に静止している。
「やっぱり誘い込んでたんだ」
「そのようだけどなんでだろう」
複数相手なら路地裏などの狭い場所にして一対一を強制的にさせるという作戦もある。
だがここは見ての通り円状の木で囲まれた闘技場。
どう逃げても後ろには木があり、別に大したメリットにもならない。
多少のメリットとしては背を取られる心配がないくらいで、オークの実力なら霧たちから背を取られることは滅多にないと見える。
「多分木の枝がほしかったのだろうね」
子供のような出来心で遊ぶためにみたいな感じで取ろうとした訳では無い。
「さっきまで戦っていた私ならわかる。あのオークは木の枝を槍のように鋭く投げることが出来る」
武器確保を自然な流れで行い、隙を見て1人を倒せたらいいという作戦であった。
「オークはそこまで考えて動いていたのか」
「通常のオークじゃ、いや魔物全体でも考えられないくらい頭が良い」
そのことはこの惨状を見ていれば自動的に判断できることだ。
百害の1体という時点で殿堂入りではあるがそれを貰うに値するほどに戦闘という分野では遥かに強い。
ステータスで見たら見劣りする。何ならシブーのほうが結界がある分うまく立ち回れるだろう。
だが脳が違った。そこによるアドバンテージで見ればシブーはかなりの格下。シブーと同じような戦い方は通用しない。
「力でも勝てないがまずは頭脳で勝たなければどうにもならないな」
戦いの勝敗はどちらが先に戦況をいち早く察知し、それに対応し、最後に利用出来るか。それ即ちどちらのほうが戦略的思考かを対決する。
だがそう考えている間にも動き出したオーク。
オークはこの混乱した場を更に読めないように早めの動き出しにより霧の脳は追い付かない。
オークは霧たちが離れたのを利用して背中を見せて木の枝を取りに円周へ向かう。
「あっ待って」
その行動の意図を導き出した霧は追いかけるべく走り出していた。それを止めようとするマールを置いて。
足はオークのほうが速く距離は突き放される一方。
先に木にたどり着くのはオークだ。だが木の枝を取っている隙、この今後ろを向いている隙。
その隙が霧に取っての攻撃チャンス。
夢中で追う霧に死の宣告が待っていた。
ビューン。
空を切る音と同時の速さで目の前には木の枝が投げられていた。
音速を越え、光を判断している頃には間に合っていなかった。
「あっぶねぇ」
間一髪で防衛本能で発動した結界が木の枝を止めて死を免れる。
オークへ向いていた意識が完全に離れる。いつの間にか視界からも居なくなり円周を見渡してもマール以外の影は見えない。
「上!!」
マールの突然の叫びにより位置を知らされる。
木の枝より太い木の棒を持ち自由落下運動によりそのまま真下に落下している。
着地地点は霧の頭の上。結界を破壊し頭蓋骨諸共プレスする気でいる。
「風頼む」
この場所から動いても着地後の追撃を考えると流暢にしてられない。
少し自分でも動きつつまずは当たるのを避ける。
「ウィンドブースト」
真横に弾き飛ばされ、逆に霧が円周にいる形になる。オークを挟み込むような陣形になる。
ドッゴン。着地音は鈍く当たりが少し凹み威力で木々が揺れる。
「ここで魔法」
マールは着地の隙を見て防御のできないオークに溜めていた魔法を放つ。
「バクバクバクーム」
人間の体を余裕で上回る巨大な火の玉。その火の玉は遠くにいる霧の顔面にも熱風を与え、直撃する。
ドッゴーン。着弾と同時に爆発音が聞こえ火という単体で攻める安直とは程遠く爆発という四元素とは相容れないものを混ぜ込む外道。
スキルを蔑ろにする行為とはこのことであるだろう。
「やったね」
「そういうときは大体……」
爆発で立ち込めた砂煙の中に何やら動く影が見える。
それはノロノロと薄っすらと見えるところが濃くなって来ている。
「あぶない!」
マールに叫ぶ。嫌な予感に呼応し、鋭い棒が砂煙から飛び出し真っ直ぐ魔女の方へ向かった。
目では追いきれず、汗が滲みながらも首を魔女に傾ける。
瞬きが怖い。目を開いたままであれば視線を向ければ良かったが残酷な光景を自ら見なければならない。
瞬きが終わり真っ青な空しかこの視界の中には映らない。
「ありがとう。キリ間一髪だったよ」
「はぁー」
張り詰めた空気が解き放たれ、強張っていた顔も元通りに修復される。
となると気になるのはオークだ。砂煙がある場所を見ると影はなく姿ごと煙の中に消し去られる。
「狙われているのは俺か」
「ぶぉうおーーお」という奇妙な雄叫びが聞こえた瞬間には恐怖で足が子鹿になっていた。
遅かった。マールに投げたのは当たればラッキーの視線誘導。霧がマールを心配するという人間の心理をついた一手。
このことにより霧はオークから視線を外し、オークはそれを加味しての動きを行い見事成功した。
「キリ!」
完全に静止している霧を呼ぶマールだが間に合わない。
真横にいるオークはもう既に拳を振り下ろしていた。筋肉と筋の見えた血管、それが何よりの強さの証明であり蓄えられてきた素晴らしい努力だと思われる。
「結界」
身体全体を覆う。幾度となく見たこの景色にはオークも予想の範疇であった。
拳が当たる。そしてまた次の拳がスタートしている。連撃による結界破壊。
「ぶぉ」
2撃目をしようとしていたオークには手を止められた。
右側の腹に拳が突き刺さっていた。霧はオークに結界を貼りつつも攻撃に成功させた。
「この裏技を出すのはもうちょっと先立ったんだけどな」
それは暫く前の今日の朝のこと。
「とは言ったもののどうすればいいんだ?」
国の一存やら何やらと臭い台詞を独りでに語っていた。
その時ふと我に返った。
「今のまま挑んでもさっきの二の舞いだよな」
冷静さを取り戻した勢いを忘却せずに猪突猛進ではなく緊急停止。
勢いそのままだと今すぐにでも出発しそうな思想だった。
「こいう時の相場は必殺技だよな」
スキルは持っているのでそれを活かし生み出すことの可能な必殺技。
自分ならではの特別があることによって個人としての強さは格段に上がり動きとしても読まれにくくなる。
時間も無いのでさっそく必殺技作成へと取り掛かる。
その為にはスキル結界のことについて深く知っておく必要がある。
結界を自分の周りに展開する。
「結界の範囲はシブーよりは小さいけどベッドを囲むくらいの範囲くらいにはデカいか」
まだ力が未熟だからか小規模の範囲しか広げる事が出来ない。
これではただの邪魔なだけの硬い鉄。瞬時に出せるメリットと防御以外には何もできないデメリットを持つ。
結界について深く知った結果、髪を左手でくしゃくしゃにして、自分の不甲斐なさと実力不足を痛感した。
考えた必殺技結界を付けた状態で殴るや結界を使ったままの突進、シブーにやったピンボール作戦。その必殺技たちをオークとの戦いで得た記憶とシュミレーションを複数回の試行。
惜しい場面や瀕死まで追い詰めたなんて夢物語も享受されない。記憶であって少し贔屓が入っていた状態つまりハンディーキャップを背負っていたとしても何不自由無く霧を死に追いやる。
「こんなんじゃこんなんじゃ」
やはりこの環境に順応仕切れていない地球脳では想像力にも限界がある。
この世界での基準やれること全ての前提条件が不明。知識が足りずこのスキルの仕様、スキルの共通認識がわからない為固定概念から抜け出す事が出来ない。
シブーが使っていた技を自分に置き換えて代入しているだけそれだけでは脳のなく結界を張り続けながら突進しているだけの攻撃と変わらない。
あれが出来るのは力のあるシブーだけで真似したところで劣化版になるのは目に見えている。
だからオリジナルな必殺を作るのだ。今ある情報を取っ払い1から創造する気持ちでだ。
「もうシブーのことを忘れなきゃな」
ほっぺを両手で挟み込み衝撃を与えて脳を切り替える。
「俺ならではのやつを」
とは言ってもそう簡単に思い付く物ではなく考えることは分かっていてもそんなすぐに発想は降りてこない。
イメージが掴めるものがないかこの部屋にあるものをひたすらに荒らしていき、何か探す。
「何もねぇ」
流石に安価な宿には最低限のものしかなくアイディアになりそうなものは特にない。
ため息がこの部屋中に充満しているため一旦換気のために窓を開けて外を見物していた。
早朝でただでさえ活気のない街も際立つくらいには何も無い。
ただ一軒だけ品出しなどの開店前の準備をしている店がある。そこだけが今この瞬間においてのこの街の主役だろう。
「頑張ってるなぁ」
他人事に花を咲かせながらも主役の動向に目が離せない。
品出しを終えて、店内に売り物を並べていく。売り物はどれも野菜ぽい草や果実ぽいものなどの向こうの世界とは違う物を販売している八百屋のような店。
次に売り物を並べ終わると値札が次々と付けられていく。果物が銅貨2枚、野菜が色々ある中で一際目立つ売り方がされているものがある。
「セット販売?」
果物、野菜などなどが合わさった商品。他の商品よりは値段は高くなっているが個別で買うよりは遥かに安いお得な商品となっている。
他の商品の合計よりもわざと安くすることでのお得と思わせて買わせるのが狙い。
「実際このラインナップを見ると買いたくなるな」
そんなインスピレーションも湧くはずもない日常風景に突如意味を見出し霧の脳に刺激が与えられる。
「そうかこれだ。これがこの売り方がヒントだったんだ」
結界を発動する。
自分全体を包み込みこれがシブーの使っていた全ての攻撃を等しく守り逆に攻撃にも転じる結界の使い方。
「だが個別でも使えるんじゃないか?」
そうあの風景から手に入れたのは個別というアイディア。
あの売り方は個別しかいらない人は個別だけを買うのだがいっぱい買う予定だった人には嬉しい誤算だ。
あのセット商品にはターゲット層が指定されていてそれが家族などの沢山の量を所望している人たちであるためだ。
この考えは攻撃にも応用できる。
全ての攻撃を全体防御で守るのでは個別しかいらない客にもセット商品しか並べないのと同じでそれでは個別購入の客が店に入らない。
大量の守れない量の攻撃が来た時には全体を包み込むいつもの結界。それとは違い一点集中を狙らわれた攻撃には少ない結界で対応する。
そうすれば結界を貼った状態での攻撃も可能になる。
「ピンポイント結界作戦だな」
作戦は出来たところで練習に入る。実際は出来るかも分からない作戦だ。
だがそんな固定概念もすぐに取っ払われた。
想像で構成された結界を目の前に発動させる。いつも結界のほんの一部だけを取り出すような感覚。
「あっ出来た」
いとも容易く行えてしまった。周りを包み込む結界の範囲内なら何処でも一部だけの結界を作ることが可能になる。
この後部屋を飛び出しそして今オークへの攻撃を成功させた。
「起き上がれよオーク。そんなもんじゃないだろ」
腹に食らった攻撃だけでオークは膝立ちになり悶えている。
それを余裕の表情と勝ち誇った顔で待ち構えている霧。形勢逆転の構図が成り立ち、昨日とは打って変わっている。
「昨日まで効かなかった攻撃が効いてる」
「ああそれは個別結界の応用だよ」
悶えている原因となった攻撃にはとある細工が施されていた。
拳に強化のエンチャントをしたとかではなくメリケンサックの要領で自分の周り1メートルくらいならどこにでも発動出来る結界を手の前に発動させる。
その拳の前にある結界を拳との距離を数cmに保ちつつ勢いのまま殴る。
するとジャイアントキリングだけではない強化を与え、結界の堅さが味を出して攻撃と防御を兼ね備える主役級のスキルになる。
「うおおぉ」
そう説明している間に急に立ち上がり不意打ちで事を仕掛ける。
今までに無かった状況に僅かな焦りが見え始める。こんな無闇な不意打ちを炸裂させ拳を振りかざしている。
「不意打ちは効かない。お前ならわかっている筈だ」
反応が間に合えさせすれば結界は瞬時に発動することが可能だ。
実際にオークの拳は霧の狙っていた顔面には届かず寸前よりも前の反応された地点立ち上がった頃ぐらいには止められていた。
立ち上がらせた余裕は相手に不意をつかせ油断を炙り出す為の肉を切らせて骨を断つ自傷作戦。
「反撃だ。ここからはノーダメージだ」
結界を纏わせる。拳に纏った結界は拳よりも大きいサイズにはなっているがそれもオークが拳を合わせて来た時のガード専用。
何十もの策を張り巡らせて盤上は整い初めてのいる。チェックメイトまであと少しだ。
拳をオークの腹掛けて繰り出す。一発目に当てたん場所と全く同じ場所。
2度も殴ることで腹部の器官損傷を狙っている。1つ1つゆっくり追い詰める蛇のような策略にオークも冷や汗を見せ後退り。
しかし、それも間に合わず腹部に打撃がそして結界が破壊を促した。
「ぶおおおおおおお」
威力はなく、飛ばされたりすることはあり得なかったが結界が腹部を破壊した。
完全にオークの腹部は凹み器官はある程度損傷していると見て間違いないだろう。
「まだ終わってない立てよ」
もはやどちらが威圧を持っているかも見当がつかないほどにオークは動かずただ下を見ている。
「キリ流石だね。でも一旦落ち着いたほうがいい。ここは何かがおかしい」
マールから見た霧は先程までとは立場が変わり補食側に回ったとはいえ戦闘スタイルもこの戦いの雰囲気も全てを変えてしまった。
三人称視点だと完全におかしいと何かを危惧している。
「大丈夫。このまま勝つから」
笑顔で返し何事もなかったかのようにオークの前に立ちはだかる。
見下しこのままカウンターで終わる。
相手が興奮している隙に手痛い一撃をお見舞いする。それが霧のセオリーであり、この戦闘のプラン。
静けさが不気味さを感じ取らせる。落ち着いているようで暴れている。何も思考していないようで熟考している。
対義語を正しく表現したような空間。雰囲気だけでホラー映画冒頭の不気味さが視界に入ってくる。
オークからの攻撃動作。後ろに回し背中で隠れた手から最大威力の溜め攻撃。結界を一撃で壊せる攻撃はこれしか無いと踏んでの意志からだろう。
さあ来いと身構え、完全に準備が整い受けの姿勢に入っている。
オークはその身構えの心を読んでか、それとも偶然か、丁度準備が終わりタイミング良く攻撃が開始された。
「危ない!ウィンドー!」
体がフワッと浮き上がり、重力に逆らう反逆者になった気分に陥っている。
その反逆者とはいうとオークの動向を伺っていた。何をもってマールが危ないと危惧していたのかそれを確かめる為に。
オークは繰り出したのは拳ではなく、その手の指が掴んでいた木の枝だ。
死角で見えていなかったのと攻撃手段は今の状況的にたいあ決めつけと固定概念。
それらを全て掌握する興奮状態。
全て合わさり起こってしまった霧本人の責任である。
木の枝が投擲され、その行く先に人一人いなかったお陰で幸い木に刺さる程度で済むことが出来た。
「ありがとうマール」
「やっぱりなんかやってたね。完全に油断を誘っていたね」
相手はこの戦いについて熟知していて、霧は無知であった。
この戦いはボクシングのようなリング上で行われる正当な戦いではない。
何でもありの実力でのバトル。それを頭では分かっていたがいざ戦って見ると理解には及んでいなかった。
不意打ちなんて当たり前で今まで行われて居なかったのが布石かのように作用しわざと油断という攻撃のスパイスを待っていた。
「キリやっぱりこいつはここまで計算しつくしているもう油断は出来ないよ」
頷き気を引き締める。この考え方では身を滅ぼし兼ねない。
油断大敵という意味を初めて心で読み取った気がした。
ウィンドが解除され、重力のまま地面に落ちていく。それ程の高さではないためダメージはない。
「ああ分かってる」
恐怖が芽生え始める。もしあの木の枝を結界で受け止めていたらなんて悪夢を想像すると背筋が凍る。
あの木の枝は結界を貫通し、それでもなお体に風穴を開ける程に強い威力が出る。
「うおおおぉ」
威圧を繰り出した。恐怖をいち早く察知され対応される間もなく瞬間的に発動した。
これは頭脳というより本能がこの戦いに勝利するためだけに脊髄でこの恐怖という感情そのものに反応した。
「マール!」
助けを呼んでいた。他力本願的思考。この威圧は心がオークに勝っていると思うか誰かに魔法で救って貰うかそれ以外では手段はない。
感情のない魔物や恐怖を感じない人間には効果は得ないが基本的に殆どの魔物、人間にも通用する万能スキル。
助けを懇願するも虚しくマールは地面に降りており、同じく恐怖を感じていたと見える。
「オークから目を離すな」
オークの方へ視点を動かした。
オークは距離を取り完全に逃がし、それに木の枝を手に入れることが出来た。
そして今最悪にも投げる動作が終わる直前の絶望的シーンに向かい合ってしまった。
恐怖が再来し硬直が増す。頭の中に走馬灯よりもこの先に起こってほしくない最悪の場合を繰り返し流れている。
結界を張る。どんなに抗おうともやる工程は変えることが不可能で結界を張ること以外の選択肢も存在しない。
一番怖いのはこの最高が打破されこの木の枝を誰も止めることが出来ないという絶望。
願いを込めて発射された木の枝と立ち向かう。
「くっ」
どんどん大きくなる木の枝に結界がぶつかる。バリンなんて割れたような音。その前にはもうぶつかる手前くらいには目をつぶり死ぬなら暗黒のまま迎えたかった。
だが絶望が希望へ変わり、暗黒から光が差し込んだ。視界が良好になる。
開けると目の前には木の枝がギリギリで止まっておりあと数センチで死んでいただろう。
結界を解除し、そのまま木の枝を落とす。
するとオークは次の投げる動作に入っている。霧に投げようとも簡単に守ることが出来る。
この攻撃にさえ耐えることが出来れば反撃に転換することが出来る。
結界を張る。またこの工程で今回はぶつかった瞬間に攻撃を開始する。
この相手が動ける絶対的領域に油断している隙をつき、次の攻撃で確実に致命傷を与える意思を向ける。
投げられた木の枝が結界にぶつかることなく、霧の横を掠め取る。
「マール行くぞ」
返事が聞こえない。外した木の枝の行くへを探る。
マールの方向へ……
「マール?」
血は所構わず真っ赤で霧が最も嫌いな色であるだろう。赤色から連想される様々なことが全て収束され1つのだけが目に映る。
腹付近を木の枝で貫かれたマールという死の瀬戸際を彷徨っている女性だ。
このままでは確実に死に至ると浮かん時には体は追撃をやめ、目的地も変更された。
「マール!大丈夫か!?」
「何をしているんだ?さっさと迎ってよ」
途切れ途切れで息遣いも荒く、この状況に霧はただ唖然に満ち溢れている。それ以外の要因は消え去り1つのことに集中してしまう。
「もう喋るな。俺のせいで……」
自分を責めて目の前で死にゆく死体に言葉を寄せている。その死体から頬を触られてその手からうっすらと感じる温もりが心を落ち着かせる。
「まだ悔やむな。まだ戦いは終わってないだろ。悔やむのはその後だよ」
こう感動シーンの中でも空気を読む訳でもないのがオークだ。こちらが背を向けている隙に投擲による追撃でチェックメイトを狙っている。
ドンと鈍い音が霧を守り果たした。
「おい黙って待っておけ。今行くから」
威圧により後退りをするオーク。
霧はマールをこの円の戦場から出し木に立て掛けておく。見える範囲で少しでも直ぐに終わったら駆けつけられるように……
その時運んだマールはダイエットに成功したと思わせるくらいには軽かった。
「おい。オーク覚悟はいいか?」
「うおおおおおおおおお」
雄叫びを上げるオーク。威圧混じりの虚勢も意味を成さない霧の怒りとアドレナリンが感覚を麻痺させる。
威圧などもう食らう訳もなくマールの弔いを兼ねた復讐にどっぷり使った心でオークを見続ける。
気持ちは、ある一時を経て真逆まで変わってしまった。
オークとの一騎打ちになった。




