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第9話 負け犬らしさ

 負けてからの記憶はあまり覚えていなかった。マールに連れられてながら運ばれる惨めさを噛み締めていた。

 それだけが景色よりも鮮明に覚えていた事だった。

 宿屋まで帰還しボロボロの状態での入室となった。血は大量に流れ出て意識もはっきりとはせずそれでもまだ途絶えず霧を繋ぎ止めていた。


「大丈夫か?キリ」


 

 首を横に振る。下唇ながらベッドに横たわらせられる霧は頭を回復して貰っていた。

 四大元素のどれかはわからないが兎にも角にも後頭部の痛みが和らぎ癒えるような感覚がする。

 痛みが引き、それと同時にアドレナリンも無くなったからか意識が朦朧としそのまま眠りについた。


「寝ちゃったか」


 マールは誰にも聞こえていない声でそういう。安心したように……

 朝が来たようだ。この前と同じように日差しがまぶたに当たっている。

 目を開ける。眩しいから目を細めながらも段々と覚醒していく意識のなか昨日のことも徐々に思い出してきた。

 忘れたくない記憶だ。


「マールは?」


 またベッドで添い寝しているのかと思って見てもマールはいない。それどころかここに居た痕跡がない。

 荷物などもなくこの部屋に居るのは霧1人という訳だ。

 ズズズと鼻をすする音。花粉症の影響とか風邪とかではなく霧の悔し涙が原因であった。

 負けた悔しさなんかはどうでもよくマールを実質殺しかけたそれだけが霧を悔しさまで持ってくる。

 誰もが百害と渡り合えるなんてことはなく、実際霧のスキルを用いてもかなりの差はある。

 それなのにただの一般人に百害を相手出来る程の強さがあると言われればないのが当たり前だ。

 それを分かっていても自分の強さに傲れ、慢心し、一回の百害勝利から経験値も積まずに来た努力知らず。

 天罰が下りこのような失態となったのは言うまでもない。


「ああ。くっそ」


 拳を握りしめ太ももに八つ当たり。涙が溢れる最中も止まらない太ももへの猛攻。

 何度も叩いている内に怒りと悲しみは収まっていきやがて止まる。

 ベッドから起き上がり床に寝っ転がる。意味不明な行動だが霧はそのまま目を閉じる。


「お母さんが言ってたっけ。物に八つ当たった時には床で頭を冷やしなさいって」


 冷静になるには冷たい床で頭を冷やすことと意味だ。

 今太ももを叩いているときに唐突にそれを思い出した。何気ない記憶だ。霧が怒っておもちゃを投げたときに言われたセリフだ。


「やっぱりお母さんは正しかったな」


 冷静になりながら泣く。急いでいるあまり気が動転しすぎていた。

 願いという欲望の実現のため他人や自分の命を軽視するそれの借金が回ってきた。今回はこれぐらいで済んだが次はこう上手くはいかない。

 もしもあのオークよりも強い魔物だったら、もしもマールがいなかったらというタラレバがある限りこの失態は心に突き刺さる。


「よかった。よかった。本当にまだ生きてて」


 欲望に振り回された霧は自信の状況を冷静になり客観視することができた。

 だからこそ冷静になった今だからこそもう一度あのオークに挑もうと思える。

 あのオークの二つ名を覚えているだろうか。ダンジョン破壊のオークその二つ名を持つオークがもしも近くに間違いないあるとしたら破壊衝動を抑えることが出来るのだろうか。

 そう考えただけでゾクゾクしてしまう。武者震いではなく恐怖。この王国が救われた途端に壊滅までいく。

 その未来への予兆があのオークと言えよう。

 オークは必ずこの王国までくる。魔物がどんどん逃げているのはそれが原因だ。次は人の多い場所にいき、虐殺となる。


「今度はみんなを守るために国の一存のために……」


 抜けない鞘を腰に掛けて出発する。もう死なない対策や必殺の前にこの国の運命がかかっている負けられない戦いというだけでもう十分である。

 霧の気持ちは高ぶり、さらに興奮しながらも落ち着いていてオークを倒すという意志だけが一貫して思い続けている。


「さあ行こうか」


 扉を開けて部屋から出る。また宿屋の店主に会いに行く。


「すみません。お金を……」

「お金ならもうお連れの方から貰っておりますよ」


 不思議そうな顔をしながら話している店主にこちらも驚きを隠せない。


「先に行っていたのか……」

「では頑張って来てください」


 何かを悟っているかのようにその定型文は諭してくる。

 最後の宿屋を跡にして森へ向かう。レベル上げをしたあの森へついた頃には昼は過ぎていた。

 ゴブリンなどもう一匹もいないこの森はもう荷造りを済まされた廃墟のような静けさを誇っていて、本当に魔物は全てあのオークから逃げたようだ。

 ここまでも威圧が届いている。全然近くないのに霧を挑発しているように霧をオークのいた森に誘ってきている。

 もう一度戦おうと今度は邪魔無しにと言わんばかりに威圧を響きわたらせている。


「招待制だったってわけかよ」


 森を歩きながら目的地に近付いていこうとする。威圧の強さと前来たような道のりを辿ってどんどん森への接近する。

 それらしき森が見えてきた。ここにもたった1体の魔物以外の存在など感じぬままに。

 森に入った途端威圧が収まる。家に侵入した気配を感じたのか騒々しさだけがこの森に残った。

 辿ってきた道の1つの足跡を辿りこの森の最深部へ向かう。

 あちこちにある壊れた木々と周辺に戦った痕跡が目印となりオークの居場所の目安がわかる。


「こんなにもこの森は酷い有り様だったんだな」


 今更ながらも昨日からオークという怪物の前兆があったとなると注意が散漫していたと後悔するのは否めない。

 歩きながら次第に酷くなっていく痕跡と足跡を頼りに進んでいく。


「そろそろだな」


 木々が折れて来ているあたりそう考察する。

 ドッガン。鈍い音が周囲に響き渡る。静かな空間に木々がその音を集中的に反射して霧の耳まで到着する。

 他にもオークの場所から抗戦している音が聞こえてきていて明らかに誰かが意図的にオークと戦いに行っている。


「あのオークは強い流石に1人での攻略は難しいぞ」


 自分の過ちを反面教師にして共闘するために走っていく。

 いかに速くつき愚か者を助けに行くことが出来るかそれによってこの戦いの勝負を分けると確信する。

 1人では勝てない敵も二人ならあるいは最も応戦していれば犠牲は伴いながらも勝利へは近付く。

 光が通りづらい木々を抜けてあの闘技場に足を踏み入れる。光が眩く差し込んで一対一の決闘が視界に入る。


「マール?」


 知り合いというか戦友というか恩人というかどういう関係かよりも何故マールがここにいる。

 霧より先に部屋を出て、王国へ向かったと思われていたマールは霧をおいて百害のオークと戦っていた。

 マールはいつからの戦闘なのかは皆目検討もつかないがとにかくマールは手負である状況にあるのは確かである。

 空を飛びながら頭から血を流し、左足には木の棒が刺さっていて、それでもなお魔法を放ちオークにダメージを与え続けている。

 因縁もないマールがどうしてそこまで必死なのか疑問は残る。


「ファイヤーレイン」


 炎が空から落ちてきて広範囲に渡り辺りを焼き尽くす。

 オークはそれを華麗に避けながらサイドにある木の枝をへし折りそれを宙にいるマールへ投擲する。


「オーク!!」


 マールは木の枝を風の力で吹き飛び回避した。それに合わせて霧は物理攻撃を仕掛ける。

 ジャイアントキリングはもう発動しており、二人体制でオークを討伐する。


「キリ。なんで来たの?!」

「それはこっちのセリフだよ。なんでこんなところに?」


 オークに拳がヒットし、意識外からの攻撃のため防御が間に合わず最大打点。

 オークは叫びだし動きを止めてくる。

 威圧により二人共動けなくなり絶体絶命。オークは霧に攻撃を開始している。

 このままではあの時の負けのように連撃をされて結界が破壊される。

 あの悪夢が頭によぎる。


「ウィンドジャンプ」


 霧は風により空に飛ばされて、それと共に悪夢も吹っ飛んだ。

 着地して威圧が解けた。


「積もる話はあるが一旦は目の前の敵に集中しよう」

「同感です」


 再び戦闘態勢に入る。リベンジマッチが始まり、威圧により呼んだ張本人もウズウズしているようだ。

 空を飛ぶマールと地上戦の霧、百害のオークの決戦は木々もざわめきを強めて、静けさが消えた。

 真っ先に飛び出したのは霧であった。

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