表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/22

第一話

初投稿です。右も左もわかっていませんが、よろしくお願いいたします。




「チェルシーと申します。……今日からお世話に、なります」


 小さな声が震えていたのは、緊張のせいなのか。それとも、俺の顔を見て怯えたからなのか。まあどちらでも構わないかと、気付かないふりをした。


「ああ、よろしく。見ての通り、俺は今こんな状態でね。ろくに動けもしないから、世話になるのは俺の方だと思う。まあ、けど、それを義務だとは思わなくていい。できる範囲のことは自分でするし、ちょっとやそっと放っておいても死にはしないから、君も好きに過ごすといい。なるべく手間はかけないようにする」


 投げやりな言葉と態度を飲み込むのに時間を要したのであろう。チェルシーと名乗った婚約者殿が「わかりました」と答えたのは、たっぷり十秒経ってからだった。




 俺の話をしよう。名はオズワルド、歳は二十四。俺はこの国で宮廷魔導士という職に就いていた。正確に言えば今も一応は現職だが、身体上の理由で休職扱いになっている。


 魔法で発展してきたこの国において、宮廷魔導士は誰もがなれる職業というわけではない。一応国家資格だし、厳しい試験もある。魔法が使える者の中でも特に魔力量が多く、秀でた術を使える人間だけが就ける仕事で、試験に合格すれば基本的に国の魔導部隊へ配属される。仕事内容は様々だが、ひとつ確実なことは、魔導部隊では在籍する魔導士の中でもっとも優れた者が隊長に選ばれるということ。そして、俺は現在隊長を務めている。休職中だが。


 ともかくそう、つまり俺はこの国一番の魔導士だということ。


 さらに、充分に自覚があるので言わせてもらうと、俺は魔術だけでなく容姿も優れていた。プラチナブロンドの髪は特に手入れをせずともさらさらだし、目鼻立ちも整っているし、背も高い方だし身体もそこそこ引き締まっている。うっとりした顔で「エメラルドのように輝く瞳ですね」と言われたことも一度や二度ではない。


 まあ、モテた。男には能力で、女には容姿でちやほやされることが当たり前だった。しかも、ずる賢い性格の俺は驕ることなくしっかり猫を被っていたから、なおのこと。「あいつは素晴らしい魔導士である上にとても謙虚だ」とか、「あの美貌を持っていながら浮いた噂もなくすべての女性に平等に優しい」とか、そんなふうに言われていると知っていたし、言われるように狙っていた。この顔でにこにこしているだけで勝手に評判が上がるのだから、それに越したことはない、と。そのお陰か、歴代最年少で魔導部隊の隊長となったときにも、目立った反発ひとつなかった。


 さて、そんな国一番の魔導士である俺は今、ベッドでほぼ寝たきりになっている。理由は、先日のある大きな戦い。そこで勝利と引き換えにほとんどの魔力を失った。ついでに美貌も失った。




 この国には魔獣が存在する。自然に湧き出る瘴気に当てられた動物が変化したもので、小型のものなら物理でも倒せる。だからたいていは騎士団が討伐しているし、騎士団が手に負えないものは、より高度な魔法が使える魔導士が同伴することで対処してきた。しかし、おおよそ百年に一度の周期で、瘴気が異常に濃くなるのだ。厄災の年、と言われるその時期に生まれる魔獣は数が多く、並大抵の人間の手に負える強さでもない。さらには群れを成すこともあって、土地を浄化しなければすぐにまた魔獣で溢れる地域もある。


 魔獣の討伐のみならず、土地の浄化まで出来る者というのは限られている。かなり希少な聖属性の魔法が使える存在で、中でも瘴気が濃くなる周期に呼応するように生まれる力の強い女性は『聖女』と呼ばれた。


 なぜ一定周期で瘴気が濃くなるのか、なぜそれに応じるように国中の土地を浄化して回れるほど魔力の強い女性が生まれるのか、理由は解明されていない。ただ脈々と続く歴史が、そういうものなのだと物語っているだけ。




 さて。実はこの一年が厄災の年だった。国のいたるところに魔獣が現れ田畑を荒らし、人に危害を加えていた。俺は魔導部隊の隊長として魔導士を派遣しつつ、自身も魔獣の討伐に加わっていた。今世の聖女とともに。


 聖女の名はリリー、歳は二十一。聖属性の魔力持ちを多く輩出してきた伯爵家の長女で、俺と同じプラチナブロンドの髪をしている。この髪色は魔力が強い人間に現れる特徴で、今の伯爵家には彼女ほど輝く髪を持つ者はいない。弱い聖属性魔法を使える者は多いそうだが、それでも彼女の家族はみな淡い栗色の髪だ。

 リリーは非常に優秀だったし愛想もよく、多くの人から慕われる、まさに『聖女』だった。そんな彼女と俺の婚約話が持ち上がったのは、魔獣が増え始めた一年ほど前のこと。来る厄災の年に聖女と国一番の魔導士が力を合わせ戦い、瘴気を祓ったのちにめでたく結婚すればなんとすばらしいことだろう、と神輿に乗せられただけだった。しかし、孤児院の出で成り上がった俺にとって伯爵家との繋がりは願ってもない話だったし、強い魔導士の血を入れたい伯爵家にとってもそれは同じだったのだろう。あれよあれよと話は進み、無事に厄災の年を乗り越えた暁には結婚しましょうと相成った。


 リリーとの関係は悪くなかった。俺は彼女に対しても猫を被ったままだったので、いつだって彼女を気遣い、敬ってきた。彼女の方も、べたべたなれ合うことはなくても俺に悪い感情を持っているふうではなかったし、このまま順当に結婚するのだろうと思っていた。しかし。


 先日、ある村に大量の魔獣が出現した。数も多い上に、熊が瘴気に当てられたような大型の魔獣までいて、魔導士を派遣してもなかなか倒せないと言う。他の地域では魔物の数が減少していたこともあって、この土地を浄化すれば厄災の年も終わりだろうと思いながら聖女とともに村に向かった俺は、そこで聖女を庇って顔面に大きな傷を受けた。村の状況はこれまでのどこよりも酷く、濃い瘴気が立ち込め大型の魔獣で溢れていたのだ。左の頬から右上に向かって魔獣の爪が走り、激痛に耐えながら魔力を振り絞って特級魔法を発動、一帯の魔獣を殲滅。隙を見てリリーが土地を浄化したことで、戦いは終わった。


 同行していた魔導士によってすぐに治癒魔法がかけられたが、顔の傷は綺麗に治らなかった。傷自体は塞がったものの、大きな跡が残っている。どうやら聖女に向かってきた魔獣はかなり瘴気を溜め込んでいたらしく、その瘴気の名残のようなものが回復を妨げているようだった。リリーが聖魔法で瘴気を祓おうとしてくれたものの、今度は塞がった傷の方が瘴気を逃がさない。リリーの聖魔法と同等の治癒魔法を同時にかければあるいは、と思われたが、彼女と同じレベルの魔力を持っていたのは俺だけだったし、特級魔法の発動によって、その魔力もほぼ尽きている。


 数年単位の時間をかければ、魔力も完全に戻るだろう。厄災の年も終わっただろうし、しばらくは隠居生活を楽しんで、いずれ顔は治せばいい。魔力の枯渇により自力で立つことすらできなくなった俺は呑気に構えていたが、王都に戻って数日後に届いたのは一方的な婚約破棄の知らせだった。


 魔力も美貌も失った寝たきりの婚約者など不要ということか、あの女。人々から愛される聖女の仮面の下になかなかいい性格を持っていたもんだと思いながら知らせを読み進めていくと、なんと、代わりに実の妹を婚約者として寄こすと書かれていた。いくら俺の方には後見がないからといって、一方的にもほどがある。そうしてやってきたのが、先ほど震えた声であいさつをしてきたチェルシーだった。


「君の部屋はここと真反対の角部屋だ。まあ、そこ以外も好きに使っていいし、屋敷の装飾なんかも気に食わなかったら変えていい。休職中の身とはいえ先の功労のおかげで給金も出る。人が多いと落ち着かないから使用人は最低限しか置いてないけど、君を不自由なく食わしていくくらいの金はあるから」

「は、はい」


 淡々と話す俺に対して、チェルシーはずっとおどおどしている。彼女とは、リリーの婚約者という立場で二、三度会ったことがある。俺の様子がそのときと違うから困惑しているんだろう。


「……悪いけど、こっちが素でね。普段は取り繕っていたんだ。驚いた?」

「い、いえ」


 チェルシーは首を横に振ったが、完璧な婚約者として愛想よく振る舞っていたころに比べて、随分冷たいと思っていることだろう。残念ながら、猫を被っていたところで魔力と容姿が損なわれたら何も残らないと知ったので、俺はもう不必要に取り繕う気がない。聖女だけでなく、俺をもてはやしていた誰もがみな、顔に大きな傷と呪いを受けた、なんて噂ひとつで見舞いにも来なかった。


「おそらくあと数年はこんな体だし、必要以上に君に構うことはないけど、かといって君を虐げるつもりもない。君は君らしく、ここで自由に生きるといい」

「……はい」


 俺の言葉の意味を汲んだのか、小さく頷いた新しい婚約者は、静かに部屋を出ていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一迅社アイリスNEO様より発売中!
公式ページはこちら↓
聖女の身代わりとしてやってきた婚約者殿の様子がおかしい
― 新着の感想 ―
[良い点] 聖女と主人公が同じ性格なのは新鮮です。何の得もないのに妹をあてがう当たり、なにか思惑がありそうですな。
[一言] もし女側が大怪我をしてて美貌も能力も無くなったら、婚約破棄は当たり前のこととして受け入れるだろうし、それが当たり前として描かれるだろう。 このままじゃリリーが性格悪いのか、いい性格してるなと…
[良い点] 初めまして、店長と言います。 感想書かせて頂きます。 初投稿でこの出来だと、ドコゾノ作者とか爪の赤でも飲ませたいですね。(具体名は出しませんよ)。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ