2話 不思議なお客さん。
俺の名前はザムエル テュールーンだ。
カアヤ王国北部の町ラーニナ町にあるC級宿の経営をしている者だ。
冒険者をしていたが、仲間が死に自分も死にかけた時に怯んでやめて冒険者用の宿の経営を始めた。
この地域は危険も少なくレベルの高い冒険者は多くないので比較的安いC級宿を経営している。宿の級の制度は二大冒険者ギルドの一つビネ冒険者ギルドの認証制度のものであり、施設や立地によってランクが変化する。
ランクが高い宿ほど武器の修理やポーションの配布、ヒーラーの常駐などさまざまなサービスがついてくるのだ。しかし、その分値段も高く高レベル冒険者以外の需要が少ない。
このエリアは魔物という魔物は出ないので冒険者の仕事は悪党退治または農業の手伝いくらいだ。だから追加のサービスを要求しないC級の宿を開いたのだ。
もう10年ほど経営しているが、飽きず仕事ができている。それはさまざまな冒険をしてきた冒険者の話を聞いたり、珍しい物を見せてくれたりするからだ。大体の人は優しく接しやすいし楽しい生活だ。
まあ、妻はいろんなことに対してうるさいのだが….
何も問題なく過ごしていたころ、非常に不気味な客が来た。
彼は、マーク フジタール。ボロボロのローブを来た魔術師っぽい少年。年齢はわからないが15才前後だろうか。髪は赤っぽい茶髪で顔を整っている。体格も良い。顔立ちからして東の大陸出身と予想する。
同年代の女の子が優しく話しかけてもらったらドキッとするような男だ。まあ俺は男だから年頃の女の子の気持ちは判らないのだが…
だが、フジタールには不気味なところがあった。それは彼の目である。本体はそこにいないような虚な目。周りのものには全く興味がなく、ずっと図書館へゆき資料を漁っていた。
一度話しかけてみたがガン無視された。1番初めに二週間分の宿泊費である銀貨一枚を初めもらっていて、その二週間が終わっても彼は宿に泊まり続けた。
忙しいから後から払ってくれるのだろうと思い、邪魔をしないようにしていたが二週間経った頃には流石に限界だった。
常連のお客さんが彼のせいで泊まれなかったのだ。フジタールが金を払えばいいことなのだが、払わない。毎日払えって言いに行ったのだが、部屋から出てこなかった。外に出るときは窓から出て俺を避けていたのかもしれない。
毎日言いに行っていたが反応がないので、今日も同じ調子で言いに行った。すると、、、予想に反してドアを開けて出てきた。俺はそれに驚いた。だがそれを見せてしまうと舐められのですぐに隠した。
いつもは人に怒鳴ることがないので慣れていないが、さすがにここまで態度の悪い子供に対しては厳しくしないと金を払ってもらわないといけないので、無理して怒鳴った。
すると
「あの...すみません。どなたでしょうか?」
そうか、そういえばこいつとは自己紹介すらしていなかった。というか彼がしてもいい雰囲気を作らなかったのだったが... でもさすがに俺が宿主って知ってるだろう、馬鹿にしているのかもしれない
態度は緩めず返した
「ああ?宿主のザムエルだ。早く宿泊代を出せ。」
その後ほとんどすぐにお金を払ってくれた。しかも誇張して値段を二倍にして言ったが、何も言わずその値段を払い、遅延費と言って追加で銀貨一枚をくれた。
え?
今までの彼のイメージと全く違った。もしかして彼は本当に忙しくてお金を払う余裕がなかっただけだったのか?金が入ってきたばかりなのだろうか?
訳が分からない。だが払ってくれたので結果オーライだ。
そして何より、、気が付いたのは彼の目は今までと違って生きた目をしていた。
彼の中の何かが変わった。俺にはわかった。
それから彼は朝飯を食べに来るようになり、おれに町のことを聞いてきてくれるようになった。一階の食堂では他の客に話したそうにしているが勇気が出ないのか、話しかけずに近くに座って、話を盗み聞きしている。今までの彼はどこへ行ってしまったのか?
俺は彼に怒鳴ったのが申し訳なく思えてきた。