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婚活は戦争

「・・・ふむ、こんなもんか」


「・・・いいんじゃないですか? いつもより微かにお洒落じゃないですか」


 洗面所の鏡の前で、寝癖だけチェックする。

 結局夏用の服を買う前に、パーティーの日が来てしまった。


『っわ!』


「あぁ、おはよう、リーゼ。

 どうだ?もう慣れたか?」


『っわ!っわ!』


「『おかげさまで』って言ってるのかもしれませんね」


「そうか、ならいい。今日は夜まで帰ってこないけど、エジソンたちがいるから、大丈夫だな?」


『っわ!』


「よし、じゃあ行ってくる。 みんな、留守番頼んだ」


 ペットたちに手を振り、家を出る。アプリで目的地までの道順をセットし、最寄り駅まで歩く。




 昨日の夜、6限目の講義を終えて、帰宅準備をしている時だ。杉下君の方から話しかけてきた。


「教授、明日本当に婚活行くんですか・・・?」


「あぁ、どうして?」


「いえ・・・婚活パーティーにあまり良い印象を持っていなくて」


「まぁ・・・、私はきっと向いていないだろうな。そもそも興味がないわけだし」


「興味がないのに、行くんですか・・・?」


「あぁ。 こういうのは経験だからな。

 行ってダメなら、私に婚活は向いていない。ひたむきに生きるしかないことが分かる。

 逆に行ってパートナーができれば、まぁその時はその時だ」


「そうですか・・・。

 私、今まで教授と調査旅行に行って薄っすら思ってたんですけど、

 教授・・・初対面の人とちゃんと話せますか・・・?

 向こうが貶して来たら、へこみませんか?

 ちゃんと意思疎通できますか?」


「私を一体何だと思ってるんだ。

 これでもいっちょ前に大人だ。多少の社交性を取り繕うくらい、朝飯前だ」


「そうだと良いんですが・・・」


「心配するな。私は必ず結果を残す人間だ。良くも悪くも何とかするさ」


 大丈夫だと言い張る私に、杉下君は不安の表情を拭いきれないでいた。常々心配性な彼女のことだ。今回もきっとそれだろう。

 朝研究室に入ったときも、何か冱露木と話し込んでいた。冱露木はニヤリと私を見てから、「じゃ!あとは任せて!」と部屋を出て行った。その時も彼女は心配そうな顔をしていた。




「・・・ま、なるようになるだろう。ケ・セラ・セラだ」


 そう呟きながら、会場のビルに入る。



「いらっしゃいませ、お名前伺ってもよろしいですか?」


「岩崎媛遥です」


「岩崎さま岩崎さま・・・、あぁ!岩崎さまですね!お待ちしておりました。

 それではこちら着用いただき、会場へどうぞ」


「はい。あの・・・料金は・・・」


「岩崎さまについては、本日は弊社よりサービスで料金無料と伺っております」


「いえいえ、せっかくですが、そういう訳にはいきません。

 私はしっかりと対価を支払って、本気で参加したいんです。

 上長の方には私の知り合いから話しておきますので、正規料金を払わせてください」


 そういって私は半ば強引に記載のあった料金を支払った。

 名札を受け取り中へ入ると、思っていたよりカジュアルな立食が行われていた。


「さて・・・腹が減っては戦はできぬというしな。何があるか見てみよう」


 出されている食事はどれもしっかりしていて、いわゆる「ケータリング」っぽさはなかった。会場のアナウンスによると、開始時刻以降30分ほどは歓談時間のようだ。始まる10分前に来た私には、まだまだそこそこの時間があるようだ。


「う~ん、デザートは洋菓子ばかりか・・・」


「そうなんですよ。私も和菓子派で、なんだかなぁって感じです」


 困り顔の私に、困り顔の女性が話しかけてきた。


「まぁ、仕方がないといえば仕方がないですよね。名目は『パーティー』ですし・・・」

 

「それもそうですね・・・。

 あの、『イワサキ』・・・さんは、どなたかの付き添いですか?」


「いえ、付き添いはおりません。ちゃんと参加者ですよ」


「あら?そうなんですね」


「・・・どうして?」


「あぁいや、私と一緒で、お食事ばっかり見てらっしゃったので、てっきり・・・」


「そういう・・・『アオバ』さんは、どなたかの?」


「そうなんです。友達と一緒に来てるんですけど、私こういうのってあまり興味はなくて・・・。

 まぁ、彼氏欲しくないわけではないんですけど、『婚活』とまではちょっと・・・的な」


「あぁ・・・少しだけわかります。

 私もどうしても参加しようと思ってきたわけではないのですが、知人の勧めで若干仕方がなく・・・」


「そうなんですね・・・。いらっしゃってないということは、その方はもう?」


「えぇ、結婚しています。憎たらしい奴ですよ」


「ふふふ、憎い人ですね」


 彼女の名前は『靑羽アオバ レイ』。聞いたところによると、大学と駅の間にある花屋で働いているとのことだ。私と同じく和菓子が好きで、聞いて驚いたのだが、なんと剛田の和菓子屋と青羽さんのいる花屋は古くの付き合いで、店頭で和菓子を置いているらしい。


「へぇ・・・今度お邪魔してもよろしいですか?」


「ぜひぜひ!お花だけじゃなくて観葉植物も置いておりますので、良かったお家のインテリアにぜひ!」


「ありがとうございます。犬と猫を飼っているので、ペットがいても置けるようなものだとありがたいです」


「あら!ワンちゃんと猫ちゃん飼ってらっしゃるんですね!お写真とかあります…?」


「えぇ。・・・はい、これ」


「おっ・・・想像以上にすごい数・・・。もしかして、動物保護の団体さんとか・・・?」


「いえいえ、職業は教授です。大学の」


「えっ!教授さん!? やばい、おっきな声で言っちゃった・・・」


 そういうと靑羽さんは周りをキョロキョロしだした。まるで何かを探しているような、警戒しているような、少し怯えているような・・・。そんな目線とは裏腹に、その人物は私の背後からやってきた。


「失礼します。大学の教授さんなんですか・・・?」


「ええ。」


「そうなんですね!

 私、八足ヤタリ 知朱チアキって言います。

 靑羽とは中学の頃からの同級生で、今ちょうど靑羽を探してたら、岩崎さんの事が聞こえちゃって・・・!

 大学って、どちらの大学にお勤めなんですか?」


「亜心大学です」


「あの有名な!?」


 有名だったのか。


「えぇぇっ!?じゃあじゃあ、年収も・・・」


「ちょっと知朱!失礼だよ!」


「大丈夫ですよ。細かく気にしたことがないので何とも言えませんが、

 現状何の問題もなく生活できていますよ」


 キラキラと目を光らせる八足とは裏腹に、先ほどまで笑顔だった靑羽さんは終始困り顔になっていた。その後も八足の質問攻めは続き、靑羽さんが引っ張り出すまで八足の口は止まらなかった。


「さぁ、宴もたけなわではございますが、ここからはグループに分かれて、

 テーブルを囲んで親交を深めていただければと思います。

 それでは、番号をお呼びした方は、スタッフの案内の元テーブルまでお越しください」


 指示されたテーブルでは男は私を含め2人、女性は3人だった。

 誤解を恐れず言うが、こういったパーティーでは男性の方が多いと思い込んでいたが、実際には半々か、女性の方が多く感じた。

 人間の中で生きていると、男の方が「彼女が欲しい」だのなんだのと騒いでいるイメージが強かったが、結婚やパートナーとなると話が違ってくるのだろうか。


 テーブルを囲んでの会話は驚くほど普通だった。しかし、なんというか、とても考えられた普通のような気がした。いくつかのテーブルを経ての感想だが、人によって八足のように直接的な質問をする人もいれば、持っているもの、時計や家などからこちらの経済状況を推し量ろうとする人がいたりと、そこには策略のようなものが見え隠れしていた。かといって、靑羽さんのように結婚そっちのけで会話ができる人もいたので、いったんそういったことに気付いてしまった私としては、そちらの方が気が楽で助かった。

 研究として面白かったのは、こういう時の男の立ち居振る舞いにも策略的なものがあった。もう一人の男の職業を褒める者。逆に自分の職業の優位性を語るもの。しきりに自分の身に着けているものを見せる者。男の方の話の論点は、なぜだか自分の持ち物の話や、自身の交友関係の話が多い気がした。


「岩崎さんは、ブランドとか興味ない感じですか?」


「えぇ、どうして分かったんですか?」


「いや、だって、今日の服全部ジークロとかエイチアンドゴーですよね。

 岩崎さんのスタイルなら、ZOROとかもっとお洒落なやつも似合うかなって」


「あぁ・・・それ同僚にも言われるのですが、服にお金だけかけるのって、なんだかもったいないかなって。

 もちろんそのブランドが好きで、それに見合った稼ぎがあって、それが欲しくて、それが似合うなら、僕も買うんですけど、今のところそういうのに出会ったことがなくて・・・。

 だったら、自分が好きで、ちゃんとおかしくない服を着たほうが、相手に失礼がなくていいかなって」


「えぇ~。それってなんだかもったいなくないですか?

 服一つで見た目の印象って全然違いますよ?

 デートとかで安い服着てきたら、相手さんがっかりしちゃいません?」


「どうでしょう。僕はかまわないですけどね」


「いやいや、岩崎さんが良くても相手の女の子が・・・」


「・・・しんどくないですか?

 女性なんて、服だけじゃなくてお化粧もするでしょう?

 男がビックリするくらい高いブランドを身に着けてたら、女の子だって気を使って高い服買ったり、高い化粧品買ったりしないといけないかなって、僕は思っちゃうんですよ。

 そりゃ、女性の方がそんなの余裕ってくらい稼いでたらいいですけど、僕だったら稼いでても普通でいてほしいです。

 結婚したらそんな生活できないだろうし、子供にお金かけてあげたいし」


「そう!その通り!やっぱり岩崎さんは素敵な人ですね!」


 気配を殺していた八足がここぞとばかりに登場した。

 そこからはまた八足の独壇場で、私に対する質問攻めが続いた。そんな光景を見ていたもんだから、ほかの女性も私に質問攻めをしてきた。

 遠くの方で靑羽さんが心配そうに目くばせをしてくれたが、「気にしないでください」とジェスチャーをし、何とか乗り切った。


 パーティーの締め、最後に気になった人と連絡先の交換をする時間が設けられ、私はとりあえず靑羽さんと連絡先を交換した。そして、当たり前のように八足と連絡先を交換し、そのほか数名の女性とも連絡先を交換した。




「ただいま」


「おかえりなさい。

 どうでした?婚活パーティーは」


「あれは・・・戦争の類だな。あっちこっちで冷戦みたいな、水面下のやり取りがすごかったよ」


「それはなにより。

 それで、連絡先を交換したんですか?」


「あぁ。何人かとな」


「いいですねいいですね。

 気になる女性はいましたか?」


「ひとり、気になるというよりは、親切な女性がいた。

 それと、積極的を人にしたような女性もいたな」


「おぉ、いいじゃないですか。今後に期待ですね」


「どうだかな」


 椅子に腰かけ、スマホをみると、アプリの通知が何件か入っていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――

 靑羽

 『今日はありがとうございました。

  八足が迷惑をかけてしまって、ごめんなさい。

  あんな子ですが、悪い子じゃないので、大目に見てあげてください』


 岩崎

 『こちらこそ、今日はありがとうございました。

  八足さんはびっくりしましたが、靑羽さんのおかげで助かりました。

  気にしないでください』


 靑羽

 『本当にすみません。。。

  うちの花屋、ぜひお暇であればいらしてくださいね!

  お菓子用意して待ってます!』


 岩崎

 『ありがとうございます。近々お邪魔します」


――――――――――――――――――――――――――――――――


 八足

 『岩崎さん!今日は連絡先交換してくれてありがとうございました!

  岩崎さんのお話ばっかり聞いちゃって、私の事お話しできて無かったですよね。

  ごめんなさい・・・!

  もしよかったらなんですけど、近々どこかでお食事でもどうですか?

  私いいお店知ってるので、岩崎さんどんなの食べたいか教えてください!

  今日のあの服のお話、私ときめいちゃいました!

  実は服飾の仕事をしているんですけど、ああいう価値観を持った人に

  着てもらえる服は、幸せだと思います!

  良かったら返信欲しいです!待ってます!』


 岩崎

 『こんばんは。こちらこそ、今日はありがとうございました。

  食事、喜んでお受けします』

 

 『食べたいもの…甘いものは和菓子が好きなのですが、

  それ以外は特に固執がないので、八足さんのおススメの店を選んで

  いただければと思うのですが、いいですか?』


 『日程は平日は19時以降は開いていますが、土日であれば13時以降は

  フリーです。

  よろしくお願いいたします』


 八足

 『わーい!お返事ありがとうございます!

  じゃあ、私のおススメのお店、予約しますね!

  日程決まったらまた連絡します!

  今からとっても楽しみです!』


――――――――――――――――――――――――――――――――


『っわ!』


「あぁ、リーゼ。今日はお留守番できて偉かったな。

 雨井はよくしてくれてるか?」


『っわっわ!』


「そうかそうか。

 ・・・君たちみたいに、短い言葉で会話が出来たら楽なんだけどな…」


『・・・?』


「いや、こっち側の話だ。気にしないでくれ」


 中にはの方では漱石が集会を開いている。多々吠えることもなく、時折『にゃー』と鳴くだけで集会が終わる・・・。何とうらやましいことか・・・。



「雨井」


「なんです?」


「人の会話というのは、なんとも不便なものだな」


「どうして?」


「言葉がそれぞれ意味を持つだけに、ちゃんといっぱい話さないと理解できない」


「あぁ~・・・それはありますが、それだとセミの方が大変じゃないですか?」


「どうして?」


「まず相手が気付いてくれるまで鳴き続けないといけないじゃないですか」


「あぁ~・・・一長一短だな」


<作者より>

お久しぶりの更新となってしまい申し訳ありません。

仕事は忙しいままなのですが、何とか更新できるように尽力します。

もともとオリジナルの方も、完成までに4年以上かかってしまったくらいの貧乏筆なので、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。

よろしくお願いいたします。

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