初めから話そう
サクラがサクラっぽくなくなるころ、
花粉症で人が死ななくなるころ、
春の木漏れ日だった太陽が人を殺し始める準備をするころ、
この時期になると私はよく昔を思い出す。
この日記は、私の断捨離だ。
時は2012年、あれは大体…8月初旬ごろだろうか。梅雨が明けてから1週間は経っていたと思う。私の悪い癖で、年は覚えているものの、日はよく忘れてしまう。それはもういくら私でもびっくりするくらい暑かったのを覚えている。土の中で何年も過ごしてきた私にとって、外界があんなに暑いだなんて知る由もなかった。地上に出てきたのはその時で…6つの夜が過ぎたころだ。もっと早くから出てきていたお隣さんたちは、日に日に地上で安らかに眠っている姿が多くなっていた。
「私がああなるのも、もう時間の問題か…」
私には自覚があった。おそらく私に番はできない。お隣さんたちは腹の板をこすって大きな音を出すことで、メスに存在感をアピールしている。叫んでいる内容は…人間様にとってはいささかハードな内容かもしれない。本当は私もそうすべきところではあるのだけれど、まだ土にいたころにどうしても動かせない石ッコロが私の胸元にあり、それが原因で私の胸板はひどくみすぼらしい音しか出すことができなかった。
この弱肉強食の世界、弱きは死に、強きは生き残る…なんていう輩もいるが、私に言わせれば、「普通の奴は生きて、普通じゃない奴は死ぬ」。普通の奴は頑張れば生きることができる。そりゃもちろん個体差はあるだろうが、“普通じゃない奴”に比べたらまだ恵まれているほうだ。
かくいう私は…
「きっと今夜、限界が来るんだろう…」
そう思いながら…思っていたのだろうか…。鳴くのをやめていたことは、明確に覚えている。
そこへフラッと、忌々しい男が一人やってきた。「生ける普通じゃない奴」。私の運命を変えた男。