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英雄は空へと駆ける  作者: まるゆ
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少女は夢を見る2

 白夜は午前中の授業が終わって昼休憩になるといつも中庭にやってくる。本来ならばベンチに寝そべって昼寝をするのだが、今回ばかりはそうはいかない。


 先程、恐らくだか澪奈にギルドで冒険者をしているとバレた以上、何とかしなくてはならなかった。


 だが中庭に足を踏み入れて早々、少し離れた場所で男子生徒が何かを探すようにキョロキョロと地面を見ている。不審に思って近寄ってみればそれが恵夢だと気が付く。


「ここじゃないのかな」とか「いやここ通ったし」とかぶつぶつ言いながら、恐らく十中八九探し物をしていた。


「どうかしたのか?」


「へ? いやなんでもないよ! あはは!」


 白夜が話しかけると少し慌てた様子でそう言うが、その後恵夢は「おっかしいなー」と言いながらその中庭から去っていく。


 完全になにかあるようにしか見えない。


「変な奴。ま、なんでもないって言ってんだから気にしてやる必要もなかろう。それよりも重要なことが俺にはあるし」


 しかし関係の無い白夜は、いつもの二人掛けベンチに仰向けになる。空は雲がゆっくりと進み、太陽が今日も一段と輝いていた。


 中庭は校舎中心の位置に存在しており上空が吹き抜けの空間で空が眺められるようになっている。


 と言っても恵夢が去った後、誰もいない貸し切り状態で「さてどうするか」と脳内会議を開き今後のことを考え始める。


 が、その会議が長いこと続くことはなかった。


「どうしたの? いつもと様子が違うけど、なにか考え事かな?」


 一人の女子生徒が白夜の寝そべるベンチの前に立ち、上から覗き込むように顔を覗かせてそう質問した。その少女は今の悩みの種である澪奈だ。


 白夜は「よいしょ」と言いながら体を起こしてベンチの端に座り直す。


「やれやれ、今日は客が多いな」


「客って。まぁそこはいいや。それで、なにかあったのかな? 私でよければ相談乗るよ?」


 正直面倒なので追い返すことも可能だが、これは忘れさせるチャンスと思った白夜は適当な話題を出すことにした。


「別に相談するほどではないんだけど。じゃあ速水さんよ、勇者って何だと思う?」


「私のことは澪奈でいいよ。んー勇者かぁ。それは勇気ある者のことなんじゃないの? 昔からそう言われてるし」


 澪奈の考えて出した回答に、白夜は「ちっちっち」と言い人差し指を立てて躍らせながら否定する。


「言い方を間違えたみたいだ。剣聖や拳皇そして魔帝。これらはこの国の王から与えられた称号だ。なら勇者ってなんだ? どこの誰がどんな奴に与えた称号だ? これがさっぱりピーマンわからんのぜ」


「んー、そう考えると難しいね。確か勇者って生まれ瞬間に決まってるんだよね。なら神様ってことになるのかな」


「神、ねぇ。ある意味そうなのかもしれんな」


 澪奈は白夜のため息でもつきそうな表情を見て口に手を当てて笑い、ベンチの空いたスペースに座った。今まで笑っていた澪奈だが、少し真面目な表情になる。


「私ね、そんな生まれた時からヒーローって言われる人よりも、剣聖みたいに努力して勝ち取った英雄みたいな人の方がすごいと思ってるの」


「急にどうしたよ」


「だって強くて優しくてどんな人でも助けるんだよ? かっこいいじゃない!」


 興奮しながら笑顔で上下に腕をぶんぶん動かして話す澪奈。それに対して白夜は苦笑いを浮かべていると、澪奈の表情が唐突に暗くなる。


「でも剣聖と拳皇、魔帝の三人は突然いなくなっちゃったんだよね。噂によると、留守にしていた間に剣聖の故郷が滅びたんだとか。それがショックで姿を消したって」


「へぇ。それは残念なことで」


 白夜は興味無さげな感じで遠くを見ながらそう答える。


「本当に残念だよ! はぁ……剣聖は今頃何してるんだろ」


「……過去にこの町に来た時は勇者みたいな扱いはされなかったけど」


 喜怒哀楽が激しいなぁと思いながら、ボソリと呟くように言った白夜の言葉はしっかりと澪奈の耳に入っていた。


「剣聖ってこの町に来たことあるの!?」


 驚いた表情と共に、顔をずいっと前に出す。白夜と鼻が擦れそうな位近く、少女のいい香りが白夜の鼻腔をくすぐる。


 唐突な事に驚いた白夜は少し体を後ろに引いてしまう。


「あ、あぁ。と言っても5年くらい前だけどな」


「5年前かぁ。ちょうど剣聖の称号を得た時だね。いいなぁ、私も一目でいいから会ってみたいよ」


 その後夢見る少女のように遠くを見る目で空を眺める。


「剣聖、どんな人だろ」


「案外普通の人かもよ?」


 それを聞いた零奈は口元に右手をやって笑い、左手をひらひらさせる。


「ないない!剣聖は絶対特別な人だもん! そこら辺の一般市民とは違うよ!」


 何言ってんの見たいな感じで白夜を見ているが、白夜はいたって真面目な表情である。


「あのな、特別な人間なんていない。誰も等しく人間だ。その檻からは誰であろうと逃れられんよ」


「え?」


 澪奈は聞き取れなかったのか、はたまた理解できなかったのか白夜に聞き返す。が、それに対する返答はなく、白夜は少し離れた場所に設置されている時計を見る。


 時刻はもうすぐ昼休憩は終わりの時間。白夜は今日は昼寝するのを諦めて教室に戻ることにした。


「さて、俺はそろそろ教室に戻るわ」


「そうだね、そろそろ時間だし私も戻ろ!」


 白夜は立ち上がって歩き始め、それに続いた澪奈は白夜の隣を歩く。中庭と教室は案外近く、1分もあれば着くくらい距離は近い。がそれもそのはず、中庭は白夜たちの教室のほぼ目の前に位置しているのだ。


 白夜と澪奈が教室に着いた頃、教室の中は未だもぬけの殻だった。だが昼休みにこの状況は特に珍しくはない。購買だったり、部活関係だったりで教室に残っている方が珍しいのだ。


 そんなもぬけの殻の教室に入って白夜は自身の席に向かう道中、教室の一番後方で何か落とし物があることに気が付いた。


「ん? なんだこの玉は」


「本当だ。何の玉だろうね」


 白夜は少しピンク色をした鉱石のようだ。だが、拾ってみると柔らかい感触のする不思議な感触の玉だ。そして不思議とほんのり温かい。生ぬるいといった感じだ。


 白夜は隣にいた澪奈にその玉を手渡し、澪奈はその玉を受け取って上空に掲げて透かすように見る。とはいえ、中が空洞と言うわけではないのか透けて見えることはない。


「何か魔力みたいなのがあったりしないか?」


「んー、微かにも感じれないね」


 澪奈は持っていた玉を白夜に返す。白夜はそれを受け取ってそれを元あった地面に戻す。


「なんで地面に戻したの? 落とし物として届けようよ」


「そうしたいのは山々なのぜ。でもなんかすっごい嫌な予感がしてさ、ここに戻しておかないといけない気がしてきたんだ」


 白夜は数刻前のことを思い出していた。物を探していた人物がおり、それを必死に探していた。


 そんな人物に心当たりがあったからだ。恐らく今もどこかで探しているだろう。


「それにしても何に使うんだろうね。戦闘とかには役に立ちそうにないけど」


「んー投げつけて使うってこと? これじゃ当たってもダメージなんてたかが知れてるか」


 白夜は腕を組み、右手を顎に当てて考えてるフォームを取る。


「となると戦闘以外だよな。やっぱ魔力か何かを増やすものでは?」


「そんなマジックアイテムだったら少しでも魔力を感じるんだけど」


 地面にある謎の玉を見る2人はこれは何に使うのかと気になってい見ている中教室の扉が開く。中に入ってきた一人の男子生徒が白夜と澪奈に近寄ってくる。


「あの、十六夜君。この辺りに僕の大切な玉が落ちてなかったかな? 二つあった僕の玉がいつの間にかなくなってるんだよ。あれは僕の一部でね、絶対なくしちゃいけないものなんだ」


 少し照れながら白夜と澪奈に話しかけたのは、何かを探すように中庭を隅々まで探索していた恵夢だった。


 白夜はその発言に怪訝そうな表情をし、澪奈は顔を赤くしてそっぽ向いている。


「それ、使い道はなんだ?」


「え、それ聞いちゃう? ちょっと恥ずかしくて言いにくいことなんだけどさ……」


 恵夢は少し照れながら頭を掻く。


「いや、やっぱ聞かないのぜ。それより、お前の探しているのはそこの玉じゃないか?」


 白夜はこれ以上は聞いてはいけないと思い、地面にある不明の玉を指差す。すると、恵夢は目を輝かせてその玉を拾う。


「そうそうこれだよ! 本当によかったー! これは僕の大切な僕の玉でこの僕の玉をなくした時は人生終わったと思ったよ。ありがとう二人とも! この僕の玉を探すのに昼休憩が終わってしまうところだったよ。早く購買に行かなきゃ。ありがとうね!」


 元気に手を振って教室を出ていく恵夢。


 またもや教室に残ったのは澪奈と白夜のみ。他のクラスの誰かが見たら何かよからぬ噂を立てられそうである。


 主な原因は先程から恥ずかしがるように手で顔を覆っている澪奈だが。


 だが、ここでこんな面白くなることしかならない美味しい状況。後のことなどどうでもいいい白夜はニタリ顔で澪奈に話しかける。


「ある意味戦闘で使うもので、何かを増やすものだったな」


「言わないでよ! えっち!」


「えっち?」


 白夜は心外だと言いたげな眼差しを向ける。その表情はこぼれ出る笑いを少々必死でこらえているために変な表情になっているに違いない。


「何か勘違いしてないか?」


 その中、何とか冷静を保っている白夜は何とか呆れたような目をして澪奈を見る。すると「へ?」といったような呆気にとられた表情をこちら向ける。


 澪奈は手を胸の前で手を組み、顔は少々赤くなっている事が伺える。少々色っぽく見えた白夜だったが、気にしないことにした。


「だってそれ男子にしか付いてない二つの玉でしょ!? その、こ、こづ……に使う」


 澪奈は真っ赤で恥ずかしがりながらそう言った。後半は言いにくそうに口ごもった為に一部が全く聞き取れなかった。


 ギリギリ聞こえた部分で言いたいことが分かった白夜はため息をつく。


「よく考えてみろ。取れないから、アレは」


「えっ!? 取れないの!?」


「取れるか! 人間に着脱式臓器なんてないのぜ!」


 澪奈は信じられないといった表情を浮かべた後、また恥ずかしくなってか手で顔を覆って後ろを向く。


「純粋に育ったな。両手で握ったら勇気か自信が出てくるみたいなところだろ。まったくえっちなのはどっちなのぜ」


「うぅ……もうお嫁に行けない。そうだ、白夜君!」


 何かを思いついたのか、澪奈は唐突に白夜の両肩を掴む。そしてそれと同時、教室の扉が開く音がした。


 その後、澪奈が白夜を虐めていると周りから噂されるようになった。

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