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英雄は空へと駆ける  作者: まるゆ
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少女は夢を見る1

 次の日、白夜は2LDKの自宅で起床した。いつも通りの朝だ。


「あ、おはよう白夜君。朝ごはんできてるよ」


「俺たちは先に食ったがなー。もう少し早く起きろー?」


 なぜかいる咲姫と拓斗。二人は部屋の真ん中にあるちゃぶ台の周りに座っていた。どうやって入ってきたかは不明だが、いつもこの二人は鍵を開けて中へ入ってくるのだ。


 ここまでがいつも通りの朝である。たまに違う人もいるが、それはごく稀だ。


 ちなみに、この間は鍵を複製されてるのかと思って鍵を変えてみたが何の効果も得られなかった。


「何をぼーっとしてるの? まだお眠?」


「いやそういうわけではないんだが……まぁいっか」


 白夜はこの慣れた状況を一言で片づけてベッドから起き上がり、ちゃぶ台の上にパンが用意されている前で胡坐をかく。大きな欠伸を一つ落とすと、咲姫が牛乳をコップに注いで白夜の目の前に置く。


 そこで白夜は違和感に気が付く。なにか水の流れる音がするのだ。


「……なぁ、水」


「水? 牛乳飲まないと身長伸びないぞ。ただでさえチビなのに」


「余計なお世話じゃい。そうじゃなくて、水の音がする」


 白夜は立ち上がって水の流れる音のする方に向かう。すると、キッチンの水が出しっぱなしであった。犯人は分かっているため、急いで水を止めた白夜は拓斗の前に走る。


「貴様! また水を止め忘れてんな!」


「まぁまぁそう怒らずに、そんな時もあるって。そんなことよりさっさと飯食わないと遅刻するぞ」


 指を差して起こる白夜に対し、あまり気にしていな拓斗は「ははは」と笑っている。それに腹を立てた白夜はさらに詰め寄る。


「そんな時って毎日出しっ放しだろうが!」


「自分の家では閉めてるがな」


「じゃあ俺の部屋でも閉めろよ!!!」


 白夜の叫びにも似たツッコミが部屋の外にも通り過ぎる。


「そんなことより、学校8時30分からだろ? もう20分だけど行かなくていいのか?」


「いるなら早く起こせよ!!」


 次に白夜の悲鳴にも似たツッコミが辺り一面に広がった。


 白夜の朝はいつも騒がしいものである。



 ◇---◇---◇



 それから時間は過ぎ、場所は学校。授業と授業の合間の休憩時間に、白夜は教室で外を眺めていた。


 そんな時、白夜の隣では教師と気の弱そうな男子生徒が話をしている。


 結構な大きな声で話をしているため、白夜は気になって見てみると教師は上機嫌なのに対し、男子生徒の方は少し浮かない顔に見える。


 男子生徒の名前は真下まさした 恵夢えむ。白夜より10cmくらい低い身長に、華奢な体。いかにも文学少年な見た目の少年だ。


 白夜はその見慣れない光景に、その様子をじっと見る。


「君は本当に優秀な頭脳の持ち主です。学力テストでは速水さんには劣りますが、補助魔術の面では君の右に出る生徒はいません。これからも精進するのですよ」


「はい、頑張ります」


 上機嫌な教師に対して落ち込んでいるようにも見える少年そのまま教室を出ていく。残った恵夢はため息をして席に着く。どうやら白夜の隣の生徒のようだ。


 褒められてため息をするなんてなんて贅沢な奴だと思った白夜は少し話を聞いてみることにした。


「褒められたんだから喜べよ」


「……違うんだよ」


 白夜は「は?」と言い首を傾げる。


 何だこいつと言いたげな感じで少々冷ややかな目で見ていた。


 だが、それがいけなかったようだ。それを見た恵夢男は唐突ににっこりとした時、白夜は少し恐怖を覚えた。


「僕は小さなころから褒められるのが苦手でね。どうも褒められるとアレルギーが出るみたいなんだ」


「変な体質してんな」


 男子生徒は首元を掻きながらそう言った後、軽く貶しにも似た返答をする。すると恵夢はまたもにっこりと笑う。


 白夜はつい怪訝そうな顔をしてしまう。


「どちらかと言えば僕は褒められるより貶してくれたほうがいいんだよ。今の十六夜君の目なんて最高のスパイスだよ。お願いだ、その目でこのキモ豚がって罵ってくれないかな」


「真面目にキモイのぜ!」


 若干引きつった顔をする白夜に対し、目を見開いて鼻息を荒くする目の前の恵夢男。


「あぁ、僕しばらく頑張れそうだよ」


「そうかい。そりゃよかったよ」


 白夜は覇気のない目でそう言うと、また外を見始める。


「ところで十六夜君は魔剣競技大会には興味無いの?」


「ま、まけん? なんだそれ」


 白夜の反応に驚いた表情の恵夢。


「まさか知らないの!? 一年に一回行われるウチの学校の最大イベントじゃないか! 各クラス男女1ペアを選出して戦術を競うんだよ。1位のペアには豪華景品があるんだとか!」


 興奮しながら話す恵夢男に対して、白夜は未だ興味のなさそうな表情である。


 なさそうと言うよりは無いが正しいか。


「あまり興味無いな」


「十六夜君は本当に変わってるね。クラスの連中、いや全校生徒がこのイベントで夢中なのに」


 全校生徒が夢中であろうと、白夜の興味はそちらには向かない。


 その理由は豪華景品が欲しい訳ではないから。それに、組む相手もいないから。


「ま、うちのクラスからは速水さんと杉下君が確実だろうね」


「は、はやみ? すぎした?」


「まさかクラスメイトまで知らないなんて言わないよね?」


 目が点になっている白夜に、信じられないと言った表情をする恵夢。


「それより、お前はどうなんだ? 出たいって思わないのか?」


「出たい。そして色んな攻撃を受けたい」


 願望丸出しである。もはや景品よりも攻撃が彼にとっての景品のようだった。


「とまぁそれより選出者については明日クラスのHRで決めるらしいよ」


「興味無い。勝手にしてくれ」


「十六夜君、さっきから興味無いのばっかだけど、なにか興味あることないの? 痛めつけられたいとか、汚い言葉で罵られたいとか」


「それ全部お前だろうが」


 やれやれといった表情でそう言うと、白夜は再び外を眺める。


 すると「ん?」と言って立ち上がって外を見だす。なにかあるのかと恵夢も見ると、そこには4人の男女が歩いていた。


「あれは勇者か」


「本当だ。どうしたのかな」


 勇者たちは学校の中へと入っていく。それを眺めながら、白夜は眉をひそめる。


「……勇者、この世の呪い」


 白夜のボソッと言った言葉は恵夢には聞こえなかったようだ。


 が、他の生徒には聞こえた者がいたようで。


「ねぇ、今のどういうことかな?」


 話しかけたのは白夜の前の席の少女だった。その少女は昨日白夜をパシリにしていた少女だ。その少女は興味津々な表情で白夜を見ている。


 彼女は速水はやみ 澪奈れいな。澪奈ははっきりと美少女だとわかる程整った顔立ちをしている。


 クラスでも屈指の美少女で、他のクラスの男子からも告白されるほど人気が高い。


 白夜はそんな人気者の彼女が目立たない自分に話しかけられることはないと自負していた。


 否、それは今白夜が思ったこと。ついさっきまでは何とも思っていなかった。彼女のこともアウトオブ眼中である。


 そんな美少女にじっと見つめられ、つい視線を外してしまう。


「いや、なんでもない。忘れてくれ」


 白夜は何も無かったかのように席に座る。


「勇者がこの学校に何の用だろう?」


「知らね。勧誘でもしに来たんじゃないか? 昨日ギルドでも……」


 白夜は口を押えてしまったといった表情をするが、時すでに遅しだった。目の前の少女は不敵に笑っている。


 というのも白夜は冒険者であることは隠していた。その理由は簡単で、本来ギルドで働くことだけでなくアルバイトなどを含めてすべて学校側に書類を提出して許可を得なくてはならない。


 ちなみに無許可で働いていた場合はペナルティが付き、トイレ掃除や雑務、今後一切のアルバイト等が禁止となる。


 それは白夜にとっては避けなくてはならないのだ、生活の為に。だったら申請しろよって話なのだが。


「ふーんギルドで、ねぇ」


 澪奈にばっちり聞かれていたこともあり、白夜は暑くもないのに汗をかく。


 美少女に見つめられているではなく、単純にヤバい状況に置かれていることに心拍数が馬鹿程上がっていることが自分でわかる。自分の心臓の音が内側から聞こえるようだ。


「し、知り合いがギルドで働いててな」


 そんな苦し紛れの言い訳に、彼女の表情は崩れることはない。


「白夜君、隠し事してるでしょ?」

「さ、さぁ何のことかなぁ」


 止まらない冷や汗よ彼女の顔を直視できない状況に、動揺を隠しきれていないのは確実であり誰の目から見ても明らかだ。


「ふふ、後で詳しくお話させてもらうからね」


 そう言って彼女は前を向く。


 白夜は頭を抱えて考える。この状況、なんとしてでもなんとかしなくてはならない。だが、どうすればいいのかわからなかった。


 唯一の救いは聞かれたのは澪奈だけであり、さっきからずっと勇者を眺めている恵夢に聞かれなかったことだ。


 恵夢はなんだか一人で盛り上がっているようであり、白夜はそれが腹が立って恵夢の脇腹に軽く手刀を見舞う。


 恵夢は「痛ぁ!」と言いながら、苦痛が表情から見て取れるがなぜか笑顔のままわき腹を押さえて崩れていく。


「な、なんだか知らないけど……最高のご褒美だよ!」


 そう言って彼は笑っているのか痛がっているのかわからない声を上げながら、わき腹を押さえて地面に蹲る。


 そこで次の授業の始まりの鐘が鳴る。それとほぼ同じタイミングで教師が教室の扉を開けて入ってきて教壇へと移動する。


「みなさん揃っていますか? 授業を……。真下君!? どうしたのですか!?」


 その教師が教壇にたって生徒たちを見渡した時、蹲っている恵夢に目が入って慌てた様子で近寄る。


「だ、大丈夫です! すぐ席に戻ります!」


 恵夢は教師が目の前にやってくるよりも早く立ち上がって自身の席に着く。


 教師は少し心配な表情だが、何事もなかったことに安堵してか胸を撫でおろして息を吐く。


「そうですか。何かあったらすぐに相談してくださいね。それでは、授業を始めます」


 教壇に戻った教師は持ってきた教科書を開き、授業を始めた。

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