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英雄は空へと駆ける  作者: まるゆ
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少年は勇者に出会う4

 後ろをついて歩くこと30分。その頃になると魔物と遭遇し続け戦闘続きだった勇者ご一行は疲れが見えてきだす。


 その様子を後ろからずっと見ていた白夜だが、彼らの戦いは効率が悪い。


「(でも、限界が見えてからが本番。勇者様はいったいどう出るか)」


 白夜は腕を組んで戦う4人を高みの見物で見守る。というのも、白夜は勇者の考えが気になったのだ。


 だから正直自分一人ならとっくのとうに外へ出てる頃なのに、少しの間付き合ってやろうというわけである。


 勇者なら、一人でも戦うというであろうが限界に達した時勇者がどう反応するのか。


 少し進む、魔物とさらに交戦。4人は戦い、なんとか勝利するも既に満身創痍。立っているのもやっとのようだ。


と、そこで真由子が表情に怒りを浮かべながら地べたに座る。


「もう! ここ魔物が多すぎよ! そろそろ限界!」


「ふぅ。魔力がそろそろ尽きそうです」


「デスキメイラも出てこないしどうなってんだ?」


「僕らも今日の所は一旦出直したほうがいいかもしれないね」


 座っているまゆを中心に4人は固まって話しをし始めた。白夜は少し離れた場所でその様子を見ている。


 その時、真由子が白夜を少し睨むようにして指を差し、口を開く。ついに来たかと白夜は口角が上がる。


「そもそもこいつを守りながら戦うのがしんどいのよ」


 他の3人も白夜を見る。


 少なくとも全員が同じことを思っているのだろう。白夜はようやく始まったかと顔に自然に出てくる笑みを抑えながら視線を返す。


 限界が来れば人は本性を現すのものだ。


「それはそうだが、でもこんな危険なところに放っておけないよ」


「あんたはそうかもしれないけど、私たちが全滅したら元も子もないでしょ!」


「このままで外まで無事に送り届けられるのか? 正直地図が分からないから俺たちがダウンする方が早いかもしれん」


「私も正直見捨てる方がよろしいかと思います」


 しかし、彼の仲間はそうは思っていなさそうだ。今も白夜を邪険にするような目で見ている。


 むしろ白夜にとっては邪険にしてほっといてもらって一人にして欲しかった。その方が早く外に出られるし面倒がなくてよいのだ。


「なら君たちは先に町に帰るといい。彼は、僕が無事に町に送り届けるよ」


「そう! ならそうさせてもらうわ! 行くわよ2人共!」


 真由子に連れられて亜蓮と雫は先に進んでいく。ずんずん歩いていく真由子とは違い、亜蓮と雫は一礼して真由子についていく。


 見えなくなった頃、神薙は白夜の方へ向く。


「すまないね」


「なに、予想はついてた。それで勇者様は本当に一人でこの戦う予定で?」


「その予定だけど?」


 正直驚いた。低レベルは見捨てるこの世界の常識において、勇者の考えは常識を覆していた。


「マジか。ほら、低レベル的なやつを助けちゃっていいの? 他の仲間みたいにさ、今あいつらと帰んないと死んじゃうかもしれんぞ?」


 白夜は試すように質問すると、神薙は笑ってこう返した。


「だとしても、僕は君を救う道を選ぶよ」


 予想はしていたのだが、実際にそうなった言葉を失った。世間とは全く違う考えに。そして何より、自分との考えとも全く違うものでことに。


 初めから分かっていたことだが、これが勇者なのだろう。


「君もさっき言ってたろ? そんな小さなこと、僕は気にしないよ。救うべき大切な命だから誰も見捨てない、これが僕の選んだ道だからね」


 白夜は「ほう」と感心したように声を発する。


「なぁ、たけかんむり」


「僕の名前は武村 神薙だ。どうしたんだい?」


「今からあることを黙っていられるのなら、ここからすぐに外に出られる」


 神薙は驚く。


「近道か何かあるのかい?」


 白夜は首を振る。


 その時、長く居座ってしまったせいか、それとも話し声に誘われてか、白夜の後方から少し離れた場所で魔物の足音が聞こえてくる。


 神薙は白夜の前に立ち剣を構える。


「下がってくれ。魔物だ」


 白夜は前に立つ神薙を歩いて追い抜き、後ろに押し返すように手の甲で胸を軽く叩く。


「下がるのはあんただ。この足音、恐らくあんたらのお目当てのあれなのぜ」


 遠くに見え始める魔物の影。そのシルエットには三つの顔が見え、近くに来てその正体が明らかになる。蛇、獅子、鳥の魔物。デスキメイラだ。


 白夜達を見つけ獲物としてロックオンすると、デスキメイラはそれぞれが咆哮を上げる。ピリピリと伝わる空気に、神薙は一歩後ろにたじろいでしまう。


 デスキメイラの咆哮に一切動じない白夜は前へと歩く。


「これが、デスキメイラ! なんて迫力だ」


「今のあんたじゃこの魔物には勝てんよ。それはあんたの仲間がいたとしてもな。あまりこうは言いたくはないがレベル不足。経験値がまるで足らん」


「は?」


 白夜は刀を抜く。


 この遺跡で最奥に行くのに運が絡む理由。それはこいつの存在だ。普通の冒険者ならレベル80もあればデスキメイラ以外の魔物はなんとか倒せる。


 が、このデスキメイラは100を超えてようやく倒せる程であり、この遺跡にして規格外の強さを持つ魔物なのだ。こいつと出会えば撤退しなければ全滅は免れない。


「勇者、俺からのアドバイス。お前は聖人じゃない」


 白夜は地を蹴り、デスキメイラに向かって走る。途中火炎を吐かれたが、それが迫るより早く範囲外に移動する。


 今度は鳥が雷の魔術を白夜に向けて放つが、上空に移動して避けて刀を思いきり振り下ろす。胴が真っ二つになったデスキメイラは悲鳴を上げ、無防備になったところを一閃で三つの首を落とす。


 デスキメイラは黒い霧となって消えていき、後に残ったのは淡く白い光を放つ【奇跡の宝珠】だけだった。


 神薙は目の前で起きた一瞬の出来事に、目をぱちくりしながら黙ってみることしかできなかった。


「何をしたのか全く見えなかった。君は、一体何者だ?」


「なに、越後のちりめん問屋の誰かさんよ」


 神薙は違和感しかなかった。疑問しか浮かばなかった。だが、何から質問したらよいのかわからない。あまりにも驚きすぎて。


 その様子の神薙を尻目に白夜は刀を鞘に納める。そして【奇跡の宝珠】を拾い、神薙に向かって投げる。神薙は両手でそれをなんとかキャッチする。が、神薙は白夜の前までゆっくり歩き、宝珠を差し出す。


「これは受け取れない、君が倒したのだから、これは君の物だ」


「それはやる。その代わり、今見たことは誰にも話すな」


 白夜は歩き始める。神薙もそれについていく。


「それだけ実力があるのなら世界を救おうと思わないのか?」


「思わん。強さだけじゃこの世界は救えられん!」


 来るブラックデビルを魔物を薙ぎ払うように蹴り、壁へと叩きつけ、すぐさま鎧を纏った魔物エビルアーマーが大剣を振り下ろすがそれを軽く避け、腹部に拳を打ち込むと鎧が砕ける。


 二匹の魔物はそのまま黒い霧となって消えていく。


 そして、ブラックデビルが消えた後にアイテムが確認できた。黒く光る刃渡り20cmくらいの短剣だ


「お、ラッキー。こいつからのドロップは初めてなのぜ」


 一気に上機嫌になった白夜はそのアイテムを拾い上げる。一本のナイフ、名は【黒天使の短剣】。


 淡い黒の光を放つその短剣は魔法使いの装備できる最高攻撃力で、なおかつ魔術の威力も杖と同じかそれ以上に高めてくれる代物である。


 世界にも数本しか存在せず、魔法使いなら全財産をつぎ込んででも欲しい最強の武器だ。そんなアイテムのデメリットとして、入手し辛さがあげられる。


 それは今のブラックデビルが1/256でしか落とさないからである。そしてそのブラックデビルが冒険者が簡単に倒せる魔物ではないのだ。


 といっても白夜は軽く一撃で倒すことができるが、そんな白夜もブラックデビルは500体以上倒してそれでようやく見つかるほどの超レアアイテムなのだ


「これは、この後なにか不運が起こりそうな予感ががが……」


 白夜はニヤケ面で腰の袋内に入れていた刃物を包む用の布を取り出し、短剣の刃をを包んでそれを袋に入れる。


「君に……いやあなたにお願いがあります! 僕と一緒に世界を救ってほしい」


 神薙は言葉を改めて言い直して頭下げる。


「嫌だよ」


神薙の誘いをはっきりと即答する。その言葉に反抗してか、神薙は頭を上げる。


「なぜだ! あなた程の実力があれば、世界なんて簡単に救えるだろう!」


 否定されたからか声を荒げだす神薙。白夜がいれば簡単に世界を救える、本気でそう思っているのだろう。


 白夜はやれやれと言った感じにため息をつく。


「実力で簡単に世界を救えると思っているところを見ると、まだまだ何も分かっちゃいない」


「あなたはこの世界が滅びてもいいというのか?」


「あぁ、別に構わんのぜ」


 白夜は今まで見せてきたことがないような寂しげな雰囲気で、そして放たれる気迫に神薙は一歩たじろいでしまう。


「滅びればそれでようやく皆平等。そうは思わんか?」


 余りにも達観した言葉。だが、神薙もその意見に悔しくも納得してしまう。それ以上は時間の無駄と思い、白夜はまた出口に向かって歩みを進める。


「あなたは強さの先に何を見た?」


 その質問の返答は返ってこない。それはこの遺跡を出るまで続く。


 遺跡の外では他の3人が待機しており、無事帰ってきた神薙に「さすが勇者!」と称賛する。神薙は納得していない表情でその称賛を受け取り、彼らと共に町へ向かう。


 そんな彼らに対して手を振りながら「あんがとー」と棒読みで言い、白夜は勇者一行に大きく手を振る。


 しばらくすると見えなくなった。それを確認した白夜は、沈みかけている日を見ながらぼそりと呟く。


「世界を救うのは勇者の役目さね。それは他の奴らには担えない。それが例え呪われた運命だとしてもな」


 白夜の寂し気な独り言は草原の風に流され、聞こえた人物は誰一人としていなかった。

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