少年は勇者に出会う3
白夜は10数メートルはある扉をくぐって外に出る。
一面に広がる草原は永遠に続くのかと思わされるほど広大だ。まっすぐ上空から注がれる太陽光が草花を照らし、小さく風が吹けば植物たちが喜んでいるかのように踊り始める。
その草原では魔物たちが歩いており、冒険者がその魔物討伐をしていたりもする。
この辺りにいる魔物は冒険者になってばかりの若者たちが苦労せず倒せられる程の弱い魔物しか存在しない。もちろん白夜はそれらの魔物は無視して進む。
魔物は誰彼構わず襲う種類もいれば、危害を加えない限り襲ってこない魔物がおり、この辺りは基本的には後者である。
だが、それは地上での話。魔物は暗闇を好む為、強い魔物は夜または洞窟や遺跡内部に集まっている。
その代表が今回白夜がやってきた遺跡だ。遺跡というだけあって中は薄暗く、至る所に付けられているロウソクだけがその内部を照らしている。
そのロウソクもただのロウソクではなく魔道具と呼ばれ、ずっと昔からこの遺跡ができたであろう時代から、火を灯し続けている。
ちなみにこの遺跡は新米冒険者でも入れる場所にあるのだが、新米冒険者では太刀打ちできないどころか世界でも有名な最高難易度の遺跡だ。
レベル50を超えるベテラン冒険者でないと最奥に行くのは難しく、ある程度の運が絡む。
比較的強力な魔物が多く、それでいて内部は入り組んでいて複雑になっている為、一度入り込んだら帰ってこれないと言われている。
そんなことから町ではこの遺跡を不帰の遺跡と呼ばれている。
そんな危険な遺跡に軽い足取りで入り、白夜は目当ての魔物を探す。
今回の目的は遺跡内にいる魔物のドロップを探しに来ていた。
白夜の探しに来たドロップを持つ魔物の名前はデスキメイラ。黒の蛇の頭に獅子の頭に体、そして鳥の頭に翼を持つ強力な魔物だ。
この遺跡内最強と呼ばれており、火炎、吹雪、魔術、物理攻撃と多様の攻撃を仕掛けてくる凶悪な魔物だ。運が絡むというのも、こいつと出くわさなければという訳だ。
その攻撃の威力は一つ一つが大変高火力。受けてしまえばタンク役のベテラン冒険者でさえひとたまりもない。
そんな強力な魔物だが、落とすドロップ品も一級品。他の魔物もレアなアイテムを落とすが、デスキメイラが落とすアイテムはさらにレアなのだ。
それが【奇跡の宝珠】と呼ばれるアイテムだ。それを使えば傷はたちまち消え、どんな病気も治すことができるのだ。
白夜は昨日に受付嬢から頼まれた依頼、それはこの奇跡の宝珠を手に入れて欲しいとのことだった。
白夜は軽い足取りで遺跡に入り、デスキメイラを探す。他の魔物は無視である。迷子の子供を探す程度の感覚でデスキメイラを探していた。
そう、白夜にとってはその程度。散歩をしているのとさして変わりはないのだ。
そこら辺の最弱の魔物であるスライムやコボルトと対して変わらない。それだけ、白夜との実力がかけ離れているのだ。
「今日はささっと終わらせて―美味しいもの食べに行こ―」
そんな凶悪難関の遺跡に白夜は町の中を探索するとぐらいの軽い気持ちで内部を探索している。
中に入れば強敵揃いの魔物たちが白夜に目をつける。その中にはお目当ての【デスキメイラ】も確認できた。
「おっ今日は一発で会えるなんて運がいいな」
白夜は周りの魔物たちには目もくれずデスキメイラの方へまっすぐに向かう。
すると周りの魔物は白夜を攻撃し始める。当然だ。魔物は人を見れば襲い掛かる。今も白夜に数匹の魔物が白夜に迫っていた。
魔物にとって、人間はエサでしかない。
そして今の現状、普通の冒険者ならそこで終わりである。魔物による攻撃でその辺りに血がばら撒かれ、死に至る。
が、そんなことにはなりはしない。
いつ間にか抜かれた刀によって一瞬で周りの魔物は切り刻まれ、黒い霧となって消えていく。
白夜は刀を鞘へと納め、消えていく魔物の群れを見てドロップ品を探す。が、落ちているものは一切ないようだ。
消えていった魔物には確実にドロップ品を落とすデスキメイラのような存在もいるが、稀にしかドロップ品を落とさない魔物がいる。
白夜はこの遺跡でよく魔物を討伐するが、そのレアなドロップは見たことがない。もはやこいつらが落とすのは都市伝説だ、と思っている程。
今も案の定一つもない。落胆する様子もなく白夜は今回の標的を見据える。
「さぁ残りはお前だけだ。大人しくしてれば……」
白夜が言う終わるより早く、デスキメイラはその場から四足歩行で逃げ出す。
「ちょい! デスキメイラが逃げ出すなんて聞いたことないぞ! 待たんかい!」
遺跡の奥へと走っていくデスキメイラ。翼持ってるなら飛べよと突っ込みを入れたいが、それは近くのごみ箱にポイして追いかける。
速度は白夜の方が速く、軽く追いつきそうである。遺跡の中を全力で走り、通りがかった際の他の魔物は完全に無視して標的を追いかける。
そしてほどなくして、遺跡最奥に到着した。
大きなフロアで、一番奥には大きな扉がある。一昔前、このフロアまで到着した冒険者がその扉を開こうとしたが、開かないどころか1mmも動かなかったという。一説ではただの飾りではないかといわれている。
が、白夜にとってはそんなことは興味のない話である。今は標的であるデスキメイラを倒してドロップを手に入れることにしか頭にはなかった。
「よーし、そのまま大人しくしてな。その3つある首を全部斬り落としてくれるわ」
白夜は走り、刀を抜く。
観念したようにうなり声を上げながらデスキメイラは白夜の方へ向き直る。
蛇が火炎を、獅子が吹雪を吐き、鳥が口を開くとそこに魔法陣が現れて雷が、それぞれ白夜に向かって放たれる。
白夜はそれを天井スレスレまで跳躍して避ける。先ほど白夜がいた場所は大きな爆発が起こる。白夜は天井を蹴って加速しデスキメイラの蛇の頭を切り落とす。
痛がる様子で獅子と鳥は泣き叫ぶが、白夜はそのまま容赦なしに鳥の頭、獅子の頭と次々に切り落とす。
頭をすべて失ったデスキメイラは力なくそのまま地面に倒れ、黒い霧となって消えていく。
残ったのは淡い白い光を放つ宝石のような丸い石。これが奇跡の宝珠である。
白夜はそれを手に取り、腰に付けていた小さな袋に仕舞う。周りには一切興味を示さず、そのまま帰路に着く。
「よーし帰って飯なのぜ―」
満足した表情でスキップしながら帰っていると、歩いている靴の音が聞こえてきた。それも複数人。
程なくして4人の人影が現れ、先頭を歩く金髪の青年が目に映る。先ほど町にいたお人よし全開の勇者だ。
今回は世間で有名な勇者パーティであろう4人の男女でいるようだ。
一人は勇者、武村 神薙だ。
その近くには大柄で大きな両刃剣を持つ短い赤髪の青年。物理攻撃が得意な戦士、進藤 亜蓮。
大きなとんがり帽子に140cmくらいだろう自身と同じくらいの杖を持つ黒髪ボブの少女。攻撃魔法が得意な魔法使い、観音寺 真由子。
そして水色のワンピースに腰にベルトを付けているウェーブのかかった茶髪の少女。治癒や補助魔術が得意な僧侶、蒼井 雫の4名だ。
この4人は勇者パーティとして有名で、白夜も基本的な情報ぐらいは得ている。というか嫌でも耳に入ってくる。
その4名はここまで戦ってきたのか息が上がっていた。
「ようやく最奥に着いたわね」
「だな。魔物は強いし、道は入り組んでいるし、一苦労したぜ」
「……あの、あそこに誰かいませんか?」
雫は前方を指差すと、そこには白夜が当たり前のようにいる。
「君はまさか学校の前でいじめられていた! ここまで一人で来たのかい!?」
驚きながら白夜に近づく神薙。
「えーと勇者だな。確か〝たけかんむり"だったか?」
「違う! 僕の名前は武村 神薙だ!」
「おっと、それはすまない。俺は人の名前を覚えるのが苦手でな。というわけで俺はここいらで失礼しますよー」
白夜は面倒なことになる前に彼らの横を通り過ぎ、遺跡から出ようとする。
「待って。あんた、ここは高難易度の遺跡で有名な場所よ。そこを一人で一番奥まで来るなんてあんた一体何レベルなのよ」
去ろうとする白夜の前にずかずかとやってきた真由子が白夜に指を差す。
「人に指差しちゃいかんって授業で習わんかったか? 俺は習わなかったが」
「馬鹿言ってないで質問に答えなさいよ!」
「レベルなんて些細な問題だろ? そんなちゃちぃこと気にしてないで、さっさとここでの用を済ましたらどうだ? ただ遊びに来てるわけではないだろうに」
白夜がそう言うと亜蓮が周りをキョロキョロし始める。
「そうだ俺たちはデスキメイラから【奇跡の宝珠】を取りに来てたんだ」
「だが、この少年をここで放っておくわけには」
「そうですね。このまま返してしまえば確実に死んでしまいますよ」
勇者ご一行は白夜を無視して会議をし始める。だがよ、ですが、だがと個人が思う事を口々に話しており、話が全く先に進んでいない。
「とりあえず、この辺りにはいないんだから一旦こいつ連れて出口に行きましょうよ」
「そうだな。デスキメイラ相手に守りながらだとさすがにきついしな。まずは送り届けるのが先か」
「決まりだね。それじゃ君、少しの間だけどよろしくね」
さわやかな笑顔で手を差し出す神薙。少しイラっとしたが、握手に応じて彼らとともに出口へと向かうことにした。
「(ま、実力を見るのも悪くはないさね)」
そう思い、白夜は4人の後ろをついて歩くことにした。




