少年は正義を貫く22
「……あとどれ位持つ?」
白夜と美祈、そして天魔が拮抗する草原には、静かに風が吹いていた。
そんな中、白夜にだけ聞こえる声で美祈は白夜に問う。
白夜は決して相手から目を離さずに答える。
「次撃ったら終いだな。時間で言うと10分はもたない」
「ということは、次が最後ということか」
「あぁ、それは間違いない。あんたは大丈夫なのか?」
「私の天の恩恵は時間制限がある訳では無い。普通にマナ消費だ」
そこで痺れが切れてか、天魔は風の刃を白夜に向けて投げつける。
白夜は刀でそれを受けると、刀は風を吸収する。刀が緑色のマナを放ち始めた。
「作戦会議はすんだか? 我はもう待ちくたびれたぞ」
目の前には余裕の表情の天魔が浮遊している。目は、未だ開いてはいないが。
「いいか、何があっても奴を消すことだけを考えろ」
「……承知した」
白夜は地を蹴り、天魔に斬り掛かる。神速で放った斬撃は、全て腕の刃で防がれる。しかし、その内の数発は体に命中する。
それに驚いたような表情、それでいて関心するような表情で少し後ろに後退する。
「ほう、我より速いとはな。その剣速、褒めてやろう。だが、これならどうだ?」
そう言った瞬間、天魔は白夜に向けて手のひらを向ける。慌ててステップで距離を取るも、白夜の真下に魔法陣が形成された。
その後、白夜の景色は一変した。目の前に美祈が立っており、前を見据えて銃を構えている。
そして白夜が後方にいる事に気がついた美祈は、驚いた表情で振り返る。
「は? 今のはなんだ!」
「あいつの術か?」
白夜と美祈は背中を合わせる。すると信じられないことに、白夜の向く方にいる天魔が笑いながら2人を見ていた。
「なに、ちょっとしたお遊びよ。人間には使えない転移魔術を使ったのだ」
「なるほど、やはり規格外か。実力の差を示してきたな」
「あぁ、意地悪いな。きっとあいつ友達いないのぜ」
その余裕の表情に、つい悪口が出てしまう。
転移魔術は人間にはなし得ないとされる力。何百年も研究されてきたが、未だ解明されていない。
美祈の天の恩恵も研究されたこともあったが、なんの成果も得られなかったらしい。
「人間には、知能的に無理なのか。それとも事象変化が無理なのか」
「どちらもではないか?」
そう言い放った天魔。
「そもそも人間はマナを扱うように体は作られておらぬ。人間は脳に詠唱とやらで無理やり信号を送り、マナを変化させる。愚かなものよな」
天魔は嘲笑う。
「ま、それは否定せんよ。魔術は、人を蝕む」
「ほう、やはり貴様は違うな! どうだ? 特別に天魔にならぬか? 貴様なら歓迎してやろうぞ!」
天魔は手を大きく広げるも、白夜は首を縦には振らなかった。
「……そうして作り上げられてきた文明も、人間が地道に作り上げてきた一つだ。先祖のしたことを否定する気なんてない」
白夜は刀を構える。
「俺は人間、十六夜 白夜だ。死ぬまで、そして死んでも俺は人間なのぜ!」
「ならば消えよ! 人の子よ!」
白夜は地を蹴り、天魔は空を蹴る。
そして程なくしてその刃はぶつかり合う。
が、その瞬間。また白夜の姿は消えた。先程の天魔と同じく、一瞬でその場からいなくなった。
「なん、だと!」
その場に赤い血がばら撒かれる。体を纏っていた竜巻は消え、天魔の首だけが飛んでいく。
その近くには青き左眼を携えた白夜が、刀を振り抜いていた。
「今日は瞬間移動デーだな」
白夜は刀の血を払い、鞘に仕舞う。
「よくやった」
「驚いたのぜ。あんたが転移魔術を使うとはな」
「私の天の恩恵の応用だ。感覚とイメージでなんとか。この場の即興にしては完璧過ぎたがな」
美祈は息を荒くして、膝を着いている。頭が痛いのか、頭を右手でおさえて苦悶の表情を浮かべていた。
「くっ、これを平気で操るか……天魔、やはり強大な力を持っているな」
「だな。しかし、これでようやく」
「死んだと思うか? まさか転移魔術を人間が使うとは予想外であったな」
その声に、体がビクッとして声のした方へ向く。
体は動かない。頭は少し離れた場所に、こちらを向いて転がっている。
血がそこら一帯を赤く染めているにも関わらず、その表情は変わらず笑っていた。
「ククク、愚かなり。実に愚かだ。だが、この肉体はもう無理だな。再生するのも面倒だ」
そう言った瞬間。天魔の頭が光、そこから光の粒子が無数に飛んていく。それが人の形を形成し始めた。
「もとより、我らは精神体。肉体などは初めから持ち合わせておらぬ。それは先程作り上げた貴様ら用の仮な姿よ」
光の粒子による人の形は、先程と変わらない天魔の姿だ。しかし、その姿は透けている為に背景が丸見えである。
「今回のところはこれで引く。だが、覚えておけ。今のままでは、世界は滅ぶ」
そう言った後、天魔の精神体は天へと登って行った。そして、血を含めた天魔の肉体は光の粒子となって消えて行く。
それからは、天魔の声は聞こえなかった。
突然に訪れた静寂に、白夜と美祈は言葉を発せられない。
「とりあえず、校長室に行こうか」
白夜は美祈に手を差し伸べると、美祈は何も言わずにその手を取って立ちあがる。
この場に来る前と同じような静かな場所。風が草木を撫でる音が辺りに響く。




