少年は正義を貫く21
一方その頃。校長室の中。
「美祈様は大丈夫でしょうか」
「ほっほっほ。大丈夫ですよ、なにせ剣聖もいらっしゃいますし」
「確かにあの方は強かったですが。というか、なんで剣聖がこんな場所にいるんでしょう」
そう話す結菜と爺は、戦ってるであろう閉まったドアを見つめていた。
「……大丈夫、もう傷口は」
そんな中で必死に回復している神薙と雫。聖奈の血は既に止まっている。しかし、痛すぎる傷は未だ塞がっていない。
そこにハッとなった結菜は歩いて近寄ろうとするが。
「近寄らないで!」
そこにキツく睨みをきかせた澪奈がそれを拒む。が、結菜は一瞬すら歩みを止めることなく近寄っていく。
それに対して澪奈は剣を構えるも、それさえも気にしない。
「大丈夫よ。急所が外れているから一瞬で回復できる。まったく、美祈様は危ないことしますね。肝を冷やしましたよ」
「ほっほっほ。結果、炙り出せたので作戦成功ですよ、結菜様」
結菜が近寄ると、神薙と雫はその場を恐る恐る離れる。澪奈は未だ警戒しているが。
結菜は手を傷口に近づける。
淡い光が、傷を包む。
すると、傷がどんどん塞がっていく。その光景に澪奈は目を疑った。澪奈だけでなく、周りの全員が目を見開いた。
またたく間に塞がった傷。すでに、そこに痛々しい傷があったとは思えない。
「これが私の天の恩恵、【癒光】。致命傷以外なら、一瞬で治癒できますよ」
「す、すごい」
神薙を含め、その場にいた全員が目を疑った。
「君たちは僕を殺さないのか?」
「殺す気はありませんよ。全てはあいつを倒すための作戦ですから」
「作戦、ですか?」
「えぇ、天魔は倒さなくてはなりません。なので、彼の力を頼ることにしました」
「彼、白夜君のことだね?」
結菜は力強く頷く。
「正直、私は疑ってました。強いと行っても人間です、そこまで差はないだろうと。ですが、戦って分かりました。彼は強すぎる」
「さすがは剣聖と言ったところですかな」
爺は呑気に笑っていた。それを見た結菜はため息を吐いている。
「本当に死ぬかと思ったんですからね! あの人物理しか効かないのに物理は通らないし! どっから攻撃しても刀で弾かれるし……もう意味不明です!」
「それが、剣聖の間合いというものですぞ」
「剣聖の、間合い?」
その言葉に反応したのは澪奈だ。もちろん、他の面子も気になってはいるようだが。
「彼の剣の届く範囲の事ですよ、可愛いお嬢さん」
可愛いと言われて、照れる澪奈。それを見て笑う爺は更に続ける、
「その領域に入れば瞬く間に切り捨てられ、生きて帰れることはない。剣を極めし達人である白夜殿に名付けられた領域名です」
「名付けられた?」
「はい。彼が付けた訳では無く、あくまで周りがそう呼んでいるだけですよ」
「にしても卑怯ですよね! 物理では歯が立たないし、魔術は無効。これがチートってやつです!」
結菜は悔しそうに歯を食いしばっていた。
そこで、聖奈が瞼がピクっと動く。そしてゆっくりと目を開いた。
皆が安心の目で、且つ少し心配そうに目を向けた。
「お姉ちゃん!」
「ごめんなさいね。作戦とは言え、酷いことをしてしまった。本当に申し訳ありません」
結菜は深く頭を下げる。その隣で爺も頭を下げた。
「微睡みの中で聞こえてたわ。作戦、なのでしょう?」
「はい、全てはあの天魔を倒すために」
「……天魔。彼らは何者なのでしょうか?」
「未知なる種族、と言った感じでしょうか。詳しいことは私たちもわかりませんが、人間の敵であることは間違いないです」
頭を上げる結菜と爺。
「彼は勇者を殺すと言うなら、特別にここにいる皆を生きて返してやろう。そう交渉を持ちかけてきました。その時点で、天魔は敵でしかありません。ですが、生きる為に私たちはそれを承諾するしかありませんでした」
「で、でも! 勇者は呪いだって白夜君が!」
結菜は頷いた。
「えぇ、それは間違いありません。ですが、この世界を救うことが出来るのも勇者だけです」
その場にいる結菜と爺以外は、全く理解が出来なかった。
「今は理解する必要はありませんよ。全ては、勇者次第なのですから。滅ぼすも生かすも勇者次第、ということです。もちろん」
結菜は神薙を見る。その目は細くなっており、獲物を捉えるような目で見ていた。
神薙は背中が冷たくなったのが分かる。向けられているのは弱くとも殺気だ。
「貴方が世界を滅ぼすと言うなら、私たちは全力であなたを殺します。もちろん、それは剣聖も同じでしょう」
「……僕は世界を救う。勇者だから」
苦しそうに出した答え。神薙はそれを答えるだけで精一杯だった。
それを聞いた結菜は、目を閉じて息を吐く。
「そうですか。とりあえず今は、その言葉を信じておきましょう」
そう言ってまたドアを見つめる。
「あ、あの。1つ質問が……」
そう声を上げたのは澪奈だ。澪奈は発言するのを求めるためにだが、小さく手を上げていた。
「どうしたの? あなたにも悪いことをしてしまったし、何でも答えますよ」
「どうして、白夜君がここにいると分かったんですか?」
「花音ですよ。彼女は白夜がここにいることを知っていました。そこで剣聖を探していた私たちに、交渉をもちかけて来たんですよ」
「交渉?」
「えぇ。剣聖の場所を知っている。私を彼と会わせてくれるなら、その場所を教えてもいいってね。私たちは直ぐにその交渉を引き受けた。そして、今回の作戦を考えついたわけ」
なるほど、とその場にいた全員が納得した。
全ては、彼女らが考えた作戦だった。そして今、それが最終段階なのだ。
「今回の作戦はあの天魔を倒すことです。そして、次のステップに進まなくてはならないのですよ」
「だから、勝ってくださいよ。美祈様、そして剣聖」
「大丈夫です。きっと勝って帰ってきますよ」
その場にいる皆がそう祈るばかりであった。




