少年は正義を貫く20
白夜の刀と天魔の刃がぶつかった時、白夜の刀が折れることはなかった。
岩をもバターのように切る程の切れ味。それをただの刀で防いだ事で、天魔は非常に驚いた表情を見せる。
実際、この刃が切れないものはないと思っていたし、切れないものは今までなかった。初めての事で目を見開いて驚いていた。
しかし、それ以上に天魔が驚いたのは目の前の光景だ。
風の刃が徐々に緑色に光る粒子となり、刀に吸収されていくではないか。
「こ、これは!」
「いただくぜ!」
天魔は一瞬考えるそ素振りを見せるも、すぐにその場から離れようと移動する。
が、それよりも早く伸ばしていた白夜の手が天魔の胸ぐらを捕らえる。
天魔はしまったといった表情を浮かべた。
「な、なにっ!」
白夜はそのまま天魔を地面に叩きつける。天魔は肺の中の空気をすべて吐き出された。
そしてその天魔を踏み台にして上空に浮かび上がり、刀の先を天魔に向けて構える。
「おのれ! 人間風情が舐めるなよ!」
鬼の形相で白夜に向かって手のひらを向ける。そこから風の刃が発生し、白夜に向かって放たれる。それと同時に白夜の左目が蒼く光り輝く。
白夜の天の恩恵【事象停止】だ。
天魔が放った風の刃、そして防御の為に纏っていた竜巻が緑の粒子となって消えていく。
それを見た天魔は、苦虫を噛み潰したような表情で白夜を睨みつける。
「ぐっ、おのれ小童! この我は、貴様如きに負けはせぬぞ!」
やはり、彼は人間と違った生物と言う事か。彼は一瞬にしてその場から少し離れた場所に移動した。
美祈の天の恩恵の様な移動。しかし、それは瞬間移動ではない。ただ単に早すぎる移動術だった。
白夜は地面に着地すると、少し離れた場所で激しく息を荒げる天魔に向かって刀を振るう。それは離れている天魔に当たるはずがなかった。
刀は空を斬った。しかし次の瞬間、天魔の腕が斬り飛ばされた。
それを認識できないまま、天魔は飛んでいく自身の腕を見ることしかできなかった。斬られた場所からは赤い血が噴き出る。
「わ、我の腕がアァァァァ!」
腕を押さえて悲鳴を上げる天魔。白夜は油断することなく、その場で刀を構える。
が、その時だ。少し離れた場所で銃声が聞こえた。
「それだけでは奴は倒せないぞ!」
そう聞いたことのある女性の声が聞こえた。声色で白夜は無自覚で身構えたが、発砲対象は白夜ではなかったようだ。
その放たれた銃弾は、天魔の頭に命中する。その後、ぐったりと地面に倒れた。
地面が腕から流れる血で真っ赤に染まっていく。
「倒したのか?」
「倒せるものか。あれでまだ健在だ」
美祈が白夜の隣まで歩いてくる。白夜は両方に対して身構えるが、美祈は白夜に対して攻撃する気はないらしい。
「くくく。まさか、事象停止にマナを吸収し放つ特性の忌々しき星天武装を持っているとは、些か驚きよ」
倒れている天魔の方から声が聞こえる。それは先程までの声とは全く違う声だ。
男性とも女性でもない聞きなれない声の笑いが辺りに響いていた。
「貴様、増援は要らぬと言った筈だぞ?」
「もちろん。貴様の増援に来た訳では無い」
「くくく、我を騙していたというわけか」
天魔はゆっくりとした動きで上空にふわりと上がっていき、上空でピタリと止まった。
目は閉じられており、意識はなさそうに見える。だが確実にこちらを捉えており、こちらに向かって声を出している。
「が、残念だったな。貴様らの行動など、我には筒抜けよ」
美祈は冷静を装ってはいるが、その表情は険しくなっていく。
「我が初めに遺跡へと勇者を誘導した後、貴様はそこな剣士を遺跡へと誘導したであろう? 多額の金額を払ってまでな」
「……もしや、俺が勇者に会った時の」
美祈は観念したように目を閉じる。
「なるほど、初めからお見通しと言うわけか」
「くくく、そうだそこの貴様。気になっていることを教えてやろう。ここの場所を選んだのは勇者を守る為、貴様がいるこの町を選んだのだ!」
まるで心を読まれているような感覚を覚える。確かに、そこは白夜も気になっていた。
まさか勇者を守る為だとは思っても見なかったが。
「やれやれ、バレてしまっては仕方あるまい。天魔、最後に教えてくれ。貴様らの目的はなんだ?」
「くくく」
天魔の怪しい笑いが、辺りに響き渡る。
「いいだろう。貴様らの最後に教えてやっても良いぞ。我らの目的は人間の破滅! そして、我らの大地を再び手中に収めること! 」
天魔が言い終わると、今までにないくらいのマナの振動が置き、起こる地響きに白夜と美祈はしゃがみこんだ。
その後落ちていた天魔の腕が浮かび上がり、吸い込まれるように天魔の切れた場所にピッタリくっついた。
天魔はグーパーすると、満足気にニヤリと笑った。それを見ながら、美祈は白夜にだけ聞こえる声で白夜に問う。
「白夜、まだ左眼は有効か?」
「なんとか。しかし、そこまで長くは持たんな」
「アレ相手に短期決戦か。フッ、いいだろう。その挑戦受けて立とうではないか」
「あんた、存外戦闘厨だよな。だが、今回ばかりは俺も本気で頑張ってやるのぜ!」
白夜と美祈は立ち上がり、それぞれ武器を構える。
それを見た天魔はまた不気味に笑い始める。
「さぁ、決戦だ。勝つのは我らの悲願か、もしくは貴様らの可能性か。勝負しようではないか!」
白夜は走って距離を詰め、天魔に向かって斬り付ける。そして、それを天魔は風の刃で受けた。
もちろん白夜の刀がマナを吸収し始めるが、その風の刃は弱まることを知らなかった。
「所詮人の技術など、そのようなもの。我らの力には到底及ばぬ」
天魔は白夜を軽く押し返す。
そこに美祈の銃弾が襲いかかるが、それは周りに纏う風に阻まれる。
「女の銃弾は、我には当たらぬ。まずは事象停止でマナを止めるのだな!」
その後、側面から奇襲した白夜が高速の斬撃を見舞うも、それを高らかに笑い飛ばしながら打ち返す天魔。
それに対し、美祈は舌打ちだけを返した。
すぐ天魔は美祈の方へ、白夜をはじき飛ばす。白夜は美祈の隣へ地面を滑りながら止まった。
「物理攻撃はきついな」
「あぁ、しかし我らは魔術を扱えん。敵としては最悪だろうな」
「だな。とはいえ、魔術すら跳ね返しそうなあの竜巻が厄介だな」
「あれをなんとかするには、事象停止しかあるまいて」
方法はある。だが、それをするには相手の不意をつくしか無い。しかしそれはかなり高難易度であった。
なぜなら先程と同じことをしなければならないのだ。
相手はそれを知っており、警戒するだろう。だからこそ、その警戒を超えていかなければならない。
状況は絶望的。白夜は重くなってきた左眼を無理やりこじ開け、天魔を睨みつけた。




