少年は正義を貫く17
始まりは、初老の男性と名の知らない女性が同時に白夜へと距離を詰める。美祈は後方で白夜に向かって銃口を向けている。
「悪く思わないでね!」
「お覚悟を!」
剣を振りぬく女性と初老の男性は同時に斬り掛かる。が、白夜はそれを簡単に斬り捨てる。楽に返されたことに驚いた表情の2人だったが、すぐさま次の攻撃を仕掛ける。
そしてその間を縫うように、後方にいる美祈が銃弾を放つ。
コンビネーションは完璧だ。
「だが、まだ甘い!」
銃弾は白夜に届く前に斬り落とされる。見えない位置やいろんな方向から放たれた弾丸は3つで、そのいずれも白夜に届かない。
そのついでに前衛2人の攻撃を避けつつ捌きつつ、隙を見て蹴りや拳を打ち込んだ。
「かはっ!」
「結菜様!」
初老の男性に結菜と呼ばれた女性は、白夜の蹴りをお腹にヒットして宙を舞う。肺の空気を全て押し出され、誰もいない方向に吹き飛んでいった。
その後、素早く立ち上がった結奈だったが、足元がおぼつかずフラフラしている。
「他人の心配している場合かな?」
「爺! 後ろだ!」
「ぬっ!」
いつの間にか初老の男性の後ろにいた白夜は、足を蹴り転ばせる。そして後ろ襟を掴み、そのまま結菜のいる方向に投げる。
軽く飛んでいく爺と呼ばれた男性は、なんの抵抗もなく結菜の方へと飛んでいく。
「っ!」
フラフラしながらも、受け止める体制に入る結菜。そしてなんとか受け止めるも、2人はすぐには立ち上がれない。
が、その隙を白夜は逃すことは無い。美祈の近づかせまいと放つ弾丸を全て斬り落としながら前進し、白夜は刀を振り上げる。
2人は避けきれない。大出血を免れなかった。
しかし、そう覚悟した二人だったが、その攻撃も2人に届くことはない。もちろん地面が真っ赤になることも、血が吹き出すこともなかった。
一瞬で間に割り込んだ美祈が、白夜の刀を自身の剣で受け止めていた。
「さすが。やはりこの天の恩恵は厄介だな」
「お前程ではないがな」
美祈は吐き捨てるようにそう言って、力任せに押し返した。白夜は後ろへ後退する。
彼女の天の恩恵は【神瞬】。内容は単純で、瞬間移動をする力である。単純な能力だが、実際に戦ってみればそれは非常に強力で相手にすれば厄介な天の恩恵である。
攻撃に使われれば、意図しない方向から斬撃や銃弾が飛んでくるのだ。それがどれだけ厄介なものか。
また今のように遠い位置にいようが、一瞬で駆けつけて防御することも出来る。
【神瞬の美祈】
美祈を尊敬する人達や有名な犯罪グループまでもがそう呼んで彼女を敬い、恐れた。
ちなみに先程までの銃弾も、それを使用して様々な方向から銃弾を打ち込んでいたのだ。
しばしの静寂。その時、初老の男性は地面に座り、どこか遠い目をしている。
「ほっほっほ。これだけ理不尽な強さを味わえるとは。長生きはするものですな」
「笑い事ではありませんよ! なんで3対1でこちらが劣勢なんですか! 頭おかしいでしょ!」
「。……本当に遅かったな」
白夜は美祈のその言葉を理解出来ない。否、理解する気がなかった。のだ白夜の中にある疑問は、また別の場所にあった。
「ひとつ聞く、この町での目的はなんだ。勇者の暗殺なら、ここで行う必要はなかろう」
白夜の言う通りだ。暗殺なら、この場は不適切。人目のつかないところ、例えば森の中や遺跡内なんかの方が適している。
むしろ町の人まで誘導し、且つ学校内部で行うのは相当デメリットが大きい。
「あぁ、暗殺には不向きだろうな」
しかし、美祈ならそれを理解しているはず。
帝国騎士であった以上、暗殺後の処理や犯人の経緯と捜索、そして暗殺手口まで調べることは珍しくない。
ならば、暗殺の手口を1番熟知しているはずだ。
こんな公で暗殺に及ぶ様なことはしないだう。となれば、他の目的があるのは明確だ。白夜はそれに警戒して周りを見渡す。
未だ聖奈を治癒する神薙と雫。それを見守る澪奈、校長、亜蓮、真由子。そして白夜に相反する爺と結奈と美祈。今いる空間にいるのはこれで全てだ。
「ここを選んだ理由は、お前だ」
「俺?」
白夜は頭を傾げる。
「私たちも依頼があってな。遠い町で暮らす貴族の子が、この町にいる学生に会いに行きたいと」
「へぇ。貴族に知り合いはいないがな」
「まったく。剣以外はてんでダメな大バカ者が」
「誰が馬鹿だ。真面目に答えろよ」
美祈はやれやれと言った感じに肩をすくめる。それは呆れたような、そんな感じに見える。
「東条 陽菜。この名前に聞き覚えがあろう」
それを聞いて白夜は目を見開く。
「赤の他人には呼ばれたくないと仮の名前で表に立ち、ただ一人大切な人を追いかけた彼女の気持ちを、お前には理解できないだろうな」
「……まさか、あの舞姫が」
そこでようやく、舞姫がテントの中でずっと話しかけてきたことに合点がいった。
「だが、それはこの町で勇者暗殺を行う理由にはならんぞ。俺のことを知っているあんたなら、むしろこの場を避けるだろう」
それを聞いた美祈は目を閉じる。そして重そうに口を開く。
「お前がいるから、この町でしなくてはならんのだ」
白夜はその言葉を理解できない。だが、それは先程みたいに理解しようとしていないわけではなかった、本当にいくら考えても、その答えらしき答えが思いつかない。
そう考えていたその時だった。
『おいおい! 勇者暗殺の報告がこねぇと思っていたら。これはどういうことだ?』
そんな飄々としたような男性の声が、辺りに響いた。
この場にいる誰でもない。白夜は聞きなれない声を探そうと辺りを見渡すも、その姿は見つけることはできなかった。
「予想外の相手がいた、それだけだ」
『しょうがねぇな! この俺様が手伝ってやるよん!』
なにもない部屋の端で風が渦巻いて竜巻が起き、その中から人型の何かのシルエットがこちらを見ていた。




