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英雄は空へと駆ける  作者: まるゆ
35/42

少年は正義を貫く15

 扉の先は校舎内とは思えない、草原が広がっている。魔物も少なからず存在するようだ。


 吹く風、照らす太陽。まるで街の外に出たかのような不思議な感覚に見舞われる。


 そして、離れた先には岩肌に囲まれた建物が1軒。そこが校長室なのだろう。


「あそこだな」


「あのさ、校長室に今回の首謀犯がいるの?」


「あぁ恐らくは。勇者は校長と話をすると言ってたから」


 澪奈にそう言った後、白夜は前へと歩き始める。草原を歩けば、やはり外となんら変わらない。


 2人は歩いて校長室へ歩いていると、真ん中くらいに差し掛かった辺りで白夜は不意に立ち止まる。


「澪奈」


「な、なに?」


 白夜は振り返りもせず澪奈の名前を呼ぶ。


 ビクッとなった澪奈は、これからの事を考えて緊張や不安があるのだろう。


 それは表情にすら現れている。しかし、そんなことは振り返って澪奈の表情を見なくても分かる。


「いいか、これからの戦いは澪奈にとって荷が重い。自分の身を守ることに専念し、何かあったら逃げろ」


「え? う、うん。わかった!」


「相手は、あの人は強敵だ。……出来れば戦いたくはなかったな」


 そこで白夜は大きなため息を吐いて、また歩き始めた。その表情は本当に嫌そうな表情であった。


 白夜にとって、その人はそれ程戦いたくはなかった。


 強いとか、厄介だからとか色んな理由はある。しかし、白夜にはそれ以上に戦いたくない理由があった。


「白夜君、その人はどんな人なの?」


「……頭がよくて、強くて、とても尊敬できる人だ。あの人の信念は、誰かに真似できるようなものでは無いよ」


 だからこそ、白夜は今回の件は止めなくてはならなかった。


 尊敬する、あの人の為にも。


「止めなければ、きっとあの人は後悔する。自分のしたことに、死ぬ程後ろめたくなる」


「そっか。なら止めてあげないとね!」


 澪奈は笑顔でそう答えると、白夜はうっすら口角を上げた。


「あぁ、そうだな。しかし、誰かが道を間違えたなら、他の人が正しい道へ正してやればいいって。そう言うのは簡単なのに、これだけ実行が難しいとはな」


 少しずつ近づいてくる校長室。ようやくたどり着いた場所は、凄く遠く感じた。


 しかし、近づけば金属のぶつかる音が鳴り響いているのがよく分かる。たまに爆発に似た音がするのも、恐らくは魔術などによる物だろう。


 誰かが中で戦っているのは明確だ。


「やはり、ここにいるようだな」


「戦ってるね。勇者と、あとは白夜君の知り合いの人かな」


「あぁ、どうやら間違いないようだ」


 白夜の表情は一層、険しいものになっていく。今までは違ってくれればそれでよかった。推測なんだから外れてしまえばいい。


 そう思ってはいたが、いざ目の前に立って戦いで発生する音を聞いていると、それは現実のものに変わっていった。


 白夜はついに来た校長室の前に立ち、深呼吸をする。


 そして校長室を守るように貼られている結界を見る。結界の強度的に、相手は1人ではないようだ。


 澪奈はそれにぺたぺたと興味本位に触っている。


「これじゃ入れないよ!」


「結界は別に問題ではない。あと、結界は無闇に触るな。反射結界とかだと怪我じゃ済まないから」


 そう白夜が言えば、慌てた様子で結界から離れる。


「まったく、相変わらず用意周到な人だな」


「あ、そっか! 白夜君には天の恩恵(スキル)があるんだ!」


 これから大変なことになると分かっているのに、澪奈は陽気なものだ。


『勇者様! 私から離れないで!』


 そう女性の声が中から聞こえた後、澪奈がビクッとなって硬直する。


 白夜も聞き覚えのある声。


 その声は、澪奈の姉である聖奈の声なのはすぐに分かった。


「白夜君! 急がなきゃ!」


 澪奈は青ざめた顔で、今にも泣きそうな表情になっている。


 剣がぶつかる音、爆発音、そして何か鋭いものが壁に突き刺さる音。


『ほう、まさか学生で天の恩恵(スキル)を扱うとは。もったいないな』


 その声は、至って冷静な女性の声だ。神薙と二人でいた時など、花音の隣にいた背の高い女性と同じ声だ。


 その声を聞いた白夜は、左目を青く光らせた。


 やばい、そんな小学生並の語彙力しか出ない程の焦りが生まれる。


 なにを呑気にしていた! 状況は、最悪じゃないか!


 そんな事を考えていると同時に、光の粒子になって消える結界。それさえも遅く感じる。


 長い時間がかかった感覚に見舞われた結界が、ようやく無くなった瞬間に澪奈は扉を乱暴に開ける。




 ザシュ……。




 開けた瞬間、聞こえてきたのはそんな音だった。


 遅れて地面に落ちる赤い液体、それが血であることはすぐにわかった。


 その後、手からこぼれ落ちる剣が軽い音を立てて地面に転がっていく。


 澪奈の目は、信じられないと言ったように大きく見開いていた。


「増援か、些か遅かったな」


 そう言い放った女性は胸を貫いた剣を乱暴に引き抜けば、胸を貫かれた女性は力なくその場に倒れた。


 背の高い女性は、冷静な表情で赤い血が大量に付いた剣を振るって血を払う。


 その後方には神薙を含めて5人、勇者パーティとスーツを来た女性である校長。


 その全員が目を見開いていた。


 そして、その反対側には高齢の男性と20代前半の女性が1人立っていた。


「お、お姉ちゃん……?」


 そう隣で聞こえて目をやると、澪奈は震えていた。目の前の事態がようやく飲み込めたのか、目から涙が流れ落ちている。


 そして、危険を顧みず力なく倒れた姉の元へ走り、抱き起こした。


 止めどくなく流れる血を気にすることなく、必死に姉に声をかけ始める。

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