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英雄は空へと駆ける  作者: まるゆ
34/42

少年は正義を貫く14

 現在、遅れてきた恵夢に狂島を治癒してもらい、縄で括っていた。


 そして先生は周りに散った血の片付けをしている。


「白夜君」


 不意に白夜へ声を掛けた澪奈。しかし、その表情は少し怯えているか。


 声掛けづらそうに口ごもり、なかなか話だそうとしない。


「俺が、怖いか?」


 澪奈が話しかけるよりはやく白夜が言うと、澪奈はビクッとする。その後、直ぐに小さく頷いた。


 恐らく他の生徒も同じだろう。しかし、それは仕方の無いことだ。


 目の前で人が死にかけたのだ。血を散らし、倒れる姿はあまりに人が見ていい場面ではない。そんな状況を作り出した


 他の生徒も今までとは違った意味で距離を置いていた。


「剣を持てば、それは殺し合い。遊びで持っていいもんでは無い。人は簡単に死ぬ。死には、誰であろうと抗えんよ」


 白夜は一息つき、さらに続けた。


「お前たちはそれを覚悟で、武術や魔術を習っているんだろ?」


 白夜の言葉に誰もが頷かない。それどころか白夜から目を話す者の方が圧倒的に多い。


「ち、違うよ!」


 唯一反応したのは澪奈だ。白夜はキツく睨むように澪奈を見る。


 澪奈は少し怯えたような声で話しかけた。


「確かに、この力は人を殺めるかもしれない。だけど、それは人を守れる力にもなる! 私は殺す力ではなく、守る力を身につけてるの!」


 それを聞いた白夜が「ほう」と一言静かに言うと、澪奈は体を強ばらせる。


 しかし、その目はしっかりと白夜へと向いている。


「そうだな。澪奈なら、そう答えられるだろうな」


 そう白夜に言われて安心したのか、安堵の表情を見せる。


 しかしその直後、地面の方から「くっくっく」と怪しげな笑い声が聞こえた。


 その方に目をやると、そこには縄で縛られている狂島が笑っていた。


「なにが守る力だ。どの道それは殺すことの出来る力じゃねぇか。なら根本的になにも変わらねぇ!」


 そう笑いながら大きな声で言う狂島が言い終わると同時、彼は宙に舞った。


 白夜が彼を蹴りあげたようだ。狂島は苦しそうなうめき声をあげて、地面に落ちる。


「次は斬る」


「でもよ! お前だって気がついてるだろうよ! この世の中はそう言う仕組みになってんだ!」


「だからこそ、その仕組みに抗わないといけないんよ」


 やれやれと言った表情で肩を竦め、白夜は歩き始める。向かう先は教室の外だ。


「お前はその境地に至ってんだろ! ならやるべき事は分かってるはずだ!」


「だからこそだ。自分たちと同じ過ちを繰り返さぬよう、他の人達に教えるべきなんよ。それが、至った者の役目ってものだから。それに」


 白夜は教室の扉があった場所まで歩き、話を続ける。


「お前たちの見た物は、まだその境地では無いんだよ。それじゃあな、さでゅー」


「おい、今のどういう事だ! 待てよ!?」


 狂島が白夜に問いかけるが、それを無視した白夜は教室を出て廊下を歩き始める。


 教室を出た後も叫んでいるが、白夜は気にすることは無かった。少し前に進んだ後、後ろの方から走ってくるあし音が聴こえる。


「白夜君!」


 そしてそう呼んだのはまたも澪奈だ。白夜は振り返ると、澪奈は白夜の前に立ち止まる。


「白夜君は、なんでそんなに強くなったの?」


「は? それ今聞く?」


 澪奈は黙って頷く。それにため息を着いて返すと、白夜は歩き始めた。


 駄目かと諦めてただ立ち尽くす澪奈。


「時間がない。歩きながらなら話そう」


 そう言われ、表情が明るくなった澪奈は白夜の後ろまで走る。そして、白夜の後ろをついて歩き始めた時、白夜は口を開いた。


「さて、どこから話したもんかな」


 今の廊下はいつにも増して静かだ。その為白夜の声も、歩く足音さえよく聞こえる。


「初めは、勇者になりたかった。絵本に出てくる、強くてみんなを救える勇者に」


 白夜はひたすらに人を救うために戦った。そうすれば、いつかは人々を守る勇者になれると信じていた。だからこそ、剣を握って死にそうな思いもしながらもただ目指す目標に対してひたすら突っ走った。


 信じていれば、夢は叶うと思っていた。


「だけどな。強くなってから気がついた。その大変さと苦しさに。全員が全員、救えるはずがないんだ」


 そう、現実はいつだって甘くはない。たくさんの人を救い、たくさん戦ってきた。だが、その時気が付いてしまった。


 自分が、助けられる量には限度がある。いくら強かろうと、いくら思いが強かろうと、人のできる範囲は限られている。


 物理的に無理なことは無理なのだ。それが人間であり、世界の法則だから。


「俺が救えるのは、この刀が届く距離。そしてこの手が差し伸べられるのも、目の前の人間だけ。そう気がついた時には、全てが遅かった」


 澪奈は声を掛けようにも掛けられなかった。


 掛けられる言葉を持っていなかったのもあるが、それ以上に白夜の声がどこか悲しげだった。それに対し、澪奈は言葉を失ってしまった。


 そんな白夜を見たことなかったから。


「それからいろいろ知ったな。勇者の事も、そして世界のことも。それからやる気なくして、気が付いたら今になってた。でもな、最近やる気が出てきたんよ」


「なんで?」


 曲がり角を曲がり、先へと進む。そこまで来て、白夜がどこを目指しているのかはっきりと分かった。


 校長室だ。校長室は校舎の一番奥にあり、その部屋だけ、本校舎とはかけ離れた場所にある。その為、そちらに向かう場合は校長室に行くときだけだ。


 校長室へと続く廊下の前には扉がある。白夜はその把手を掴んで開ける。外に出たからか、太陽が二人を照らす。


「輝く若葉はしっかりと芽吹いている。いつかきっと、あるべき世界にしてくれると思ったんだ。その為に、まずは世界を救わんとな!」


 白夜はそう高らかに言い放った。みんながみんなではないかもしれない。いやみんながみんなそうじゃない。


 澪奈や一輝みたいに前を向いていく人もいれば、そうじゃない人もいる、だが、それがどうした。夢の為、目標の為に頑張っている人がいるなら、世界を救う価値は十分にある。


 自分のしてきたことが間違いではない。今ではそう胸を張って言える。


 小さな頃の夢は、叶うことはない。しかし、願う思いは昔以上に強くなった。自分の胸にあるのは信じる心と信念を貫き通す正義。


 その正義を貫くには、まずは世界を救わねばならない。そしてその為には勇者に頑張ってもらわなくてはならない。


 若葉が芽吹く世界を、救うためにも。白夜は、今の自分の生き方に満足していた。頑張る人の為に頑張る、それがなんと名誉なことか。


 今なら分かる気がした。


「俺が強くなったのは、みんなを守る為さ」


 白夜は肩を回し、太陽の下へと足を進めた。目の前は、とても明るいのだから。

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