少年は正義を貫く12
地面を叩く莉桜の鞭は、再度地面を砕く。が今までとは違い、砕けた地面から土でできた棘が多数発生し、それが走るように白夜を襲う。
「私のスキルは強度を高めるものでも、大地を砕く能力ではなくてよ! 私のスキルは地を操る能力ですわ!」
とりあえず走る棘を横に移動する。その棘は白夜の横を通り過ぎた先で消えていく。白夜はそれを眺める。
「へぇ、遠距離攻撃までできるのか。これは凄いな」
「関心するのはまだ早くてよ!」
今度は連続して3回、鞭を地面に叩きつける。するとその三か所から先程と同じ地面から棘が次々と発生し、それが三方向に分かれる。
白夜は周りを見渡して地面で安全な場所がないことを確認。
そして少し考え、上空に大きくジャンプした。地面がダメなら上空へ。そんな短絡的な発想だったが、そこで莉緒は口角を上げた。
「頂きましてよ!」
それを見越していたのか、莉桜は鞭を上空の白夜に向かって打ち付ける。
「そう、地面からの攻撃は上に良ければ当たらないですわ! ですが、上に避けた瞬間、無防備になるのよ! だから、そこを狙うのですわ!」
莉桜の言う通り、今のままでは当たることを確信している。横に回避しても、防御しても攻撃が命中するのは目に見えていた。
勝った。莉緒はそう確信した。
しかし、それ通りにはことは運ばなかった。白夜は身を捻った後空を蹴り、さらに上空へ飛んで行く。
目の前のあり得ない光景に、莉桜は目を見開く。莉桜の鞭は、白夜がいた場所を虚しく通り過ぎるだけに終わった。
「2段跳躍……まさかそんな事を可能とする人がいるなんて」
白夜はさらに空を蹴って横に移動し、まるで空を飛んでいるかのように移動する。
「飛行魔術なんてものは存在しない。魔術でないなら、まさか天の恩恵? しかし、天の恩恵で空を飛ぶなんて聞いたことないですわ!」
莉桜は白夜が空を蹴って移動するのを目で追いかけるが、それは追いつくのでやっとだった。
学校の壁や、建物、地面、空気を蹴って移動する白夜を、莉桜はなんとか追いかける。
しかし、追いつくのがやっとで行動できないし、攻撃する隙すら見破れない。そして、それは唐突に終わりを迎えた。
「残念。これは俺の身体能力によるもの」
そう白夜の声が聞こえた時、いつの間にか目の前に立っていた。莉桜の首元には刀の峰を当てっている。それは負けを意味しており、莉緒はすぐにそれを理解した。
莉緒は手を挙げ、降参を示す。
「完敗、ですわね」
「おやおや、案外諦めがいいんだな」
白夜は刀を鞘に仕舞う。
「あなたこそ、引き際が良いのではなくて? あなたが引いた後に不意打ちするとは思わなかったのかしら」
「そんな卑怯なことする?」
「もちろん致しませんわ! 既に勝敗は決しましたし、そんな卑怯な手を使ってもあなたには敵わないでしょう」
少し諦めたような表情で話す莉緒からは、既に殺気は感じられない。目の前には華奢で守ってやりたくなるような美少女がいる。
「一つだけ、教えてくださいまし。あなたはどこまで知っているのでしょう? 話していてわかりましたが、あなたは知っているのでしょう?」
白夜は一瞬黙る。そして、ゆっくりと口を開いた。
「目の前の敵が、本当に敵なのかね?」
莉緒には理解できなかった。自分たちの敵は魔王であり、それが元凶だと思っている。だからこそ、それを否定したような言葉は頭に入ってこなかった。
悩んだ表情をしている白夜は少し考えた後に口を開く。
「今日の常識が明日の常識と言うわけではないと言う事さね」
「……やはり、答えは教えてくれないのですね」
「まぁ自分で知らないと意味のないことだしな。それに、その境地に至ればおのずと知ることになるさ。真の敵は何か、ね」
莉緒はこれ目でに見せたことないぐらい難しい顔をしている。それを見た白夜は少し笑って、また話始めた。
「そうだな。あんたは天の恩恵ってのはどうやって発現するって思ってる?」
「え、レベルでしょ? 一般的にはそう言われておりますし、研究結果でも……」
白夜は首を横に振る。
「違うんだな……正解は、人間の負の感情だよ」
莉緒は驚いた表情もせず、ただ白夜の話を聞いていた。既に白夜が言うことに驚きすぎて、既に驚くと言うことを忘れていた。
「怒り、苦しみ、そして悲しみに恨み。そういった負の感情に体内のマナが反応して事象変化を起こす。そうやって発現するのが天の恩恵さ」
「そんな馬鹿な……と言いたいですが、きっと」
「はは、その馬鹿ってやつなんだわ。あんたなら分かんだろ?」
莉桜は言葉が出ない。事実だからだ。莉緒が知る限り、天の恩恵を持っているのはそういう人ばかりだ。そして発現したタイミングも。
「人の正の感情よりも、人の負の感情の方が強いんだろうよ」
莉緒は納得していた。
「私は家族に追い出され、美沙様に拾われる前。山賊に襲われた時……」
そこで莉緒は口を押える。過去を思い出し、気分が悪くなってしまったようだ。
「マナは人の言葉や想いに反応する。詠唱やイメージだけで魔法陣を出せるのと同じようにな。ようするに天の恩恵ってのは、自分の中にある負の感情がどれだけ強いかってことなんだよ。あまり褒められた力ではないんだわ。それをみんな誇らしげに……」
そこまで言ってハッとなる白夜は「いかんいかん」と顔を横に振る。言い止まった白夜は踵を返し、校舎内へ歩き始める。
「しまった、目的があるんだった。あんたの大好きな美沙様は少し戻って商店街前の建物の間にいる。さっさと行かないと、あんたの妄想が現実になっちまうぞ」
「……教えていただき、ありがとうございますわ。この借りはいつか返します」
莉緒は胸の前で手を合わせてお辞儀をする。白夜はいらんいらんと手をひらひらさせて、そのまま校舎内へと消えていった。最後にその場に残ったのはいつも静寂だ。
しかし、今回はもう一つ残っていた。
それを見た莉緒は寒気がしてきたので、その原因に対してすごく嫌そうな表情で、すごく思いっきり蹴り飛ばした。するとその原因はエビ反りになり、気持ちよさそうな顔でこう叫んだ。
「あひぃー!」




