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英雄は空へと駆ける  作者: まるゆ
31/42

少年は正義を貫く11

 それから数分、女性は鞭を打つ蹴るを繰り返した後に後ろへ下がった。少々息が上がっている。


「はぁ、はぁ。こんな雑種、相手にするだけ時間の無駄ね。さっさと終わらせてくれる!」


 そこで彼女の鞭が黄色い光を纏う。先程の似た光景に、白夜は少し構える。


「恵夢! これは危険だ、下がれ!」


 白夜の大きな声での問いかけは恵夢には全く聞こえていないようだ。


彼は地面に寝ころんだまま魚が陸に上がったようにビクビクしており、その場から動こうとしない。


いや、動けないが正しそうである。


 これはもうだめだと思った白夜は諦めることにした


「お姉様の初めてを奪ったあなた達は生かしておけません。仇を取らせていただきます」


「別に奪ってなければ、殺してないけど。しかし、天の恩恵(スキル)なんて危なっかしいものを使ってくれるな」


 彼女から放たれる気は、空気を通してピリピリと伝わってくる。これは恐らく殺気であろう。


 そして鞭が黄色い光を放っているのも相まって、非常に危険な状態である。鞭に事象変化を付与すること。これが彼女の天の恩恵(スキル)なのだろう。


 どのような天の恩恵(スキル)かは分からない。見た感じだと先程の美沙と同じように見えるため、物体を飛ばす系であろうか。


「まだ時間が……仕方ない」


 白夜はため息を吐いて拳を構える。


「ようやくあなたも戦う気になりましたか。この雑種はただ虐められたい下衆。あなたは少しは違う雑種かしら?」


「雑種、雑種ってうるさいわ。俺には十六夜 白夜って名があるんでね!」


「あらごめんなさい。あなたに名前があろうと、てんで興味はありませんの。ですが相手に名乗られた以上、私が名乗らない訳にはいきませんわね」


 彼女は足を揃え、お辞儀をする。


「私は一ノ(いちのみや) 莉桜(りお)。最後に見たのが私だなんて、あなた幸せ者よ」


「なにが幸せ者よ、だ。あんたよりさっきの美沙様の方がお綺麗だったのぜ」


「ふふふ、やはりあなたは殺さなくては。お姉様を狙う不逞の輩は、全て排除せねばなりません」


 莉桜から放たれる先程よりも強い殺気。


 彼女の睨みは、蛇に睨まれたカエルの気分を味わえる。先程の美沙よりも、格上なのは間違いない。


 そこで莉桜は鞭で地面を叩く。先程の音を鳴らすだけでなく、当たった部分が大きな音を立てて地面が割れる。


 白夜は目を見開く。威力がけた外れに上がっているのだ。これが生身で当たったらと思うと、体が一気に寒くなる。


「私の天の恩恵(スキル)烈臥(れつが)】であなた達を倒して差し上げます!」


「なんだ? 天の恩恵(スキル)持ってるからって強者気取りか? そこが知れるな」


「ふふ、あなた達よりも辛い過去を経験してきたもの。気取り、ではなく強者なのよ」


 彼女の威圧する目には、はっきりと自身が読み取れる。


 しかもそれは自己評価ではなく、きっと本物なのだろうと見て取れた。白夜はやれやれと困った感じに肩をすくめる。


「この下衆な雑種、性格は難ありとしても魔術に関してはハイレベルです。これは及第点と言えるでしょう。ですが、あなたは見た目から低レベル感が出ておりましてよ?」


「あぁ、それよく言われる。けど、そう言う考えがあるからこの世の中はクソったれなんだよ。お前らの言うレベルに意味なんて一切ないだろ?」


「あら私はよく分かってる数字だと思いましてよ。私は辛いこと苦しいこともあった結果、このレベル90という高レベルに値しているのよ!」


「だからなんだよ。やっぱなにも分かってないな」


 莉緒は笑顔のまま白夜をにらみつけている。それに怯える様子もなく、白夜は淡々と言葉をつなぐ。


「自分のしてきた経験が誰とも知らない奴に勝手に評価され、数字で表される。これが理不尽で意味不明だとなぜ気づかないのか。俺が経験した価値は、俺が決める。第三者に俺の経験を、そいつのものさしで評価されたくは無い」


 白夜は怒りが滲んだ声でそう言うと、莉緒に向かって睨みを利かす。それを直に受けた莉緒は少し後退った。


 表情もどこか硬くなっている。


「なんという殺気、私よりも……」


 そこまで言って莉緒は顔を横に振る。考え事を振り払うように。


「……ふふふ、いいじゃない。楽しくなってきた」


 足が震えているのは武者震いか。


「あなたとなら、楽しい勝負ができそうね」


「勝負は真剣。喧嘩じゃないなら、本気だかんな!」


 白夜は地を蹴り、莉緒は鞭を打つのは同時。


 鞭を横に移動して避ければ、鞭が地面に当たった場所が砕け散る。砕けた破片が白夜に直撃するがそこは気にせず距離を詰める。


 刀を抜いて横凪ぎするが、それは咄嗟に唱えた透明な障壁で防がれる。白夜はその障壁ごと粉砕するも、それに生じたわずかな時間でバックステップで避けられる。


 莉緒が使ったのは魔術障壁と言い、結界を小さい範囲で発動して盾のように扱える魔術だ。


 ある程度魔術の感覚を身に付ければ扱えるようになる魔術だ。接近戦の苦手な魔術タイプはもちろん、魔術が苦手な者でもとりあえず使えるようになろうと言われるほどである。


「へぇ、なかなかの反応速度。今のが防がれるなんてな」


「ギリギリでしたけどねっ!」


 今度は横から鞭を振るう。鞭が莉緒を中心に円を描く。


 白夜は一旦刀で受けるが、そこを起点として方向を変えて白夜に迫る。それに気が付いた白夜はすぐに地面スレスレまで体を落としてその攻撃を避ける。


 そこから莉緒はさらに上から鞭を真下に振り下ろして追撃するも、白夜はそれを地面を蹴って避けた。


「あら、よく避けたわね」


「そうか。鞭だからさらに来るのか。しかも今度は背後から飛んでくるから見えないし……。なるほど、武器と天の恩恵(スキル)での組み合わせ最高ってことかい」


「正解。さ、わたくしは手の内を見せました。それだけ強いなら、あなたも使えるのでしょう?」


 白夜は目を閉じる。


「いや、まだじ―――」


「あなた程強くても使えないなんてね。選ばれなかったなんて、お可哀そうに。なら」


 白夜がすべてを言い終わるよりも早く察したのか、言葉を遮るように莉緒は地面を鞭で叩く。今までよりも派手に地面が砕ける。


「いっそむごたらしく、やられてしまいなさい!」


 今までよりも一層鞭が輝き、莉緒はそれを地面に叩きつけた。

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