少年は正義を貫く9
白夜は待機用テントを抜けて、町へ向かって走っている。
背後からは追手が来る気配もない。しかし門に近づけば、フードを被った人物がそこに2人いる。何とか穏便に済ませたい白夜は彼らからは見えない位置で一旦待機する。
「あれ? こんなところで何してんの?」
「っ!」
背後から話しかけられて慌てた白夜は、刀に手をかけながら振り向く。が、すぐにその体制を解く。後ろにいたのはクラスメイトの恵夢だった。
状況が呑み込めないのか、恵夢は不思議そうな表情をしていた。
「すまんかった。しかし、お前学校は? もしやサボりか?」
今の恵夢の恰好は学生服とはかけ離れた普通の私服。しかもちょっと高価そうな素材でできた物を着ていた。
「僕の父親が町長でね。頼んで祭りに参加させてもらえることになったんだ」
「まさかの職権乱用か。そういうのよくないのぜ」
「嫌な言い方しないでよ。その代わり今も荷物運びで忙しいんだから」
「へぇ、それはご苦労なことで」
「ところで、十六夜君はなんでこんなところに? 君は舞姫の護衛についてるんじゃないの?」
「そうだったんだがな。ちょっと事情があって学校に行かなくちゃいけないんだけど、あそこの監視をどうやって抜けようかなと」
なぜか頭を傾げる恵夢。そして、彼は何を思ったのか門にいるフードの人物まで小走りで向かう。そして少し話した後、白夜に手を振った。
ちょっと警戒しつつ近くに向かう。
「それじゃ、荷物を取りに二人で行ってきます」
「うん。できるだけ早くね」
「はい!」
白夜は先に歩いていった恵夢の後ろをついていく。特に怪しまれることはなく、すんなりと門を通ることができた。
そのまま商店街を歩いている。
「案外すんなり通れたな」
「白夜君、無理しちゃだめだからね」
「大丈夫、大丈夫。死にはしないから」
余裕を見せるように笑いながら手をひらひらさせる白夜に、恵夢はジト目を送る。その眼はこいつは無理するタイプと言われているような感じだ。
と、商店街を抜けて噴水エリアを抜けようとしたその時だった。
「君たち、祭りはそっちじゃないぞ」
そう白夜たちの前に立ちはだかったのは一人の女性。フードは被ってはおらず、素顔がはっきりと分かる、端麗な顔立ちでスタイルの良い、明るめ茶髪の女性だ。
その女性は険しい顔でこちらを見ている。
背は高く白夜とそう変わらない。若干白夜の方が高い程度だ。その女性は手には両刃の剣が握られており、太陽を反射してギラギラと光っている。
「忘れ物なのぜ。学生なので」
「悪いが、今は学校には立ち入らせられないのだ。何分、危険なものでな」
「危険……やはり狙いは勇者か」
そう白夜が言うと、女性は目を細める。
「そうか、花音様の護衛に命じられた冒険者ってのが君か。なら、なおさらここは通せない」
「いいの? 俺、結構強いよ?」
そう脅してみるも、女性はなんら怯みはしない。
「なら、手加減をする必要がないだけのこと。ここを任された以上、私は自分の任務を全うせねばならぬ」
「……お前たちはそこまでして勇者を殺したいか?」
「世界を救うためならば、それも致し方なかろうというものだ」
白夜の問いに即答する女性。それを聞いた白夜は「世界、ね」、と言ってため息を吐いた。
「お前らは、本当に何もわかってはいないんだな」
「そんなことはない。我々は世界を救わねばならないのだ」
言っても無駄と言うのが分かったため、白夜は大きくため息を吐いた。そして、左足を後ろに下げる。
「いや、分かってないよ。この世界のことなんてちっともな」
「……なら貴様は分かると言うのか?」
「まぁ少なくともお前らよりかは。何を見てお前らが行動しているのかはわからんが、大したもん見てなくてそう言い張ってんならただのあんぽんた―――」
「魔王だ」
「は?」
白夜が言い終わるより早く、女性はそう言い放つ。
「あれはこの世界にいてはならない存在だ。悍ましく、凶悪な存在だ。それに連なる勇者は生かしておけない」
そこで白夜は「はて?」と頭を傾げるが、それと同時に納得もした。
「なるほど、俺の知らない魔王か。なら、なおさらここは切り抜けなくてはな! 恵夢、ちょっと離れてな!」
恵夢は白夜に促された通りに後方に下がる。それを確認した白夜は刀は引き抜かずに構えるが、すぐにでも引き抜ける体勢だ。それを見た女性も剣を水平に構える。
「礼儀だ。私は桐山 美沙、お前は?」
「十六夜 白夜。学生だ」
そう白夜が名乗った瞬間、女性は一気に距離を詰めて斬りかかってくる。が、白夜は連撃をすべて刀でさばききる。
「やるな」
「まぁね。だから強いって言ったでしょうに。ただ、名乗ってる最中に攻撃するのはよくないねっ!」
美沙の真上からの攻撃を刀で受けて力任せに大きくはじくと、吹き飛んでいく美沙は着地した後に体勢を崩す。そこへ一足で距離を詰めた白夜は連撃を打ち込む。
美沙はなんとか受け切るが、多少切り傷が増えた。痛がりながら、美沙は大きく後方へ飛び退く。
「あ、すまん」
「くっ……よもや私が手傷を負わされるとはな。剣では君に敵わなそうだし、致し方あるまい」
そう言って美沙は剣に祈りをささげるように、目の前に構える。すると、剣に纏わりつくように集まり始める。そして剣が緑色のオーラを放ち始める。
白夜はそれを冷静に見ている。魔法陣を介さないそれは、白夜には見覚えがあった。
「これが私の天の恩恵【風雅】。手荒になってしまうが、致し方あるまい」
白夜は刀を構えると同時、美沙は何もない空間で剣を振るう。
すると、剣を振ると同時に発生した風の刃が白夜に襲い掛かる。危険を察知した白夜はそれを横に移動して避けると、風の刃はそのまま地面にぶつかって大きな爆風が巻き起こる。
小さなクレータができる辺り、相当な威力を持っている。
「はて、どうしたものかな」
「降参するなら今の内だぞ」
「降参? するわけないね」
「なら、死なない程度に痛めつけるまでよ!」
美沙は再度剣を振るう。今回は連撃であり、町への被害はお構いなしのようだ。
白夜は避けるが、避けた後の背後の爆発に目をやる。いくつもクレーターができており、なにやら事故が起きそうな程である。
「これ以上は町への被害が大きくなるな。仕方ない、仕留める!」
目を見開き、風の刃の間を抜けて距離を詰める。慌てた美沙は後ろに下がるも、その速さよりも白夜は圧倒的に早かった。
「ぬっ!」
美沙は慌てて剣を振るとするが、それよりも早くその剣を払い落とす。剣は宙を舞い、遠くへ飛んでいく。
そして背後に回った白夜は、美沙の首裏に峰打ちを当てる。美沙はその場に力なく倒れた。
「あとは、どっかの日の当たらない箇所に休んでてもらいましょうかね」
白夜が美沙をお姫様抱っこすると、遠くで見ていた恵夢が近くに走り寄る。
「倒したの?」
「気絶してるだけ。気絶してるし、ちょっと人に見つからない場所で休んでてもらおう」
白夜は家と家の間に美沙を降ろし、恵夢が拾ってきた美沙の剣を近くに置いてその場を後にした。




