少年は正義を貫く5
「改めまして。私は恋夢 花音です」
そんな綺麗な少女の声が、辺りに響いた。白夜の斜め前にいる少女は頭を下げる。
現在、一同は家のなかで1番大きな部屋に移動し、大きめな机を囲んで椅子に座っている。机の上には4人分のコップとそれに注がれた茶色の液体。お茶であろうか。
そして4つしかない理由だが、フードの男性はフードの女性と花音の後ろに立っている。まるで二人を守るかのように控えている。
「私はギルドマスターをしている大安寺 亮介だ。以後お見知りおきを」
立ち上がり、丁寧に頭を下げる亮介を白夜は初めて見た。その後、白夜も自己紹介を返すことにした。
「十六夜 白夜。学生兼冒険者をしている」
「学生なのに冒険者か。君はなにか事情がありそうだね」
「別に。親があの世に行ってるだけなのぜ」
フードの女性からの質問にそう返すと、周りの空気が少し重くなる。
既にその空気に慣れている白夜にとっては、対して気にすることでもない。ただ気になることがあるとすれば、フードの女性が自己紹介しないことだが。
「それは、すまないことを聞いてしまった」
「気にしてないって。遅かれ早かれ、人は死ぬのぜ」
「その歳でそう語るか。どうやら、尋常ならざる道を歩んでいると見える」
白夜は「んなわけあるか」とでも言いたげに、手をひらひらさせる。
「私も、同じなんだよ。いつの間にか親がいなくなって。その代わり、最高の勇者が助けてくれたんだよ」
花音は昔を思い出すかのように語る。彼女の話に勇者が関わっていることに驚きつつ、一つの疑問が頭をよぎる。
勇者に助けられたのなら、この任務を勇者にお願いすればよかったのではと。
「勇者、ねぇ。あのたけかんむりなら、確かにやりかねんな。人助け中毒患ってるし」
「なら今回神薙君にお願いすればよかったのにね」
「はは、それな!」
白夜は人差し指を涼介に向けて同意を示す。
「君にお願いしたい理由に、あの勇者は関係ないさ」
女性は一息にそういうと、コホンと咳払いをして再び話始める。
「それで、明日の日程について打ち合わせをさせていただきたい。明日10時にこの場に集合し、現地に移動。そこで4時間程待機してもらう」
「4時間も? それはいくらなんでも長すぎでは?」
白夜の返しに、フードの女性は首を縦に振らない。
「我々としては花音の無事を第一で考えている。会場に人が少ない内に移動して、できるだけ人目を避けたいのだ」
「そうだね。ただでさえ有名人でこの美しさだ。ファンや惹かれた男が殺到するのは目に見えている」
「そうだ。この子は悪い意味で目立ちすぎるから」
そのやり取りに白夜は納得する。10人が10人振り返るほどの美少女なのだから、男が寄り付かないわけがない。
うんうん、頷いていると、フードの女性はさらに続けた。
「花音には我々の隊から3人。それとギルドから君が花音の護衛に着いてもらう」
「おう、合点だぜ」
白夜は腕を曲げて力こぶを作る。
それから数時間、詳しい日程を話始めた。そして、日が沈みだした頃。
既に白夜は頭が茹でダコ状態になっていた。覚えることが多くて、頭の許容量を超えてしまっているのである。
そんな白夜を見て、フードの女性は机の上に置いてあるスマフォを起動して時間を確認した。
「うむ、もうこんな時間か。こんなに時間を取るつもりはなかったのだが、2人には本当に申し訳ない」
女性はお辞儀をする。
「すまないと思っているならフード取るのが礼儀では?」
白夜は頭が回らず、思っていることをただ口にしてしまった。途中でしまったと思ったが、それはあとの祭りか。
が、それは涼介も気になっていたのだろう。特に何も言わず、フードの2人を見据えている。
「それは確かに。だが、少々人前には出られなくてね。それに関しては本当に申し訳ないと思っている」
フードの女性は深々と頭を下げた。なぜ?と疑問を思ったが、人には事情があるだろう?と思いそれ以上は聞かないことにした。
そこで女性は手を一回叩く。
「では、今日はこれでお開きと言うことで。我々はこれから用事があるので失礼させていただくよ」
「分かりました。では、我々もこれで」
白夜と亮介は一礼し、先にフードの男性が前もって開けてくれていた扉から外に出る。その後、三人は家の中から一礼し扉を閉める。
「さて、これからどうしようかな。時間も時間だし、ご飯食べて寝ようかな」
既に日は沈みかけており、町の外から次々と帰っていく人たちが見える。今日の準備は終わったのだろうか。
「白夜君、君に相談がある」
「なんだ、変わって欲しいなら喜んで変わってやるぞ」
ギルドに向かおうとした白夜を、亮介は呼び止める。一応適当な事を言ってはみるが、恐らく白夜の言っている事とは全く別なのだろう。
「はは、それが可能なら私もそうしたいよ」
その笑顔が実に不気味だった。
日か沈みかけ、暗くなっていく中。その表情がただひたすらに怖かった。なぜなら、彼の手には、いつ取り出したのかいつ準備したのかわからない一枚の紙切れが。昨日もその前も同じような紙切れをもらった記憶がある。
それを思い出した白夜は自身の心拍数が上がっているのを感じつつ、その紙から必死に目を逸らす。
「何、君ならすぐ終わるさ!」
「待って! 今日はギルドおやすみなんでしょう!? 俺もお休みにしてくれたって罰は当たらないと思うんだですます!」
同様で言葉をうまく話せない白夜は、自然と紙切れに視線が行ってします。それを確認してか、亮介はその紙を白夜に差し出す。
「特別依頼、受けないか?」
その後、白夜の悲鳴が辺りに響いたという。




