少年は正義を貫く4
ギルドの扉を開けて中に入ると、今日はカウンターに座る受付嬢1人しか見えない。
不審に思いつつ、白夜は依頼を受けようとギルドの受付嬢に話しかけた。
「あ、白夜君。今日、ギルドお休みなのよ」
「は?」
思いもよらぬ遍路yに目が点になる。
「明日祭りなので皆その手伝いをしてるの。他の冒険者は既に会場設立に向かってるから、白夜君も行ってみたらどう?」
「えぇ……」
どうやら人がいないのは皆が祭りに浮かれているのが原因のようだ。
とにかくやることがないなら自分も手伝おうと、町の外へ向かうことにした。
外へ出ると、町からそう離れてはいない場所で大勢の人が会場設立をしていた。正門にいる白夜から見ても町の住民、冒険者、騎士にフードの集団と様々な職業の人たちがいる。
昨日立てていたテントの補強や道具の運搬など、大忙しの模様である。
そしてその中でも目を引くのは、会場全体を囲うように1本ずつ並べられている松明だ。数にして軽く100以上は使われている。
この松明には魔除けの効果があり、魔物を近づけなくする効果がある。ちなみに割と値段は高めである。
1つ買うのに安めの武器が帰るほど。それがこれだけ並んでいるのだからとんでもない費用が掛けられているのがわかる。
ただ強めの魔物には効果が薄いため、それは人の手で対処しなくてはならないのが問題点か。
「白夜、あんたも来たのかい。ほらこの椅子運ぶの手伝っておくれよ」
そう言って白夜の目の前に4つ重なった椅子を置いたのは、杏奈である。
白夜にとって、酔ってない状態の杏奈を見たのは何時ぶりだろうか。
「杏奈も来てたのか」
「当然さ。明日は昼から祭りだろ? こんな楽しいことには参加しないとね」
「あんたは何時でもお祭気分だろう!」
「はっはっは! 違いないねぇ。それじゃ頼んだよ!」
手を軽く振って杏奈は去っていく。別の椅子を取りに行ったようだ。
白夜はやれやれと思いながら4つ重なった椅子を運び始める。
「お、白夜も手伝いか! さては楽しみで仕方ないのだな?」
今度話しかけてきたのはおっさんのと秀人である。いつにも増して小綺麗な格好をして、無愛想に伸びた髭を剃っているのはそういうことだろうか。
少し引きつつ、白夜は足を止めない。
「別に、杏奈に言われたんだよ。俺は様子見に来ただけなんだけどな」
「良いじゃねぇか! 皆が楽しむ場をつくる、そんな栄誉なお手伝いなら喜んでしようというものよ」
いつもより大きな声で、周りに聞こえるようにそう言った。それがアピールになると本気で思っているのだろうか。
むしろ笑いの込み上げた白夜は、その笑いを堪えるので必死だ。
「白夜君、その椅子運び終わったらこっちも手伝って!」
「あ、その後こっちね!」
「出来ればこっちも手伝って欲しいかな!」
次々に助けを求められる。人は沢山見えど、人手が足らないのは間違いないようだ。
「みんな楽しみなんだよ」
「拓斗まで! どうした、珍しいじゃんか」
「ははは、そうだろう?」
白夜の背後から話しかけてきたのは、親しき中の拓斗だ。いつもの大工姿とは違い、今日は普通のラフな格好をしている。
「今日現場は休みなん?」
「まぁな。あんでも社長が『明日祭りで皆が楽しみにしているのに、大工仕事なんしてられるか』って言ったんだと」
「……それはそれで大丈夫なのか?」
拓斗は声を上げて笑い、「大丈夫だろー」と呑気なものである。
「そんなに祭りが楽しみなのかね」
「祭りが嫌いな人なんていないだろ? きっと明日は町の中誰もいなくなるぞ!」
「町の警備ザルじゃないか!」
「まぁまぁ、ここずっと平和だったし事件なんて起きないって! それに舞姫が来てるんだ、何かあってもこっち来そうな気がするけどな!」
とフラグのような物を立てつつ、拓斗は大工たちが必死にステージであろう物の作成に戻っていった。
これはある、なにかあると確信しつつ、白夜は椅子を運ぶ。
「あ、白夜君!」
「客が多いな!」
今度話しかけてきたのは咲姫だ。受付嬢のユニフォームのままこちらに歩み寄ってくる。
「手伝ってる最中にごめんね。ギルドマスターがあなたに用事があるようなの」
「ギルマスが?」
亮介の呼び出しとなれば大体特別依頼が出される為、白夜は自動的に嫌そうな表情になってしまう。
「町の正門の方で待ってるらしいから行ってあげてね。この椅子は私が運んでおくから!」
と、白夜から半ば無理矢理に椅子を受け取り、ステージの方へ運んでいく。
「本当に嫌な予感しかしないんだけど」
大きくため息を吐いて白夜は正門へと向かう。少し離れた場所からでも、正門からこちらを見ている人物がいることに気が付いた。
こちらに手を振って自分の居場所を示しているのは、ギルマスこと亮介だ。その体格も相まって余計目立っている。
「やぁ、白夜。ご機嫌いかがかな?」
「呼び出しされて気分良くはなかろう」
「それもそうか! ならこれから一気にご機嫌になる事間違いなしだぞ!」
そう無駄に高いテンションに白夜は戸惑いつつ、心の内から嫌な予感が押し寄せる。
「嫌な予感がするんですが、一体何があるのでしょうか?」
「顔合わせだよ」
「……は?」
亮介の放った一言に頭の理解が追い付かない白夜は、本日二回目の目が点になる。首を傾げたまま「福笑い的な?」と意味不明な言葉を残し、亮介の返答を待つ。
「明日急に会うことになるのも緊張するだろ? だから今日一回会っておくべきかなと思ってね」
そこまで言われてようやく理解した白夜はポンと手を鳴らす。明日の特別依頼で護衛の対象である舞姫こと花音のことであろう。
「理解したみたいだね。それじゃ、こっちにおいで」
亮介は町の中へ歩き始める。それからすぐにある、古い木造の一軒家の扉の前に立つ。
「近くね?」
「ははは! 私もそう思ったよ」
亮介がドアを三回ノックすると、数秒経って中から男性の声が聞こえてきた。
『合言葉は?』
「気高き鳥の折れた翼」
亮介がそう返すと、ガチャっと鍵が開いた音と共に扉が開かれる。扉を開けた咲姫にいたのは、なんとフードを被った人物だ。しかも清掃活動している集団と同じフードに見える。
それに衝撃を覚えていると、亮介は警戒することなく案内されるがまま中へと入っていく。
「ほら白夜も早くおいで」
なにも違和感がないのか、それとも花音に会えることで冷静な判断を見失っているのか。白夜は少し嫌な顔をしつつ、中へと入る。
古い木造の割には中は頑丈に見え、清掃も隅々まで行き届いている為埃一つ見当たらない。
白夜と亮介は男性に案内されるがまま、一つの部屋に案内された。中へ入るとフードを被った人が一人、それとベッドに横になっている人物が一人。
「来てもらったのにすまないね。今、花音はおやすみ中なんだ」
もう一人のフードを被っている人物、聞き覚えのあるその声は昨日神薙と町であった二人組の人物に声と一緒である。
「睡眠中、ねぇ。お姫様は気楽なものだな」
白夜は歩を進めて花音の寝るベッドまで歩み寄る。途中フードの男性が右足を踏み込んだが、止めることはなかった。
ベッドに寝ているのは整った綺麗な顔であり、少し幼さの残る白肌の少女は間違いなく美少女だ。白夜が今まで見かけた女性の中でもずば抜けて美しい少女だった。
と、そう白夜が顔を覗かしていると、少女の目がゆっくり開く。目が覚めたばかりの虚ろな瞳の少女は、白夜を見ると驚いた表情を見せる。
当然と言えば当然か。目が覚めた瞬間、知らない男が見ていたら動揺しないわけがない。悲鳴を上げて驚くのが普通であろう。
しかし、少女の反応は全く違ったものであった。
「……おはよう。白夜」
「お、おう、おはようさん」
少女はにっこりと笑い、体を起こした。




