少年は正義を貫く3
学校からの帰宅途中に白夜と澪奈が住宅街の中を歩きながら他愛のない話をしていると、途中神薙っぽい人物がおばあちゃんの重そうな荷物を持って一緒に歩いていたのは何かの勘違いだろう。
それを軽く無視した2人はそのまま違う方面に歩いて行っていると、唐突に澪奈が「そうだぁ!」と何かを思い出したように手を叩く。
「白夜君、実は聞きたいことがあって。ちょっと悩みがあるんだよ!」
「悩みぃ?」
「うんうん悩み! 実はこの前、咲姫さんに教えてもらった修行があるんだけど」
「なんだ、なにか不満なのか?」
そう白夜が言うと、澪奈は高速で顔をブルブルと横に振る。
「そんなことはないの! ただ、咲姫さんみたいにうまくいかないなぁと思って。咲姫さんと何が違うのかなぁって」
「ふーん。違うところねぇ」
顎に手をやって考えるフォームを取ると、澪奈を頭のテッペンから足元をゆっくりと見る。
すると何かに気付いた澪奈はハッとなって顔を赤くして自身の胸を両腕で覆うように隠す。
「これから大きくなるの!」
「そこは見てなかったんだけどな」
「確かに私はまだ小さいけど、いつか咲姫さんくらい大きくなってやるもん!」
白夜の話も聞く耳持たないのか、拗ねた子供のようにそっぽを向く澪奈。それは邪魔では?と思ったが、くちには出さないことにした。
そしてやれやれと言い、ため息を吐いてから口を開いた。
「外見よりも頭を鍛えような。これだから温室育ちの近頃の若人はいかんのよ」
「こう見えて私、学力学年トップだけど! 白夜君は何位なのかなー?」
胸を張って挑発するように「ふふん」と鼻を鳴らしながら、白夜の顔を覗き込む零。
それに対して白夜は人差し指と中指で額を小突くと、澪奈は「痛っ」と小突かれた額を押さえる。
「あのな、今の世の中大切なのは学力よりも考える力。そして想像力からの変革力! 学力も大切だが、学力をつける過程で得るそれらを無視してはいかんのぜ」
「うっ、そう言われると……」
言い返せない澪奈はバツの悪そうな表情でみるみる小さくなっていく。
「とはいえ、澪奈をまじまじと見たのは事実だし、そこは謝る。すまなかった」
白夜が頭を軽く下げる。
「いや私も気にしすぎたって言うか! その謝られると、ちょっと恥ずかしいというか……」
澪奈は恥ずかしそうに頬を掻く。
そして「そ、それでね!」と話題を変えるようにそう言うと、
「私、咲姫さんと同じ修行してるけど、どうも咲姫さんと同じようにできないんだよね」
澪奈は思い出したようにハッとなって相談事を打ち明ける。
が、それに対して白夜は「なんだそんなことか」と言いながらやれやれと言った表情で頭を掻いた。
それに憤慨してか、澪奈は手をブンブン振って言い返した。
「そんなことって、私にとっては大事なことなんだよ!」
「まぁ落ち着けって、どうどう」
白夜は人差し指で猫を触るように零の顎下を軽く触る。澪奈は恥ずかしがりながら白夜の手を払った。
「私はお馬さんじゃないよ!」
「はは、すまんすまん。そうだな、俺からアドバイスすることがあるとすれば、他人と同じことをやっても得られる効果は一緒であるとは限らないのぜ」
白夜の言ったことが意味がわからないのか、目を点にして頭を傾げる澪奈。
「ごめん、理解できなかった」
「俺より頭いいのに理解できんのか。んーそうだな……」
白夜は地面を見渡し、近くにあったお手頃サイズの小石を2つ拾い、一つは自分が持ちもう片方を澪奈に渡す。澪奈は意味がわからずその石を眺めている。
「ちょっと見ときな」
白夜はその石を誰もいない方に投げる。石は弧を描いて30m程離れた場所にある大きな木に当たって地面に落ちた。
「それじゃ、澪奈も投げてみ」
言われた通り零は石を投げる。
先程と同じように石は弧を描いて飛ぶが、さっきとは違い石は木まで届かずに何もないところで地面を跳ねる。
「俺が投げればあの木まで届く、けど澪奈が投げたら届かない。理由がわかるか?」
「んー、力の差かな」
「それも答えの1つだな。要は個人差って奴? みんなそれぞれ能力や知識が違うんだから100人やって100人同じ結果にはならんよ」
そう白夜が言うと納得したかのように、澪奈はうんうんと言いながら顔を縦に振る。
「そこでだ。重要なことはこっからでな。目標の為に計画した、行動した。なら今度は反省し、見込めた成長と実際の成長がどれだけ差があったか。そんで次にどう行動したら目標に近づくことができるか考えていくと面白いかもよ」
「んー言いたいことはわかるんだけど。具体的にはどうすればいいかわからないよ」
白夜は澪奈の頭に手を置く。澪奈はキョトンとした表情で白夜を見る。
「答えは自分自身にしかわからんよ。若いうちはそうやって悩み、行動し、また悩みの繰り返し。まずは試してみることが重要なのぜ。そうして得た経験が将来大人になって役に立つんだ。って、ここまで咲姫が言ってた」
「んー難しい……」
今度は頭を抱え、頭から煙を出しそうである。が、なにやら少し嬉しそうな表情も垣間見える。
「考えることも、重要なこと。そんで5分悩んでわからなかったら友達なり教師なりに相談しな」
「うん、わかった! そ、その時は白夜君も相談に乗ってくれる、かな?」
もじもじと照れながら上目遣いでお願いする澪奈に内心「可愛いなぁ」と思いながら、決してそれを口に出すことはせずに親指を立てて返す。
それを見た澪奈は満面の笑みを浮かべた。
「恐らくだけど、違和感の正体は固定概念や不安などのわだかまりなのぜ。例えどんだけ偉い人から教わったとしても、違和感は残る」
「うーん、そうなのかなぁ。心の奥ではそう思っちゃてるのかな」
また考え出す澪奈に、白夜は笑いながら頭をポンポンとする。
「あんま難しく考えることはない。気にしすぎは体に毒なのぜ」
「うん、ありがとう白夜君」
照れながらも満足げな澪奈は「えへへ」と満面の笑みで返す。白夜はそれを確認すると、踵を返して再度ギルドに向かう為に足を動かし始める。
気分の良くなった白夜はにやにやしながら歩いていると、遠くから足音が聞こえてくる。歩幅の間隔と音の強さ的に走ってきているのだろうか。
何事かと振り返ってみれば、男子生徒がこちらに走ってきているのが分かる。よく見れば自分を同じクラスの杉下であった。
「どうしたのかな、杉下君。血相変えてどうしたんだろ」
「さぁ?」
白夜と澪奈は心辺りもなく、首を傾げている。「はて」と言ったところで、杉下は息が切れた状態で二人の前に立つ。
息を整えながら「やっと追い付いたぞ」と言うと、杉下は白夜に直る。
「少し考えたんだ、俺の今までを。そしてこれからのことも。そうしたら、今しなくてはならないことが分かったんだ」
そう言うと、杉下は頭を下げる。
「すまなかった。そして目を覚まさせてくれたことに感謝を」
唐突なことに白夜とその場にいた澪奈も驚いた表情をしている。
「こっからだぞ」
白夜は厳かにそう言うと、杉下は頭を上げる。その眼はやる気と決意で輝いていた。
「もちろんだ。俺は杉下 一輝。これからよろしく頼む」
白夜は口角を上げて「おう」と言い、2人は熱い握手を交わした。




