少年は正義を貫く2
今日の授業が終わった白夜と澪奈は、学校を出てギルド方面へと向かっていた。
2人が商店街に入る手前の大通りを通っていた時、近くで男の怒鳴り声が聞こえてきた。
何事かと2人はそちらの方に走っていく。
「んだとババァ! ぶん殴られてぇのか!」
「だ、だから謝ってるじゃないの……」
「謝って済んだら騎士なんて要らねぇんだよ! 誠意を見せろや!」
柄の大きな筋骨隆々の男が、腰の曲がった高齢の女性に威圧していた。
その男性は、先日生徒会室にて遭遇した大堂という人物だった。
なんとも不快な光景に白夜は走って近寄るが、それよりも早く、大堂と女性の間に人が割り込む。
清掃活動しているフードを被った人だ。
「なんだてめぇ!」
「高齢者に力を振るおうとするなんて情けないな。君には、人としての感情はないのか?」
優しそうな男性の声だ。しかし、声からは怒りが垣間見える。
威圧に負けてか大堂は1歩引くが、どんどん顔が赤くなっていき顔面の血管が浮き出ている。
「ぶっ飛ばしてやる!」
怒りのあまり放った大堂の拳を、フードの男性は避けることなく片手で軽く受け止める。
それに驚いた表情をする大堂。白夜が受け止めた時と、同じような表情をしている。
自分よりも小さな人間に拳を受け止められ、信じられないと言った表情だ。
「暴力に訴えるのはよくないよ」
そう言って軽く拳を真横に受け流すと、大堂はそのまま横に情けなく倒れこむ。
「な、なんでだ! 俺の拳はなぜこう軽く受け止められてしまう!」
大堂は地面を叩きながらそう嘆く。
「理由は簡単だ。君は自分の力に過信しすぎている。目の前が見えていないのが理由かな」
「っ! くそっ!」
男性がそう言うと、大堂は悔しそうに立ち上がり走しり去っていく。
それを確認し、男性は振り返る。
「さ、お婆さん。もう大丈夫だよ。怪我はないかな?」
「あ、ありがとう。ありがとう!」
何度もお礼を言い、頭を下げて女性はその場を去っていく。
それを見届け、フードの男性はまた清掃活動に戻っていった。
「あの人、すっごくいい人だね!」
「あぁ。しかし、ただ清掃活動している人のようには見えなかったな」
「ん? どういうこと?」
白夜は立ち止まり、その男性の後ろ姿を見る。
「あの大堂とかいう生徒、ナリはあれだが力はそこら辺の奴らとは桁が違う。それをあれだけ軽く受け止めるとは」
「確かに。でも、それって白夜君も同じだよね」
「それだよ」
澪奈は「はにゃ?」と言って頭を傾げる。
「つまり、俺に近いかそれ以上の実力を持っているってことだ。それなのに、清掃活動をしているのは何故だ? 人を守る力とその意思があるなら何故騎士にならない?」
「それは……確かにそうだね」
白夜は腕を組んでフードの男性を見ている。
すると、こちらの視線に気がついてかフードの男性がこちらに近寄ってくる。
「どうしたのかな?」
「はわわ! こ、こんにちは!」
「はい、こんにちは」
澪奈は慌てた様子で、とりあえず挨拶をする。それにフードを被った男性はお辞儀をしながら挨拶を返す。
「丁寧なんすね」
「常識だよ。相手には常に敬意を持たなくては」
白夜は目を細める。そこで、澪奈は手を挙げて発言権を求める。
「あ、あの、いきなりで悪いんですけど、1つ質問いいですか?」
「ん? なんだい?」
初対面でいきなり質問をする澪奈に対して、失礼と思われる行動にもフードの男性は快く受ける。
「なんでそんなに強いのに、騎士にならないんですか?」
そう言われ、フードの男性は少し口篭る。その数秒後、返ってきた答えはこうだった。
「騎士であっても、守れないものってのはあるんだよ」
男性は少し悲哀に満ちた声でそう言った。
「でも、騎士って強いですよね! レベルも高くて、人から信頼されてて」
「うん、そうだね。でも、騎士が取り締まったところで犯罪は無くならない。それはなぜだと思う?」
それに対して澪奈は黙ってしまう。
確かに、騎士が幾らレベルが高くて強くても犯罪が減ることは無い。むしろ、直近では増えているのが現実だ。
この町でも日々のように増えている。
「人には意思があるからだよ」
その答えに白夜も納得して、俯いてしまう。
「いくら僕らが強くとも、いくら取り締まろうと、人の意志には干渉出来ない。必ず、楽したさに犯罪に手を染める人は出てくる」
どこが悔しげな声でそう話す男性。そして一呼吸置いて、男性は口を開く。
「人は弱い生き物だよ」
そう言って男性は踵を返し、その場を去っていく。
残されたこの場には静寂が訪れた。遠くに聞こえる商店街から響く活気ある音が近くに感じた。
「白夜君、頂点にいる人たちはどう考えてるんだろ」
「頂点にいる人とは?」
「剣聖、拳皇そして魔帝。この人類の頂点に立つ人はどう考えてるんだろうなって」
少しトーン低く話す澪奈。先程の男性の話で何か思う事があるのだろうか。真剣な表情で白夜に聞いている。
「それは……」
白夜は口ごもる。
「私たちには無い強さを持ってる人達なら、いい意見があるかもしれないなって」
「ないな」
白夜は澪奈の言葉に即答する。それにびっくりした澪奈は白夜のいつにもまして真面目な表情に、ただ顔を見ることしかできなかった。
「前も言ったが、どこまで行っても人は人だ。」
白夜は寂しそうに答え、ギルドに静かにギルドに向けて歩き始めた。




