少女は夢を見る12
「あれは」
へとへとになりながら帰ってきた白夜は森を抜け、ようやく町の壁が見えた。そんな時、町の外で何やら騒がしいことになっていた。
何人もの住民たちがテントを立てているのである。それを一列に10張り、それが二列間を開けて並べられていた。
何事かと近づいて行っていると、少し離れた場所で見知った人がこちらに歩いてきていた。
テントを立てるのを手伝っていたのか額に汗をにじませてやってきたのは爽やかイケメン、周りにいる女性の視線を釘付けにしている彼は勇者の神凪であった。
「やぁ白夜君。ご機嫌いかがかな?」
挨拶のためであろう右手を軽く上げて笑顔で話しかけてきた神凪に、白夜は怪訝そうな表情を浮かべる。
そうな、ではなくそのものではあるが。
「今最悪になった」
「それは大変だ! 医者に見てもらった方がいいじゃないか!?」
自分の事のように心配する神凪に、目の前に爽やかイケメンが現れたことで気分を害した白夜は自分が情けなく思ってしまう。
それにため息を吐いて、白夜はギルドへ向けて歩き始める。それについて来る形で神薙は後ろからついて来る。
「そう言えば、たけかんむり。今日学校に来てなかったか?」
「何度も言うが、僕の名前は武村 神凪だ。いやそこはもういいや。学校には校長に渡すものがあったからいったよ」
「渡すもの?」
神凪は自身の腰に着けている袋から淡く白い光を放つ玉【奇跡の宝珠】を取り出した。
そこで白夜は、遺跡での出来事を思い出した。
「なるほど。それで、なぜまだそれを持っている?」
「それがすごく不思議なことでね」
「校長はこの事について覚えがないって言うんだよ」
「は? じゃあ誰がお前に頼んだんだよ」
「えーと、実はよく知らないんだ。フードを被ってて顔までは分からないけど、声の感じで言えば初老の男性って感じだったかな。必死な感じで訴えてきたから、これはやらないとって思ったんだ」
白夜は立ち止まって振りる。その表情は人を憐れむ顔だ。
「これが人助け中毒って奴か。ご愁傷様です」
神凪に手を合わせて目を閉じる。
「困っている人がいたら見過ごせない。 君だってそうじゃないのか?」
「いや相手くらい選ぶっての。フード取って対等な関係になってからスタートだろうがよ」
「そうかな?」
「そうだよ」
やれやれと言った後、白夜は再び歩き始める。
「ただ校長がせっかく来たんだからってことで学校を案内してくれるみたいなんだ。今日と明日は別の用事があるからってことでまた明後日に学校を案内してくれるんだって。学校でも会えるといいね!」
「絶対会いたくない。頼むから大きな声で名前とか呼ばないでくれよ」
「人気者になれるかもよ?」
「絶対やめろ!」
白夜は念押しをすると、神薙は「あはは」と笑っている。
そして白夜が町に着いた頃、フードの被っている二人組が扉の付近で会話をしているのが見える。
つい顔をしかめてしまうが、いらぬ面倒事を起こさないためにもすぐ視線を逸らすことにした。慈善活動をしていた集団と一緒であるかは知らないが、その二人からも怪しさが湧き出ている。
真っ黒なオーラがその周辺に漂っているかのような感じだ。
一人は長身で170cmある白夜よりも高い。もう一人はそれよりも頭一つ分小さい。
「あの二人どうしたのかな。なにか探し人だろうか」
「探し人、ねぇ。実は舞姫ってのが捨て子でその両親が探してるってオチでないの?」
「それは流石に違うんじゃないかな」
「でもよ、直近でこの町に来た有名人と言えば舞姫だろ? あいつらも同時期にやってきたわけで、それと関連づけるのが一番な気がするわけさ」
「ちょっと無理矢理すぎる気がするけど」
あはは、と笑いながら神薙は白夜の後ろを歩いて来る。
白夜が言ったこと、それが正解と言うわけではないのはすぐに分かった。だからこそ、自分は関係ありませんと言ったように、無関係を装うように、そこら辺に落ちている石の前を通り過ぎるように彼らの前を通り過ぎる。
声を掛けられても自身に話しかけられていないと思えば声を掛けられていない。挨拶は聞こえていなければ挨拶ではない理論である。
「もし、そこのお二人さん」
しかし。通り過ぎながら余裕で話しかけられた。その高めの方がこちらに問いかけると、声の主は意外にも女性だった。
が、白夜にとって話しかけられるなど想定内だ。なぜなら近くを通る前にすでにこちらに直れをしていたのだから。
だが、白夜は気が付いていないフリをする。
なぜか。面倒ごとに巻き込まれそうだったから。
「あ、白夜君! 無視するのはよくないよ! 初めて来た町に慣れていないのかもしれない。力になってあげよう」
だが、ある意味予想内だった人物に白夜は歩を止められる。
白夜はゆっくりと振り返って心の中で思う「この馬鹿が」と。
「それで、どうしたんですか?」
そんな思いを知らずに、フードの女性に話しかける神薙。
「あぁ、人を探していてね。この近くで人当たりの良さそうな茶髪の青年で、人助け中毒を患っている人物に心当たりはないだろうか」
それを聞いた白夜はすぐに察しがつき、その人物の顔を見る。
その人物の一声はこうだ。
「人助け中毒なんて大変だね」
白夜はもう本気で「てめぇのことじゃー!!」と心の中で叫んでおいた。
「ていうかお目当てはこいつだろ? ほら、こいつくれてやるから俺の邪魔をしてくれるな。じゃあな」
「まったく、君はツンデレなんだから」
「うっさい、たけかんむり」
「はは、分かった分かった!」
なにか子供をなだめるような目で見られたため、それに不快感を抱いた白夜は華麗に神薙の足を引っかけるように蹴りを見舞う。
「うわぁ!」と情けない声を出しながら、神薙は尻餅をつく。そうした瞬間、住民の特に女性からの目線とこそこそ声が白夜に向けられる。が、白夜はそんなものは気にしていない。
神薙はゆっくり立ち上がりながら「容赦ないなー」と笑いながらに言っているのを見て、もう一発蹴りを入れてやろうかと思ったがそれは頭の片隅に置いておくこととした。
そこで目の前の女性はくすくすと笑い始めた。
「君たちは本当に面白いな。こんな芸まで見せてくれるとは」
笑う女性とは裏腹に、隣の小さい方はピクリとも動かない。どころか、白夜はずっと見られている感じがしていた。
深くフードを被っているが、見える顔の一部からしてこちらも女性。今まで全く身動きを見せないし、影も感じさせない。白夜は少し不気味に思っていた。
それを気にも留めていない神薙は
「ま、明後日に学校であったら大声で君の名前を呼ぶことにするさ」
「だからお前はアホって言われるんだ。俺に!」
と、盛大に白夜がツッコミを入れるた時、町中に鐘が鳴り響く。この町は子供の帰る時間として、18時に鐘が鳴り響く。
それを聞いて、長身の女性はスマフォを取り出す。
「おや、もうこんなに時間が経っていたか。私たちはこれから用事がある為これで失礼させていただくよ。それじゃあね」
そう言って女性は踵を返して去っていく。
去っていく二人組を見ながら「変な奴ら」と言いながら、白夜もギルドへと歩き始める。
「そうだ。今日僕もギルドに行くから、よかったら一緒にご飯でもどうだい?」
その場に「絶対嫌だ!」と言う声が響いたのは言うまでもない。




