少女は夢を見る11
白夜の前に現れた生物は一応魔物の扱いであり、その名をリバイアと呼ぶ。
系統も竜で、世界に数匹もいない超レアな魔物。書物等では水竜リバイアとの記載もある。もちろんデスキメイラとは比べ物にならないくらい強いのは言うまでもない。
それを目の前に対峙すれば、威圧と気迫に潰されそうである。
「しかし、なぜこいつがこんな所に? 生息地域はもっと深い海の底にいるはずだろうに」
白夜もリバイアについては多少なりとも知っていた。本来海底のそこで暮らしている為、人間の目の前に現れるのはもちろんなく陸に上がる事さえあり得なかった。
それが目の前に現れたとなると、なにか理由があるのかもしれない。
そう考えていると、リバイアはうなり声をあげながら近寄ってくる。地響きを起こしながらゆっくりと近づいてくれば空気さえ震える。
「ま、頃合いを見て逃げさせてもらおうかな。本気でやっても勝てそうにないし!」
リバイアの最初の攻撃は爪の振り下ろしだ。その振り下ろしをサイドに回避すれば爪が地面を抉る。それで生じる衝撃波で白夜は大きく後退してしまう。
「当たれば即死だな。だけど、当たらなければって感じか? 言うのは簡単だけど、実際には難しいよな」
次は長い尻尾をこちらに向かって横から薙ぐように振るってくる。
それを大きくジャンプして避けると、白夜は刀を抜いてその尻尾目掛け振り下ろす。ガキンッと甲高い音と共に刀が弾かれ、手全体がジンジンと痛む。
「いてて、ちょっと硬すぎんか!?」
白夜はその場に着地し、尻尾の届かない距離まで下がる。
すると、リバイアは大きく口を開けて息を吸い込む。吸い込む力がものすごい為、白夜も吸い込まれそうになるがなんとか踏ん張る。
そして吸い込み終わると、リバイアは口を開いまま立ち止まる。すると光が溢れ始める。
竜の息吹。
それは竜の多大なる知恵と膨大なマナを扱え、それに耐えうる巨躯だからこそ使える必殺技である。
開けた口の中に魔法陣が形成。何重にも組み合わされたその魔法陣を解読するには人間の寿命が短すぎる。魔法陣は辺り一帯のマナを吸収し、眩いばかりの光を放ち始める。
「これはやばい、ヤバいヤバい! 当たったらリアル死んじゃう」
白夜は大きくその場を離れるが、竜の目標は既に白夜に向けられている。
そして、その魔法陣から火や氷とも違う白い光が放たれる。
地面を抉りながら来る竜の息吹は、白夜が今まで見てきた魔術の中で威力が桁外れ。もはや魔術と言えない程の火力だ。
白夜はなんとか大きく横に回避して避けると、竜の息吹は森を突き抜けていく。
その火力に呆然とするも、外したと思うや否もう一度竜の息吹を発動させようと息を吸い込む。
「……発動まで大体10秒、それまでに竜の息吹を使えないくらい近距離に!」
そう言って白夜はそのままリバイア目掛けて走る。リバイアの吸い込む力を利用して一気に近づく。
そして吸い込み終わったと同時に、白夜はリバイアの体に沿うように走る。
竜の息吹でダメだと理解してか、リバイアは竜の息吹を発動するのをやめて腕で攻撃してくる。しかし動きが大きいため、白夜を捉えることが出来ない。
白夜はお腹に潜り込み、そのお腹に全力で蹴りを見舞う。
巨躯が少し浮き、横に倒れて地面が揺れる。白夜は一旦後方に回避すると、リバイアはなぜか苦しみ始める。
白夜はもしかして弱点?とか思っていると、それとは違うようだ。リバイアは少しえづいた後、口から大きな固形物を吐き出した。
吐き出されたその固形物は大きい音を出して地面に転がる。
「あれは……まさかタンスか?」
遠目でよく見えないし形も変わってしまっているが、引き扉が半分開いており木造作りで中に収納できる物。白夜にはタンスかそれに似た物にしか見えなかった。
それを確認していると、リバイアはゆっくりと立ち上がり始める。気が付いた白夜は再度、刀を構える。
が、白夜の想像とは違い、リバイアは踵を返して湖の中へと歩き始めた。湖は波を打ちながら、その巨躯がどんどん姿を消していった。
訪れたのは静寂。そして取り残された白夜とリバイアの竜の息吹で抉られた地面。呆気ない終わりに息を吐く。
頭の中を整理するが、いまだ目の前での出来事が嘘のような感覚さえあった。
「いや、意味が分からないんだけど。まぁ引き返してくれるならいいか」
白夜はやれやれと言いながら町へと帰ることにした。振り返った瞬間、森の中から覗いていたのかダイルソルジャーたちが数匹現れる。
それから現れたダイルソルジャーの後ろから大小老若男女さまざまなダイルソルジャーたちが現れ、彼らは喜んだ様子で次々と湖へ飛び込んでいった。
白夜はその様子をただ茫然と見ることしかできなかった。
そして今の状況を整理して、導かれた答えは一つだ。
「もしかして、お腹につっかえた異物でイライラしてたリバイアが暴れてただけ? え、そんなことある?」
そう考えると、ドッと疲れが押し寄せてきて白夜はため息を吐いて町へ向けて歩き始めた。




