少女は夢を見る9
「……なんだ?」
学校からギルドに向かって歩いていると、何やら違和感があった。毎日同じように通っているので、その違和感は相当なものだ。
その違和感の正体はフードを被った怪しい人物が原因だろう。1kmもない範囲で6人ほどおり、その6人全員がごみを拾ったり、おばあちゃんの荷物を運んであげたりしている。
怪しさがそのフードから溢れ出ているようなのにやっていることはとんでもなくいいことなので、これが違和感と言わずなんと言おうか。
「あの人たち、ボランティアかな。いいことしてるんだからフードなんて取ればいいのに」
「本当に。あれじゃ怪しさしかないぞ。いいことやってんだから堂々とすればいいのに。何を隠す必要があるのか」
そんな話している内に、2人はギルドに着いた。入口の前で2人の男女が話をしていた。
一人は白夜と澪奈がよく知る人物である咲姫、そしてもう一人は背が高く筋骨隆々の男性。彼はこのギルドのマスターである大安寺 亮介だ。
白夜と澪奈はその2人に歩み寄る。
「なにやってん?」
「あ、白夜君に澪奈ちゃんおかえりなさい。それが町の中に怪しい人達がいるって聞いての。それでこれからどうしようか考えてたんだよ」
「こんなところで?」と白夜は思ったが、ギルドの方でも警戒していることで、それは後回しにすることにした。白夜はここに来るまでの経緯を話しておくことにした。
「うむ。やはりか」
白夜の話を聞いた涼介は顎に手を当てる。
「あの者達がどこの団体なのか、調査する必要がありそうだな」
「掃除とか手助けとか、やっていることは本当に善人者だけどな」
「うむ。だが、念には念をと言う言葉もある。なに、もし本当の善意での行動ならすぐにわかるさ」
亮介は大きく笑う。「本当か?」と怪しみながら、白夜は亮介に眼差しを送る。
「なに、他の冒険者にも怪しい人物の行動を観察する指示をしておく。大丈夫、なにか大事があれば我々と騎士で何とかするさ」
そう言って亮介はギルドの建物内へ帰っていった。それに続いて他の3人も中へ入る。
今日は珍しくギルドの建物内は閑散としていた。受付嬢しか見えないくらい、人がいない。
「どうした? いつもうるさいくらい騒がしいのに、今日はえらく静かじゃん」
「白夜君知らないの?」
そう咲姫に言われて首を傾げる。
「今日は舞姫が来てるらしいよ。噴水エリアで踊ってて、冒険者はもちろんギルドの就労者も何人か見に行ってるの」
その言葉に反応したのは白夜ではなく澪奈だった。
「咲姫さん本当!? これは行かなきゃだよ! 白夜君、行こう!」
「え? ちょ、ちょいぃぃぃ!」
白夜の腕を引っ張り、建物から出ていった。咲姫はそれに「いってらっしゃーい」と手を振って見送っていた。
噴水エリアは商店街の中心部だ。
現在そこは空気を壊すかのような目の前いっぱいに広がる人だかりから大きな声で声援が聞こえてくる。ご近所迷惑完全無視な状況である。
それを見て、白夜は澪奈に思っていたことを問いかけた。
「澪奈、まいひめってなんぞ!」
そう白夜が言うと、澪奈は驚いた表情をみせる。信じられないといった感じの表情だ。
「白夜君知らないの!? 舞姫ってあの恋夢 花音だよ! 今各地を回っては踊りを披露して、そのプロポーションも相まってすごく人気なんだよ!」
「へ、へぇ。知らなかった」
だが、それは目の前を埋め尽くすほどの観客を見れば納得だった。
「こうしてはいられないよ! 何とかして一目見ないと!」
それから澪奈は白夜の手を握って引っ張りながら人だかりの外周をぐるっと回り始める。そしてようやく見つけた隙間に入り込む。
人だかりの中心部では一人の少女が踊っていた。幻想的で、まるで蝶が宙を舞っているかのようなその舞はつい見入ってしまう。
「すごいね! 綺麗ー」
澪奈は目を輝かせてその少女に見ている。
少女は露出の激しい恰好でほぼ水着に近い。両手首から伸びる長い布は、少女が踊ればその動きに合わせて宙を舞う。
今まで見たこともない風景に「ほぉー」と感心したような声を漏らす。
「これが舞姫ってやつか。初めて見たな」
「白夜君って流行に疎いの?」
「ははは、あまり興味無いんだなー」
確かに少女の踊りは魅入ってしまう魅力があった。それには冒険者も、学生も、商人も、そして騎士さえも関係なかった。それは見に来ている観客を見れば分かるものだ。
それほどまでに少女の踊りは可憐で、美しいものだった。
白夜が来ている人達の様子を見ていると、少女は踊り終わったのかそのまま一礼する。すでに終わりに近かったようだ。
そこで今までより数段大きな歓声がその空間を占める。白夜はつい耳を塞いでしまう。
そして、少女は不意にこちらを見てニコって笑う。
「キャー! こっちみて笑った―! 超可愛い!」
少女が笑っただけで、澪奈は悲鳴に近いほどの声を出す。先程耳を塞いでいたからか、隣で叫ばれてもダメージはない。
だが、白夜はなにか違和感を覚えていた。少女は確かに笑った。だが、それはファンサービスとしての一環だからか、心の底から笑っているようには思えなかった。
「また日を改めて、今度は外で踊るから来てくれたら嬉しいよー! それじゃまたね!」
そう言って少女はボディガードであろう甲冑を身にまとった3人の人物と一緒にその場を去っていった。
そして少女がいなくなると、時が動き出したように固まっていた人達が再び動き始める。
「怪しきかな」
「なにが?」
「なんでわざわざ外の危ない場所でするのかなって」
「それは、確かに。危険だよね」
白夜はそう言いながら歩き始めると、澪奈も隣を着いて歩く。
外で。それはすなわち魔物がいる場所で行なうというものだ。広く解放的だが、魔物は一般人にとっては脅威。
いくら昼間の外の魔物が弱かろうと一般人のレベルでは苦戦は必須なのである。わざわざそんな危険を侵してまで外で踊るというのが、白夜には考えれなかった。
例え騎士や冒険者が入れど、外で踊るメリットが考えられない。だからこそ、白夜には違和感しかなかった。
「ま、考えても仕方ないな。俺依頼を受けるから、澪奈は修行でもしておいでさ」
「え? あ、うんそうだね。行ってくるよ! 外で花音ちゃんに会えたりしないかな。うへへ!」
そう言って去っていく澪奈を見て、「いや、それはなかろう」と脳の中でツッコミしつつ白夜はギルドへと歩を進めるのであった。




