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英雄は空へと駆ける  作者: まるゆ
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少女は夢を見る8

「ひったくりよ!」


 白夜と澪奈が学校から出て商店街に入った瞬間、商店街の奥から女性の叫び声が聞こえた。二人は顔を見合わせ、声のする方向に走る。


 その数秒後にこちらに向かって走ってくる黒ずくめ人、顔はマスクに帽子を被っており男性か女性かすらわからない。しかし、体格的に男性だろう。


 その人は全速力でこちらに向かって走ってきており、その脇には格好に似つかないピンク色のバックを抱えているので、恐らく犯人に違いない。


 白夜は更に加速してその人の方に向かう。が、その時だ。


「そこの真っ黒、止まりなさい!」


 金属がかしゃんかしゃんと鳴る音と共に、白い鎧を身にまとった人物が二人走ってきている。重装備にも関わらず凄い速さで真っ黒の人物を追いかけいた。


 奥の方では崩れ落ちている女性を介抱している人もいる。その人は同じような鎧なのだが所々肌が見えており、露出が多く兜も被っていない。見た感じから女性であるとすぐに認識できる。


 白夜はそれらを確認すると立ち止まると、すぐに後ろから澪奈が追い付いた。そして澪奈は息を切らしながら口を開いた。


「騎士が来てくれるなら安心だね」


 帝国騎士、通称騎士と呼ばれている。


 彼らは帝国の主である王の直属の組織、帝国騎士団と呼ばれている。騎士団は複数の隊に分かれており、管理部隊や調査部隊など様々な部隊が存在している。


 あまり公言はされてはいないが、人前では言えない裏の仕事をする隊も存在するんだとか。


 彼らは世界の秩序を保つ組織であり、どんな脅威があろうともそれに立ち向かい解決する者たちである。また相談や依頼などを請け負う事もしている。ちなみにそれを斡旋するのがギルドである。


 また戦力としては申し分なく、一人一人が高レベルで戦闘能力は非常に高い為一般市民が100人集まった所で騎士には到底敵わない。


「だが、あれじゃ間に合わんな」


 しかし今の現状は騎士は追いかけようと走っているのだが、犯人との差は縮まる所か少しずつ差がついてしまっている。鎧などの重さの差であろうか。


 白夜は「仕方なきかな」と言って足元の石を手で拾い、犯人を狙って地面を水平に高さもスレスレで石を投げる。


 投げられた石は犯人の踏み込む足の下に丁度到達し、犯人はその石を思い切り踏んでバランスを崩す。


 転がった犯人は驚いた表情で転び、その際に鞄を手放す。慌てた様子で立ち上がるり鞄を取ろうとするも、騎士が迫っていることに気が付きそのまま逃走する。


 が、転けた拍子に足を痛めたのだろうか、右足を庇いながら走っているので先程までの速度は出てない。程なくしてひったくりの男性は騎士に追いつかれて拘束された。


「外したかと思ったのぜ」


「白夜君すごい!」


「今のはガチでたまたまよ。本当は足を狙ったんだけど」


 犯人は捕まり、鞄は無事本人に返された。女性は泣きながら騎士に感謝を述べる。それを確認して、白夜と澪奈はまた歩き始める。


「騎士……かっこいいよね」


 澪奈は歩きながら騎士を羨望の眼差しで見ている。


「騎士になりたいのか?」


 白夜の質問に恥ずかしがいながらも強く頷く。


「憧れなんだよ。いつか私もなりたいなって! あんな風に人を助けられるような人になりたいの」


 白夜はそれを黙って聞いている。


「でも私弱いからさ。夢でしかないんだけどね!」


「なるほど。強さを求めるのは、騎士への憧れってことか」


「えへへ、お恥ずかしながら」


 澪奈ははにかみながらそう言った。


「そんなことはない。頑張るべき良い目標じゃないか」


 澪奈はそう言われたのが意外だったのか、驚きの表情を見せる。


「何をびっくりしておる。人助けが悪いことなもんか。自信もって胸を張れい」


 そう言った後、澪奈は満面の笑顔で「うん!」と大きく頷いた。それを見て白夜は微笑む。


 その後、話しながらギルドに向かっていると、住宅街の間にある小さな公園の片隅に白夜は人の気配を感じ取った。


 その視線の先には少年が1人、公園の端っこで木々の影に隠れてうずくまっている。


「……」


「どうしたの?」


 白夜が公園の方を見ているのに気がついた澪奈は白夜に問う。少年に気がついていないのか、白夜の視線の先を見ても分からないようだ。


「……いや、気のせいだ」


「そうなの?」


 白夜は気の所為と言うが、それが納得いかなかったのか澪奈は白夜の見た視線の先へと歩く。


「わわ! 誰かいるじゃん!」


「……」


 声を掛けられた少年はビクッと体を震わせ、頭を隠す。白夜は近寄ると、少し目を細めた。どう見ても普通の様子ではない。


「どうしたの? そんな所で、体調悪いの?」


 そんな少年に澪奈は声を掛けると、少年は顔を上げた。その顔は未だ幼さが残り、痩せ体型で低身長。小学生と言われても違和感はない。


 そんな少年は顔を上げて、少し怯えた様子で震えた声を出す。


「……君たちは助けてくれるの?」


 その少年は、白夜と澪奈にそう問う。よく見ればその少年の顔は酷く暗い。まるで全てを失って絶望しているかのように。


 唐突な突拍子のない発言に戸惑う澪奈に対し、白夜は直ぐに口を開いた。


「無理だな」


「白夜君!?」


 そんな少年の問いに白夜は即答する。澪奈は驚いた表情で白夜の顔を見ている。


「そう、だよね。僕に味方はいないんだ」


 そう言って少年はまたうずくまる。虚無、彼にはそんなオーラが漂っている。


 と、対応に困っているそんな時だった。


「おい! お前そんなところにいたのか! さっさと俺らの荷物持てよ! これお前の役目だろうが、有難く持てよ!」


 そこで公園の外から数人の男子生徒。彼と同じクラスメイトか、そのリーダー格の男子生徒に言われた少年はビクッとなり、すぐに立ち上がってそちらに走る。


 恐らく、この少年が怯えている理由はこの男子生徒が原因なのだろう。


「くそがっ! 俺の手を煩わせやがって! とろいんだよ!」


 男子生徒は目の前に立った少年の頭を結構な強さで容赦なく叩く。少年はそれに耐えきれず、地面に倒れてしまった。


 助けようとする澪奈の腕を掴む白夜。無理やり引き剥がそうとするも、澪奈は白夜を振り払えない。


「なんで助けてあげないの!? 白夜君程強いなら助けてあげられるじゃないの!?」


「……駄目なんだよ」


 そこで澪奈は気がつく。耐えれないのは白夜も一緒だ。白夜の目は、いつにも増して怒りに満ちていた。それに気がついた時、澪奈は振り払おうとするのをやめる。


 今も少年に5人分の荷物を持たせ、後ろからちょっかいを出している男子生徒たちをにらみつけていた。


「いくら鬱陶しいことや腹立つことがあっても、決して力で解決してはいけない。暴力だけは絶対いけない、その為の力ではない」


 白夜はたまたま近くに歩いていた騎士を呼び止める。騎士は優しそうな声で「どうしたんだい?」と白夜に問う。


「あそこで学生が虐められてる」


「なんだって!? すぐ助けないと」


 騎士は直ぐに少年の元へ駆け寄る。騎士が来た瞬間、少年から自分の荷物を乱暴に取り、走って逃げていく。


 残された少年は地面に倒れている。それを騎士が介抱し始めるが、少年の表情は悔しさと諦めが読み取れる。


「騎士が助けても、次の日にはまたいじめられるだろうな」


 白夜は騎士と少年2人を遠い目で見る。今度は今回の件を理由にされるだろう。


 澪奈は白夜の言葉に返答する言葉が見つからないのか、何も返答しない。


「俺が彼を助けたとする。そしたらあいつはまた違う場所で虐められる。そしたら今度は誰がそいつを助ける?」


 澪奈は白夜の問いに答えられなかった。答えようが無かったのだ。


「この世は、いじめっ子が得するようになってしまっている。本当ならこんなクソ腹ただしい事するやつは全員成敗してやりたいところだ。でも、それでは何も解決しない」


 白夜は悲しみに満ちた声でそう語り、自身の刀の持ち手を強く握る。


「これが現実だ。力があっても助けられない。この現実を見て、まだ何とかしたいと思うか?」


「私は……」


 澪奈は白夜の目を真っ直ぐ見る。その目は諦めたような目ではなく、キラキラと輝いていた。


「私は、俄然やる気が出てきたよ!」


「は?」


 白夜は驚きのあまり口を開いたまま聞き返してしまう。それ程彼女の言葉が信じられえず、聞き取れなかった。


「だって、助けて欲しい人がいる。なら助けてあげなきゃ! それで世の中を変えなきゃならないなら変えればいいじゃない!」


「いや簡単に言うがな、そう簡単な話では」


「確かに簡単な話じゃないよ。だけど、困っている人がいるから助けるの!」


 いやいや言う赤子のように澪奈は言うと、白夜は呆然と彼女を見る。


「綺麗事だって構わない。私はどんな人でも楽しく、笑って過ごせる世の中にしたい! 誰かが苦しむようなそんな不平等な世の中は間違っているんだよ。その為に私は騎士になって、世の中の仕組みを変えてやるの! それが私の」


 その言葉に白夜は驚愕の表情を浮かべた後、「ははは」と軽く笑ってしまう。


「え、なにかおかしいかな?」


 唐突な白夜の笑いに理解が出来なかった澪奈。


「澪奈、本当にいいやつだな。いや、いいじゃないか。その考えは嫌いじゃない」


 白夜は少年の方を見る。少年は騎士の人にお礼を行って走ってその場を去っていく。そしてそれを心配そうに見守る騎士。


「……変えたかった」


「え?」


 白夜の小声は澪奈には届かない。白夜は顔を横に振り、何も言ってないアピールをする。


「澪奈なら変えられるような気がしてな。ほれ、騎士になりたいならもっと修練に励まないと! 剣の修行なら見てやろう!」


「え、ちょっと待ってよ!」


 白夜は速めに歩き始める。その目は少し輝きを取り戻したかのようだ。澪奈はそんな白夜の後ろを必死に後ろをついていくのであった。

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