少女は夢を見る7
「はぁ、嫌だなぁ……」
生徒会室の前。そこで白夜は澪奈と2人で立っていた。目的は先日決まった魔剣競技大会での出場者を記した用紙を提出すること。
これは毎年出場者本人が持っていく事になっている。出場選手と生徒会との顔合わせの場になっている。
のだが、澪奈は何故か今にもため息を吐きそうな表情で生徒会室の扉を見つめている。白夜はそれを横目でじーっと見ていた。
嫌そうにしているが、白夜には何が嫌なのか見当もつかなかった。
「なにが嫌なのか分からんが、結局行くんだから早く行こう。時間は大切なのぜ」
「うぅ、そうだよね。白夜君に迷惑かける訳には行かないし……」
ついにため息を吐いた澪奈は、白夜の後ろに移動して隠れるように身を小さくする。
「白夜君、このままお願いします!」
「いや、意味無いとは思うんだけど」
「いいから! 少しだけ気が紛れる気がするの!」
澪奈は後ろから白夜を押し、白夜はやれやれと言った表情で扉を3回ノックする。程なくして「どうぞ」と言う女性の声が掛かり、ドアノブを捻って中に入る。
部屋の中は長机が2個平行に並べられており、対面になるよう椅子が4つ。そしてホワイトボードに本棚の質素な部屋である。
その部屋で椅子の一つに座っている大変綺麗な女性がこちらを見ていた。そして女子用の制服を来ていることで、直ぐに彼女が自分達と同じ生徒である事。そして一度だけ見たことのあるその女性は、確か生徒会長をしている女性だ。
その彼女の前まで歩いて立ち止まった時、白夜よりも早くその女性が口を開いた。
「どうかしたの?」
「なんとか大会の出場なんとかを……ほれ、さっさと渡しんせ」
白夜が横に移動すると、先程の紙で顔を隠した澪奈が。そして澪奈はその紙を女子生徒の目の前にスっと出し、すぐに白夜の後ろに隠れる。
「あらあら嫌われたものね。姉妹なのに悲しいわ」
「姉妹?」
白夜は2人の顔を見比べる。姉妹、と言われあぁ確かにと思う程顔のパーツが似ていることに気がつく。特に目元なんかはそっくりだ。
ただ違うところがあるとすれば、胸部の辺りと言ったところか。
「私は速水 聖奈。この学校の生徒会長、そして澪奈の姉よ」
「ふむ、確かに似ている」
まじまじと二人を見比べていると、澪奈が白夜の腕を引く。
「白夜君! もう用事は済んだんだから帰るよ!」
「あーはいはい。やれやれ、忙しい人だな。ではまた」
白夜は一礼して、澪奈に引っ張られるがまま部屋を出る為に歩き始める。が、勢いよく扉の前で唐突に扉が開いた。
開く扉に澪奈が当たりそうになるが、すんでのところで白夜が腕を引き戻し、澪奈を自身の胸に抱き寄せることで回避する。そして、すぐに部屋の端にワンステップで移動した。
「おい! 速水 聖奈!」
そう怒声にも似た大声で生徒会室に入ってきたのは、大柄の男子生徒。白夜の倍以上はでかく見える。
なぜか入ってきてそうそう不機嫌なのは過去になにかあったからか。彼がずんずんと地響きでも起きそうなくらい力強く歩いていく。
「び、白夜君! 苦しいよ」
そう真下から声が聞こえ、白夜はすぐに澪奈を解放する。
「すまぬ」
「もう、びっくりしたじゃん」
「咄嗟だったんでな。許してくれ」
白夜はそう言って澪奈の頭をポンポンしてなだめ、対峙する聖奈と男子生徒を見る。聖奈は至って冷静で先程提出した紙を見ており、その男子生徒には眼中にない。
開口は男子生徒の方だった。
「なんで校内順位1位の貴様と3位の堀井は騎士からの推薦を受けられて、2位の俺様には無いのだ!」
「それはあなたに騎士としての素質が無いからでしょ?」
「違う! 全ては天の恩恵の差だ!」
【天の恩恵】、それは魔術のように何もない空間に魔法陣を形成して発動するものではなく、自身にマナを取り込み内部または体の一部に事象変化をもたらす術の事。
身体能力向上や空を飛ぶ、また人形を操るといったことができるようになる。人はそれを選ばれし人間が天から与えられた最強の術と称し、天の恩恵は持つものは皆から憧れる存在になれる。
だが、憧れの目で見られるということは逆もまた然り。目の前のようにそれを言い訳にするような者もいるのだ。
「天の恩恵を持たないものはその境地に至っていない。そういう事よ」
「なにを! 俺はお前に実力は負けてない!」
「大堂君、はたしてそうかしら?」
大きな男子生徒に臆することなく、聖奈は言い返す。それに頭が来てか、顔を真っ赤にして怒鳴り散らし始める。大堂君と呼ばれた男子生徒は校内順位2位の確かな実力者で、確かに実力は高い。
しかし、粗暴が荒く人当たりも悪いことで有名だ。
聞いているうちにイライラしてきた白夜は大きく息を吐く。
「あれじゃダメだろうな」
「なんだとっ!」
痺れを切らした白夜が聞こえるようにそう口にすれば、案の定聞こえた男子生徒は更に怒りの表情を浮かべて白夜の方へと歩いて来る。
その様子をわなわなした様子で「やばい! やばいよ!」と言っている澪奈を尻目に、キッと男子生徒をにらみつける白夜。
そして目の前に立った男子生徒は胸ぐらを掴もうと右手を伸ばすが、白夜はそれを左手で払う。それに一気にカッとなった男子生徒はグーで殴ろうとするも白夜はそれを軽く左手で受け止める。
男子生徒はそれをありえないと言った驚きの表情で止められた右手を見ていた。
「あーだこーだ言う前に、自分の也を考えたらどうっすか?」
白夜は腕を後ろに流し、前に倒れてきた生徒の額に軽くデコピンをする。
巨体が宙を舞い、地面に倒れる。それを見た澪奈と、そして聖奈すらも目の前に起きたことに驚愕の表情を隠せない
「天の恩恵は特別な物じゃない。さ、帰ろう」
「う、うん」
白夜は現状を飲み込めず目をキョロキョロさせている大堂には見向きもせず、生徒会室から出る。澪奈はそれに続き部屋をでる。
廊下を歩きながら、澪奈は口を開いた。
「あのさ、天の恩恵って特別じゃないの?」
「ん? それはいつかわかることだ。今は知るべきではないのぜ」
「なんで? 教えてくれてもいーじゃん! 分かったパンツを見せよう!」
「そこまでして知りたいのぜ!? うむ……大変魅力的なのだが、ここはノー!」
「えぇー!」
心を痛めながら腕でバッテンを作ると、澪奈は非常に不満な表情をする。その後何とか聞き出そうとあれやこれやと提示してくるが、白夜はその問いに答えることはなかった。




