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英雄は空へと駆ける  作者: まるゆ
12/42

少女は夢を見る5

 日差しが眩しくて目を覚ませば、やはりいつも通りの朝である。


「それでね、生きる気力ゼロの少女になんて言ったらいいのか困った白夜君は少女になんて言ったと思う?」


 そんな上機嫌の咲姫の声が聞こえる。今日もやはり何かでドアを開けてきたのだろうか。そして、もう一人いるのに気が付くとその人物の声で頭が完全に覚醒する。


「なんて言ったんですか?」


 声の人物は澪奈だった。頭は起きても処理は追い付かない。


「生きる意味がないなら、俺の嫁になってくれって! そう必死に言ってる白夜君を見てたらもう笑っちゃって!」


 2人はそれに大笑いしながら白夜の方を見ている。


 白夜は気づかれないように毛布を被っているが、過去の話をされるのはむず痒い。


「でもそのお陰でその子も元気になったの。その後は知り合いの貴族に引き取って貰えてめでたしだったんだけど。そこから離れなきゃならなくなった時、その子大泣きしちゃって」


「あー、そうなるでしょうね」


「でもその後また! 次に会う時までにいい嫁になっていてくれって! リアルに言う人初めて見て笑っちゃた! 笑いすぎて腹筋が鍛えられちゃうよ」


「……むしろそのぷにぷにのおなか何とかした方がいいのでは?」


 笑われすぎてちょっとイラっとした白夜は体を起こす。咲姫は白夜に言われた後自分のお腹を摘み、どこかの絵画みたいな絶望の表情を浮かべている。


「あ、おはよう白夜君」


「あぁおはよう。なぜここにいる?」


「成り行き?」


 澪奈は首を捻る。


「聞いているのはこっちなのだが」


「えっとね、実は白夜君にお願いがあって。それでお願いするついでに一緒に行こうと思って待ってたら、外で偶然咲姫さんに会ったの。それでその話をしたら起きるまで話でもって」


「それでここに来たと」


 澪奈は大きく頷き、白夜は大きくため息を吐いた。


「まぁ、もう慣れた。それでお願いってなにさ」


「えっとね、これ!」


 澪奈は鞄を開けて中から一枚の紙を取り出した。白夜はそれを受け取り、目を通す。


 書かれているのは魔剣競技大会のチラシのようだ。


「クラスから男女一組を選出してトーナメント形式で戦っていく。優勝者には謎の【星天武装スタリア】か。謎のって言ってる時点で怪しいんだよな」


「ねぇ、【星天武装スタリア】って何?」


 澪奈がそう問うた瞬間、白夜と咲姫が澪奈の顔を見て時間が止まったかのように動かなくなった。


「え、なに?」


「いや、なんでも……」


「あの澪奈ちゃん、何のために出場するのかな?」


 そう言うと、澪奈は少し答えにくそうに眼を逸らす。


「えっと……【星天武装スタリア】が欲しいから、かなぁ?」


 嘘だ。それはその場にいる白夜と咲姫がすぐに理解した。その理由に回答が曖昧であり、目が泳ぎまくっている。


「ま、澪奈がどんな答えでも俺の答えは変わらんがな」


「出てくれるの!?」


 澪奈は期待の眼差しで白夜を見るが、白夜の反応は澪奈が欲しそうにしている対応ではなかった。白夜が首を横に振ると、澪奈は一瞬で暗く寂しそうな表情になる。


白夜はちょっとだけ申し訳なさ感が出てくる。


「なんで?」


「単純に面倒。出るメリットないし」


 そう言うと澪奈は心底落ち込んだ表情をしている。


 それを見た咲姫が白夜の隣に移動して耳打ちをする。


「出てあげたら?」


「えぇ……俺は目立ちたくないのぜ」


「そう言わずに、確かに白夜君が出ちゃったら勝負にならなくなるけど。澪奈ちゃんの頑張る気力になると思うし、ね?」


 咲姫は白夜を説得するも、白夜の反応は相変わらず面倒が勝っている。


「若葉を育てるのは……。そうだな」


 その一言で澪奈の表情は一気に明るくなる。


「出てくれるんだね!?」


「ただし、俺は澪奈の実力に合わせる。澪奈の実力が追い付かなくなったらドロップするから」


 澪奈はそれでも「うんうん!」と嬉しそうな表情で頷いている。


 それを見た白夜もなんだか笑みが零れてくるのであった。その隣でも、咲姫が心底嬉しそうによだれが足れそうな程緩み切った笑顔で澪奈を見ている。


「可愛い、抱き着いていい?」


「やめとけ。乳圧死するぞ?」


「にゅうあつし?」


 澪奈の問いに、白夜が答えることはなかった。



 ◇---◇---◇


 数時間後。


 学校のホームルーム(以降HR)の時間。その日は教室内が派手にヒートアップしていた。主に二人の人物によって。


「魔剣競技大会に出られるのはクラスでも1組だけ! それが雑魚の十六夜と組んで出るとか舐めてんのか!」


「別に。あなたと組むよりは断然勝率は高いと思うけど」


 このHRでは魔剣競技大会に出場する選手を決めるために教室内で話し合っている。


 のだが、それは開始数分までの話。澪奈が白夜と組んで出ると言い、クラス全体がブーイングの嵐となっている。


 特にクラス2位である少年は特にご機嫌斜めである。自身が出る気満々であったが為だろう。


 ちなみに元凶である当の本人は自分の席で外を眺めており、興味なく呑気に欠伸をしていた。


 そしてその隣の席にいる恵夢は前の白熱している状態を眺めてなにかを想像しているのか「うへっ……うへへ」と言って気持ち悪いことになっている。


 もちろん白夜はそれを完全無視である。


「俺は反対だね。クラス1位のあんたと2位の俺で出るのが一番なんだ!」


「そうは思えない。杉下君、クラス2位って言っても魔剣競技大会についていけられる程の実力ないよね」


「うっ、それは……」


 そう澪奈が言うと、図星を突かれてか男子生徒は言葉を失う。


「私はね、この大会はどうしても勝たなくちゃならないの。だから、本気で選ばせてもらった」


「速水さんが言いたいことはわかりますが、勝ちたいなら十六夜君はやめておいたほうが」


 澪奈の言葉に教師までもが否定に入る。まぁ当然だろう。生徒を評価している教師にとっては、実力は全員把握しているはずだ。


 だがらこそ白夜を選任は絶対しないだろう。


「先生、お言葉ですが。白夜君を舐めない方がいいかと。彼は私なんかより強いのですよ?」


 その言葉に教師だけでなく、周りの生徒までもが驚いた表情をする。


 それに対して一番納得がいっていないのは澪奈と口喧嘩していた実力2位らしい杉下と呼ばれた男子生徒だ。


「何もしゃべらない、頭も悪い、授業もまともに受けない。そんな奴が俺より強いだと?ふざけんじゃねぇ! あんな雑魚がお前より強いわけあるかよ! お前もしかして目が悪いんじゃねぇのか? もしくはお前が本当は雑魚なんじゃねぇのか!?」


「相手の実力も測れないならお前はそれ以下だな」


 そう言った杉下に対し、反論したのは澪奈でもなく、教師でもなく。外を眺めていた白夜だった。白夜は眠そうな表情で杉下を見ている。


 白夜を見た杉下はいらいらとしているのが雰囲気でわかる。と言ってもすでにその悪鬼のごとくな表情から明らかな怒りが見える。


「あぁ!? 雑魚が粋がるなよ!!」


「さっき言ったこともわからんのか。どうしたら……そうだ、勝負するか?」


「なんだとっ?」


 今にも掴み掛りそうな勢いの杉下はこれまでにないほど怒りに満ちた目をしていた。その様子を見てか、近くの気弱な女子生徒が小さく悲鳴を上げる。


 そして白夜の発言が予想外だったのか、周りの生徒はあっけにとられた表情で二人を見ていた。


「別に俺のことを好き勝手言うのは構わないし、そのなんとか大会とやらに出たいわけではないんだけど。強がるだけの雑魚が吠えて若葉が散るのは、あまりにも虚しすぎるかな」


 白夜の冷静な態度に、杉下は体をブルブルと震わせていた。どうやら完全に頭に血が上りきっているようだ。顔まで真っ赤である。


「雑魚の分際で調子こいてんじゃねぇぞ!」


「はは、そんなに顔真っ赤にしてると茶が沸くのぜ?」


「てめぇ!」


 杉下は白夜に掴みかかろうとするが、それを他の男子生徒が必死に止める。


「いいだろう。その勝負のってやる!」


 掴まれたまま、白夜を睨みつける。


「はぁ仕方ありませんね。それではこれより10分後、闘技室にて摸擬戦を実施します。皆さんも集まってください」


 教師が仕方ないといった感じにそういうと、クラスの大方が足早に教室を出てその闘技室へと向かっていく。


 教室の空気の悪さに居たたまれないのだろうか。


 また白夜もその状況を何とかしたかった為に、今の行動をとったわけだであり結果的にはよかったか。


「今更逃げるんじゃねぇぞ! 行くぞっ!」


 杉下は白夜を指差し、怒り混じりに言い捨てて仲間の男子たちを引き連れて教室を出ていく。


 その後、澪奈が白夜の近くに歩み寄る。


「ごめんね白夜君」


「なに、気にすることはない。ちょっと痛めつけてやろう」


 そう言って白夜は指をぽきぽき鳴らしながら教室を出ていく。その後ろをつけるように澪奈も教室を出ていく。


 白夜は澪奈と二人で闘技室に向かっていると、後ろから背中をつんつんされる。振り返ってみると、そこには恵夢がいた。


「あれ、かなりキレてるよ。大丈夫なの?」


「自分で油撒いて自分で火を注いで爆発しただけだろ? 自業自得だって」


「いや、最後は完全に白夜君が爆発させてたけどね」


 恵夢は呆れ顔でそう言う。白夜は特に気にした様子はなさそうだ。


「それに、いつまでもあのままじゃいかんだろうし」


「え? それってどういうこと?」


 恵夢は白夜の言った意味が分からず首を傾げる。その様子を見ることはなく、白夜はすたすたと闘技室に向かっていった。

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