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英雄は空へと駆ける  作者: まるゆ
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少女は夢を見る4

 白夜は教室のドアを開ける様に何のためらいもなくギルドの扉を開ける。


 すると零奈は中に入ろうとしている白夜の腕を両手で引っ張り、中に入るのを阻止する。


 不意の出来事に白夜は少し体制を崩すも、何とか立ち留まる。


「なんだ」


「私ギルドに入ったことないから緊張して……もう少し待って!」


 慌てた様子で話す零奈はブツブツと何かを言った後で深呼吸をし始める。白夜はそんなことかとため息をついて澪奈の手を引く。


「そんなちゃちぃこと気にするな。ほら行くぞ」


「ちょ! まーーーー!!」


 嫌がる零奈を半ば無理やり中に連れ込み、正面のカウンターにいる受付嬢の所まで歩く。


「あら白夜くん、今日は彼女連れで依頼ですか?」


「今日のところは違うのぜ。咲姫はいるかね?」


「いますよ。お呼びしますので少々お待ちください」


 受付嬢は受付カウンターの奥にある従業員専用と上部に書かれた扉を開けて中へ入っていく。


 白夜の後ろで未だ緊張しているのか、澪奈は身を小さくして白夜の手を握っている。


 それをギルド内にいる冒険者や受付嬢がくすくすと笑いながら見ているので、その視線が少々痛かった。


それを感じているのか、澪奈は若干恥ずかしそうにしている。


「白夜君あの、場違い感が半端ないんだけど」


「じきに慣れる」


 そわそわした様子で居心地が悪いのか周りをキョロキョロ見ている。


 白夜はそんな様子の澪奈をじっと見ていると、再度奥の扉が勢いよく開いた。


 そこから先ほどとは違う受付嬢がやってくる。


 白夜のよく知る人物、咲姫だ。


 咲姫はいつもの落ち着いた様子ではなく、何故だかもの凄くテンションが高くて目がキラキラと輝かせて鼻息を荒くしている。


 先程の扉の音で周りの冒険者は何事かと全ての視線がそこに集まる。


「あらあらあらあらどうしたのかな白夜君!? さっき白夜君が可愛らしい彼女を連れて来たよーって連絡を受けたんだけど!?」


 咲姫は目をカッと開いて興奮した様子で早口で話す。その様子に若干引いた様子で白夜は話し始める。


「彼女ではなくクラスメイトです」


「えっ、そうなの?」


 白夜がそう言うと、咲姫は澪奈の方を見る。


 澪奈はササっと白夜の後ろに隠れて小さく頷くと、咲姫は心底ガッカリした表情をしている。


「なぜ残念そうな顔をする」


「別にー。白夜君もついにそういうお年頃なのかなって思ったら嬉しくなったんだけど」


 咲姫はそう呟く。すると、後ろにいた澪奈が白夜の腰を人差し指でつつく。


 振り向くと、澪奈は耳に顔を近づける。


「綺麗な人だね」


 澪奈は白夜の耳元でそう呟いた。それが聞こえていたのか、咲姫は「あらっ!」と言って手を重ねる。


「嬉しいこと言ってくれるじゃない! あなた名前は?」


 咲姫が澪奈に近づくと、澪奈はささっと白夜の後ろに隠れる。


「あ、あの、速水 澪奈です! この度はお日柄もよくぅ……」


「ふふ、そう緊張しないで。私は日暮 咲姫よ。よろしくね!」


 慌てふためき顔が真っ赤になった澪奈に、咲姫は握手の為に手を差し出す。


 澪奈は少し躊躇ったあと握手に応じた。


 その様子を横目で見ていた白夜は大きくため息をついた後、口を開いた。


「咲姫、唐突で悪いんだが。魔術を教えてあげて欲しいんだわ」


「魔術を? んーそれはいいんだけど……この子、魔術の素質そこまで高くないよ。白夜君よりかは何千倍ましだけど」


「一眼でわかるんですか!?」


 驚く澪奈に「もちろん!」と自慢げに胸を張りながら言う咲姫。胸を張った勢いで大きな胸が1度ボヨンと上下する。


「とは言っても、白夜君と違って磨けば武器になるレベルだね」


「はは、さっきから煽ってくれるな」


「だって白夜君は完全なゼロだもん。あ、でもゼロに何かけてもゼロだからプラス1000にしておくね」


「はいはい、どうせ俺には剣しか……」


 いじけ始めた白夜は近くの椅子に座り、肘立てに顎を乗っける。咲姫は心配した様子で白夜の肩を持つ。


 その様子を見た咲姫は口に手を当てて笑っている。


「大丈夫よ、いつものことだから気にしないで。それじゃ、可愛い澪奈ちゃんにお姉さんが特別講義をしてあげる!」


「は、はい! あの、お願いします!」


 何も疑う様子はなく、澪奈は姿勢をビシッと正し頭を深々と下げる。


「ま、お手柔らかにな。さて、俺は依頼を……」


「白夜君の依頼はこの修行を見守ること! さ、行きましょ!」


「あぁ、ちょっと待ってくださいー!!」


 満面の笑みの澪奈は、心の準備が出来ていない様子の咲姫の手を握って外へと出ていく。


「えぇ。……ていうか仕事ほったらかしでいいのか?」


 げんなりした様子の白夜は怪訝そうな表情を浮かべてその後ろ姿を見つめていた。



 ーーーーーーーーーーーーーー



 向かった場所は町を出てすぐの壁の下。澪奈と咲姫が対面で講義をしている。


 白夜はと言うと、陽の当たる場所で横になっている。


 その時、小さな緑色のぷよぷよした魔物が白夜に襲いかかろうとするが、白夜は面倒くさそうに足で魔物を払えばその魔物は大きく飛んでいく。


 飛んで行った先で黒い霧になって消えていった。白夜はドロップを確認しようともせず、一つ大きな欠伸をして、咲姫と澪奈の方をじっと見ていた。


「いい? 魔術に大切なのはイメージなの。学校では長い詠唱とか魔法陣とかを習わされてるとは思うけど、あれって実は不必要なの。頭に思い描くことが最重要なの」


「はぁ、イメージですか」


 先日学校でも魔術は決められた詠唱をすれば魔法陣が形成され、事象として発現し炎の弾や氷の刃になる。これは学校だけではなく、家庭などでもそう教えられている世界の常識だ。


その為、今更常識を覆すような新しいことを言われても全く頭に入ってこない。イメージが湧かない

澪奈は咲姫の言っていることに理解がし辛かった。


「まぁいきなり言われてもピンとこないよね。ちょっと見ててね」


 咲姫は何もない草原に向けて手の平を向ける。


 すると詠唱もしていないのに咲姫の手の平の前に魔法陣が形成され、そこから小さな炎の玉が飛ぶ。それを見た澪奈は口を開いたまま言葉が出せないでいる。


「詠唱はなくてもこのくらいの魔術ならすぐ発動できるようになるよ」


「す、すごいです!」


 真新しいものを発見した時の子供のようなきらきらとした目で見てくる澪奈を見て、咲姫は満足げに笑っていた。


「詠唱は脳に無理矢理イメージを映しだす行為。となれば、しっかりとしたイメージさえあれば魔術は発動するんだよ。後はセンスかなー」


 咲姫の話を黙って聞く澪奈。


 それは理解できているのか、はたまた理解ができていないのかはわからないが相槌を打ちながら聞いていた。


 ちょうどその時、咲姫が眺める先で白夜がまた大欠伸をする。


 咲姫はそれが目に入ってか、ずんずんと白夜の方へと歩いていく。そして白夜の頭の前に立って白夜を見下ろす。


「白夜君! 少しは参加なさい!」


 しかし、スカートを履いている咲姫が寝ている白夜の前に立てば、見えてはいけない場所が丸見えである。


「あの、咲姫さん? スカートでそこに立たないでくれますか?」


 白夜はすっと体を起こしてその場で胡座を組む。咲姫は「しまった」と言った表情でスカートを押さえていた。


 もはや見慣れた光景に、白夜はやれやれと肩をすくめた。澪奈はなぜか少々ジト目で白夜を見ている。その視線が少し痛かったので、わざとそちらを見ずに咲姫の方へ向く。


「とりあえず、実際にやってみた方がいいんじゃないのか? できるか出来ないかは別として」


「なる程。よーし、試してみる!」


 そう元気に言って澪奈は目を閉じて集中する。赤い粒子が澪奈を中心にして渦巻き、それに生じる風でスカートが翻る。


 白夜は「これは!」と言ってなんとか気付かれずに翻るスカートの中を覗こうとしてさりげなく体勢を変えるも、すんでのところで見えない。


 その白夜の無駄な努力を傍らに、澪奈の目の前に赤い魔法陣が浮かび上がった。


「やった!」


 出来た事に喜んでか、澪奈はジャンプして喜んでいる。が、それがいけなかった。


 目の前にあった魔法陣は上空へと移動し、大きな火の玉が発射された。その先には変な体勢で澪奈の方を直視している白夜がいる。


「白夜君危ない!」


 咄嗟に咲姫はそう叫ぶ。


「……へ?」


 未だスカートの中を覗こうとしていた白夜は判断が遅れ、斜めに見上げると火炎弾はすぐ目の前まで来ていた。


 しかし、それが白夜にぶつかることは無かった。なんと目の前で赤い粒子となって消えていったのだ。その有り得ない光景に、澪奈はぽかんと口を開けて呆気に取られていた。


「危なかったのぜ」


白夜はふぅーと息を吐き、立ち上がる。


「白夜君、今のは罰だよ」


「本当にごめんなさい。つい出来心で」


白夜は頭を掻きながらたははと笑っており、咲姫はやれやれと言った表情だ。その中で一人、澪奈は先ほどの出来事を飲み込めずにいた。


しかし、自分の魔術で人を傷つけなかったため安堵の気持ちが一番勝っていた。澪奈は白夜に走り寄って前に立つ。


「ごめんね、白夜君。本当に怪我がなくてよかったよ」


「うむうむ。こちらもご褒美があったからおあいこなのぜ」


その白夜の言葉の意味を理解できず、澪奈は頭に疑問符を浮かび上がらせるのであった。


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