少女は夢を見る3
放課後、白夜は帰宅途中に武器屋に寄っていた。
「ほう、これはたまげたな。遂にゲットしやがって羨ましいぜコノヤロウ!」
昨日手に入れた黒天使の短剣を店主である親父さんに見せると、興奮した様子でその短剣をいろんな角度から見ている。
それもそのはず、世界でも数本しか存在しない超レア武器。店頭に並ばせたいと思うのは武器屋の性分だろうか。
白夜は今回、それの鞘を買いに来ていた。いつまでも耐切れ用の布を被せているとはいえぽろっと落としてしまえば危ないだろう。
「なんか不吉な予感するけどな。あれだけ頑なにドロップしなかったのに勇者がいた途端手の平返しでポロンって出るんだもの」
「出る時には出る、それが確率ってもんだ。良いじゃねぇか出たんだからよ!」
ガハガハ笑いながら店主はカウンターの下に置いてあった鞘に短剣を収める。
それを白夜に投げるように渡し、白夜はそれを器用に受け止める。
「だがドロップが悪かったな。そりゃ魔術を使わなきゃ利点は生かせないぞ」
「知ってる。どうせ俺には無縁な代物なのぜ」
白夜は腰にある袋に短剣をしまって銀貨を1枚支払う。親父さんはそれを受け取ってレジにしまった時、白夜を通り越して入り口の方を見る。
「およ、そこの女の子は白夜の彼女か?」
「はは、何を言って。一人で来たのに誰かいるわけ」
親父さんが白夜の後ろを指差す。その指差す方へ白夜は振り向くと、見た事のある少女の顔が見えた。また正面に戻すと、親父さんのイカつい顔が目に入る。振り向いたことに若干の後悔を覚える。
しかし、白夜は一気に冷や汗をかいてしまう。
「白夜君、何をしているのかな?」
「何をって何がかな?」
扉の前に立っていたのは澪奈は表情こそ笑顔だが、その目はまったく笑っていなかった。白夜は少し震えた声でとぼけてみるが、澪奈の表情が崩れることはなかった。
「白夜君、ちょっとお話があるんだけどいいかなー?」
「……へい、お供致しやす」
白夜は一切逆らおうとはせず、頭を下げる。外に出ていく澪奈の後をついていくことにした。
「なんだったんだ?」
親父さんは目の前で起きた出来事を理解できずにいたが、「まぁいっか」と言って椅子に座ったて近くにあった剣を手に取り台の上に置いていた布で刀身を鼻歌混じりで磨き始めた。
◇ ーーー ◇ ーーー ◇
武器屋を出て、ゆっくりと街中を歩く。
「白夜君、冒険者やってるよね?」
やはりバレていた。というよりはバレない方がおかしいか。
嘘ついても仕方ないと思った白夜は黙って頷く。
「申請せずに冒険者として働くのは校則違反であることは知ってるよね?」
「あぁ。だけど理由があってだな」
「いくら理由があっても、ルールを守らない理由にはならないよ。軽くてもルールはルール、守らなきゃ」
ぐぅの音も出ない。しかし、白夜は少し違和感を持っていた。
周りの生徒なら白夜の違反を知ったならすぐ様に教師に報告。それから白夜は違反のペナルティを受けることになる。そうすれば笑いの種にもなる。
それをしない澪奈に、というよりもそれ以前から周りとの態度の違う少女に少し警戒をしている。今も、斬りかかってきたらいつでも抜刀できるよう両手は宙に浮かしている。
彼女はニタリと笑った。白夜は自然と左手が鞘を持つ。
「白夜君、冒険者ってことは強いよね」
「そこら辺の雑魚共に比べたらそれなりに」
それを聞くと、澪奈は頭を下げた。
「白夜君、私に修行をつけて欲しい! 特に魔術の面で!」
深々と頭を下げる澪奈に、白夜は驚いた半面非常に困った表情をする。白夜としてもここまで頭を下げられたらノーとは言えない。が、白夜にはそれができない理由があった。
こればかりはどうしようもないのだ。
「すまないが、それはできない」
「なんで!?」
澪奈が目を大きく開き、すごく残念そうな表情をする。その少女の悲痛な表情に、白夜は心が非常に痛む思いをしている。
「俺、魔術使えないんだよ。すべて、この刀だけで戦ってきた」
白夜は腰に下げている刀をポンポンと軽くたたく。
白夜は魔術は全く扱えなかった。生まれた時から扱えなかったわけではないが、使えたとしても実戦で扱えれるほどではなかった。
今では、まったく扱えないが。
とはいえ、もしこのまま頭を下げて無理と言えば、学校のペナルティを受けなくてはならない。そうすれば冒険者としては行動することができなくなってしまう。
白夜にとってそれは何としてでも避けたかった。
「とはいえ、魔術に詳しい人を知っている」
それを聞いた澪奈は先ほどまで諦めたような表情をしていたが、白夜の話を聞いた途端ぱぁと明るい表情で目を輝かしている。
そのキラキと輝く表情は年相応の可愛らしいものだ。
「その人が良ければだが。まぁお願いすれば大丈夫だと思うけど」
「その人って怖い人?」
なにかを心配しているのか、はたまたその人の素性を露わにしたいのか。
「悪い人ではないのぜ」
軽く笑う澪奈に白夜も同じく笑って返す。
「そっか、ならよかったよ。あ、そうだ! さすがにただで教えてもらうわけにはいかないよね。なにか持っていったほうがいいかな」
「いや、それについては心配しなくてもいい。お願いすれば快く承諾してくれるだろう」
「そ、そうなの?」
「うむ。むしろ、自分のことを気をつけなくちゃいけないかもしれんのぜ」
白夜が言ったことに理解ができなかったのか、澪奈は頭を傾げる、
「いや、今のは忘れてくれ。ちょっと変な人なんだよ。とりあえず、早速その人と会ってみるか?」
「えっ、いいの!?」
分かりやすく喜ぶ少女に、白夜は「構わんよ」と言い歩き始める。
目指す場所はギルドだ。
歩き始めて数分。「ねぇ、白夜君」と後ろを歩いていた澪奈が白夜に声を掛ける。白夜は振り向かずに適当に返事を返した。
「最後になんだけど、私が白夜君を虐めているって噂、どう思う?」
「それについては本当に申し訳ございませんでした!」
白夜は振り返って本気で頭を下げ、甘い物を奢るという交換条件で許してもらえることとなった。




