プロローグ1
少年は森の中を駆ける。
そして目の前に現れる大きな豚。この豚はただの豚ではない。といっても空を飛べるわけではないのだが。
頭には角が生えており、口からは鋭い牙が見えている。世界各地に現れる異形の物、人はそれを魔物と呼んでいる。
少年はその豚を見つけると腰に下げていた刀を引き抜き上空へと跳躍。そのまま空を蹴って、その豚目掛けて刀を振り下ろす。
真っ二つになった豚は悲鳴にも似た鳴き声を上げながら、黒い霧となって消えていく。黒い霧が消えた後、豚がいた場所に転がっている角を拾い上げた。
これはドロップ品と呼ばれ、魔物を倒した際に落ちることのあるものである。確実に落とすものから滅多に落とさないものまで、そして落とすものは魔物に関連したものと言うわけではない。
剣や防具はもちろん、使い道のわからないものまで多種多様である。どういうう原理でなっているのかは未だ不明である。
「よし、これで依頼は完了っと」
少年は満足気な表情で手に入れた角を腰に着けていた袋の中に仕舞う。そして少年は踵を返し、町へと帰る為歩き始める。
彼の名前は十六夜 白夜。貴族の生まれでも無ければ、商家の息子という訳でもない。普通、平凡に生まれた少年だ。
ただ数年前に両親を亡くし、今は学生兼冒険者の2足のわらじで生活している。先程手に入れた角も冒険者として依頼を受け、その角を集めに来ていたのだ。
冒険者は魔物の討伐や薬草の採取など、人からの依頼をこなすことで生活する者のこと。所謂便利屋である。
ちなみに魔物にもピンからキリまでいるが、弱い魔物から強い魔物まで。魔物との戦いは、常に死と対面でいなければならない。
「くそっ! この魔物めちゃ強いじゃんか!」
「どーすんの!? 死んじゃうよー!」
少し離れている場所にいる若い男女。戦士風の斧を持った男性と魔法使いのローブを身にまとい長い杖を持った女性。
恐らく初心者であろう2人は1匹の魔物を前に腰を抜かして怯えている。その2人に対し、魔物は地面をクンクンと匂いながら少しずつ近づいている。
その魔物は先程白夜が倒した豚の魔物。ホーンピックと呼ばれる魔物だ。
基本的には初心者でも倒せる魔物だが、冒険者になったばかりの新米にはなかなか骨が折れる。
2人には討伐は難しいと思った白夜は、地面にあった石ころを拾い上げてホーンピックに向けて投げる。
その石は今まさにその角で冒険者を貫こうと走り始めたホーンピックに直撃し、ベゴッという鈍い音を発して黒い霧となり消える。
残ったのは乱雑に落ちている角と、地面にめり込んだ石ころのみ。
「た、助かった?」
「そのようね。誰かいるの?」
2人の男女は辺りを見渡す。少し離れた場所にいた白夜に気が付き、2人は白夜の方へ走り始める。
が、追いつかれる前に白夜は木の上部までジャンプして丈夫な枝に着地する。
そして、丈夫な枝から次の丈夫な枝に次々とジャンプしてその場を離れていく。
どんどん距離が離れる白夜に、2人の男女はぽかんとしていた。
「でも、あの子学生服着てなかったか?」
「確かに。学生なんて、よくてレベル20でしょ? あんな芸当が出来るはずないわよね」
「だよなぁ。助けてくれたのはあの子では無いのか」
「きっとそうよ。私たちはレベル31よ? 学生に負けるはずないじゃない。きっと助けてくれた人は別にいるはずよ」
「そうだな。うん、そうに違いない! なら助けてくれた人はきっともっと遠くに行ったはずだ! 追いかけて礼を言わなきゃだ!」
そんな会話をした2人は白夜とは逆の方向へ走り去っていく。
白夜から見たら2人は冒険者になりたて。しかも今日初めて冒険者の依頼を受けたようにも見える。初心者向けと呼ばれる魔物に対して2対1で相手に苦戦していたのだから。
しかし、それは冒険者になって誰しもが通る道。初めは苦労するものであり、白夜も初めはそこら辺のゼリー状で世界最弱の魔物と言われるスライムですら苦戦するほどであった。
レベル1ならスライムの体当たりだけでも一発で骨折することもある。
が、それがレベルが10にもなれば何かが当たった程度。20にもなれば蚊に刺された程度のダメージしかない。蚊は痒くなるため、まだダメージが大きいか。
それほどレベルというものは高ければ受ける恩恵も大きいのだ。