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カフェオレ

作者: ヌベール



カフェオレというのはフランスの飲み物だ。


ちょっと昔は、カフェラテも、カプチーノもエスプレッソも、その他諸々のお洒落なコーヒー飲料などもなく、喫茶店で頼むとしたら、ブレンドかカフェオレくらい、あとは高いお金を払ってコーヒー専門店に行くしかない、というのが普通だった。


19歳になってすぐ、スペインのバルセロナに住む島谷さんという友人を訪ねることになった。

当時は直行便がなく、パリ経由で行くしかなかった。


安い飛行機に乗って20時間、パリ近郊の光景が窓外に見えてきたのは、2月の早朝のことだった。


うっすらと積もった雪に、家々が埋もれていた。

私の脳裏には、クロワッサンやフランスパンと、湯気の立つカフェオレのある朝の食卓が浮かんできた。

フランス人が皆そうした朝食をとるのかは知らない。しかし若い私にはそうしたイメージしかなかった。


ああ、とうとう来たんだな、と私は思った。


空港に到着し、何も分からないパリで、バルセロナ行きの寝台車を予約し、1日パリ見物を楽しんだ。


夜遅くパリを出発した列車は、一晩中走り続け、スペインに入ると間もなく夜が明けた。


同室のフランス人夫婦と一緒にクロワッサンとカフェオレの早い朝食をとると、彼らは私をまだ子供のように思ったらしく、金を払ってくれたのだった。


そして間もなく、本当に着いた。

1人で、パリを経由して、遠いスペインのバルセロナに着いたのだ。


島谷さんが4歳くらいのななみちゃんという娘の手を引いて、私の姿を探していた。

「島谷さん!」

「おお、A君」


この、バルセロナまでの旅は今でもとても忘れられない。

たぶん、一生忘れないと思う。

何しろ、19歳になったばかりだったのだから。


3人で、駅のカフェに入る。


映画で見たような駅舎だ。


私はカフェオレを飲んでいた。

聞こえる話し声は何ひとつとして分からない。

人々の顔は、皆西洋のそれだ。


『ああ、来たんだな』


私はカフェオレをゆっくり飲んだ。


まだ未知の、広く果てしない異文化が既に私を包んでいた。

これから1年間のスペインでの生活が始まる。


バルセロナの初めての朝だった。


カフェオレの味だけが、日本のそれとあまり変わらないような気がした。

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