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平和を守った正義の瞳 3

長らくお待たせいたしました。

 ☆☆☆


 それは、X-サイボーグ達がシュバルツガイストの元から脱走してまもない頃…


 X-サイボーグ達は日本に住むパブロフ博士の大学時代の友人・コイズミ博士の家に厄介になっていた。


 最初にそれを提案したのは誰だったか、もう誰も覚えていないが…パブロフ博士も含めた全員で記念撮影をすることになった。


 場所はシュバルツガイストからの脱走時に奪取した水空両用母艦『ホエール号』のコックピット。


 コイズミ博士がカメラマンを務め、X-サイボーグ達に眩いフラッシュが浴びせられた…。


「…はい、OK。もう動いても大丈夫じゃよ」

「ふぅ~…やっとか。もう頭が痒くてさぁ~」


 コイズミ博士が撮影を終えると、皆ポーズを解いて思い思いに動き始めた。

 X-2nd/シャーリーなどは大きく伸びをした後、後頭部をポリポリと掻き始めた。


「う~…」


 そんな中、X-3rd/アンリエッタは両手で目を擦っていた。


「どうしたX-3rd(アンリエッタ)?」

「ん~…フラッシュで目がチカチカしちゃって…」

「ほぉ~?どれどれ、先生が見てやろう~?う~ん?これはもうちょっと近くで見ないと分からないなぁ~」


 そんな事を言いながらX-2ndはX-3rdに手を伸ばすが、X-3rdは伸ばされた手を即座に払いのけた。


「…もぉ!X-2nd(シャーリー)さんたら、ふざけないで!」

「へへへ…わりぃわりぃ!」


 X-3rdから叱られてしまい、X-2ndはいたずらっ子のように舌をペロリと出した。


「悪いのぉ、コイズミ君。カメラマンの代わりなどさせてしまって…」


 パブロフ博士はカメラを片付けているコイズミ博士に駆け寄ると、労いの言葉をかけた。


「いやいや、気にせんでくれ。私が好きでやっているんだ。カメラマンの代わりくらい、どうってことはないさ」

「そうかね…いやぁすまんな」


 パブロフ博士とコイズミ博士は握手を交わしたのだった。


 撮影が終わると、皆早々にコックピットから退室していった。


 X-1st/リーシャに至っては撮影の途中から眠りの周期に入ってしまい、今はX-9th/キョウジに抱っこされながら静かに寝息をたてていた。


「アイヤ~♪大勢で集まって記念撮影なんて初めてアルが、中々楽しいモンアルナ~♪変な影とか出来てないといいアルが~♪」


 X-6th/マイホンは鼻歌を口ずさむ程に上機嫌だった。


「しかしだなぁ…」


 一方、X-4th/アルベルトはどこか不満そうだった。


「…こういう修学旅行みたいな事は、どうも俺の性に合わん。これならまだ、シュバルツガイストの基地を潰し回っていた方がマシだな」

「…ハッ!くだらねぇ!」


 X-4thの呟きを、X-2ndは鼻で笑った。


「シュバルツガイストの奴らなんか相手にするより、ベトナムの方でドンパチやった方が百倍マシさ!アタシらがどっちかに味方すりゃあ、あの戦争もあっ…つう間に終わるってのにさぁ~!」

「おいおい、それ本気で言ってるの~?」


 そこへX-7th/ロナルドが話に割り込んできた。


「僕らみたいなのは、政治だとかイデオロギーがどうとかいう話には関わらないのが一番良いんだよぉ~。大体、こんな国籍も人種もバラバラな寄せ集めの機械人間集団が、西側と東側のどっちに味方しろって言うのさぁ~?ジョンソンもフルシチョフも遠慮するって!ハハハハハハ!」


 X-7thはその顔に施されたピエロメイクにふさわしい、おどけた口調で自身の意見を述べた。


「…余所者に土足で自分たちの土地に踏み込まれた挙げ句、余所者同士の殺し合いに巻き込まれているベトナムの人々がそれで納得してくれると良いんだがな」


 金属製のスティックを肩に担いだアフリカ系の青年…X-8th/ジンケはそう呟くと、「X-3rd(アンリエッタ)もそう思うよな?」とX-3rdに話題を振った。


 しかしX-3rdは…


「ベトナムの人達がどう思っているかなんて、私に分かる訳ないでしょX-8th(ジンケ)さん?私はフランス人よ?」


 と、素っ気なく返した。


「俺は…戦争は嫌いだ。戦争は数え切れない程たくさんの命が失われる…悪しき行いだ」

「ちぇ~、つまんねぇ~の~」


 それまで黙っていたX-5th/ロブリコが断言すると、X-2ndはまるで子供のように不満げに顔を歪めたのだった。


「…まあまあ皆!」


 そこに、寝息をたてているX-1stをお姫様抱っこの形で抱いているX-9thが話に入ってきた。

「そういうヤボな話は止めにしようよ…僕らは兵隊じゃないんだから。それに…あんまり騒ぐとX-1st(リーシャ)が起きちゃうだろう?」

「zzz…」


 X-9thの腕の中で静かに眠っているX-1stは、『天使のような』という表現がよく似合う程に可愛らしく、とてもコンピューター並みの天才知性と超能力を持っている改造人間(サイボーグ)には見えず、年相応の幼い子供にしか見えなかった。


「それより…早く戻って夕飯にしようよ!もうお腹ペコペコだよぉ!」

「おぉ!任せるアル!腕によりをかけてごちそう作るアルヨ!」


 X-9thの言葉に答えるようにX-6thが薄い胸をはると、周囲にはX-サイボーグ達の笑い声が響き渡ったのだった。


「…あ!ごめんなさい、先行ってて貰える?私、着替えてから行くから」


 途中でX-3rdが更衣室に向かう為に別れた。


「…」


 その後ろ姿をX-2ndはじっと見つめていた



 ホエール号内の更衣室は天井も壁も床も純白の板張りとなっており、各X-サイボーグ用のロッカーが9個ある以外は何も置かれていないシンプルな内装をしていた。


「♪~」


 X-3rd/アンリエッタは自分用ロッカーを開いて、戦闘服から私服へと着替えていた。

 首から青いマフラーを外して、上半身部のボタンを一つずつ外していく。


「…よぉX-3rd(アンリエッタ)

「!」


 アンリエッタが上半身をはだけようとした時、いきなり声をかけられた。

 見れば、開け放たれた更衣室のドアにもたれかかる形で、X-2ndが立っていた。


「しゃ、X-2nd(シャーリー)さん…?ご、ごめんなさい。まだ着替えている最中だからもう少し…」

「…分かってるよ。だから来たのさ」

「…えっ?」


 X-2ndの言葉の意味が分からず、アンリエッタはきょとんとした顔になる。

 X-2ndはアンリエッタの様子に気づいているのかいないのか、アンリエッタを後ろから抱き締めた。


「!?」


 いきなり同性の、それも『仲間』と思っていた人物に抱き締められ、アンリエッタは頬を赤く染めて硬直してしまった。


「…最初に会った時からお前の事、『いいなぁ』って思ってたんだ。他の奴に、それも『男』に取られちまう前に…」


 X-2ndはアンリエッタの戦闘服の襟を掴むと、うなじを露出させ…


「…アタシが唾付けといても良いよなぁ?」


 …アンリエッタの首筋を根元から上がっていくように舌で舐めたのだった。


「!?いやぁっ!!」


 身の危険を感じたアンリエッタはサイボーグの腕力を持ってX-2ndから逃れた。


 アンリエッタの顔はリンゴのように赤くなっており、目には涙が貯まっていた。


「あ、あのですね…あの…お気持ちは、嬉しいんですけど…わ、わた…私には、そういう趣味嗜好は無いので…だから…あの…」

「…」


 しどろもどろに成りかけているアンリエッタとは対称的に、X-2ndはきょとんとした顔になっていた。


「…何勘違いしてんのさ?」

「…えっ?」

「アタシは別に同性愛者(レズ)じゃないよ」

「あ…そ、そうなんd」


 アンリエッタは安心しかけた…のだが、


「どっちかって言ったら、両方(男も女も)イケる両性愛者(バイ)だよ」

「大して変わらないじゃないの!!」


 上げて落とされて、アンリエッタは泣きそうだった。


「まぁまぁ…細かい事は気にすんなって」


 X-2ndは獲物を捉えた肉食獣のように舌なめずりをし、またアンリエッタに抱きついてきた。


「お姉ちゃんが手取り足取り教えてやっからさぁ~。良いだろう~?女同士なんだしぃ~」

「あ、あの…私、本当にそういうのは…」

「そんならちょうど良いやぁ~。これを気に目覚めさせてやるからさぁ~」


 アンリエッタが何を言おうとX-2ndは聞く耳を持たず、アンリエッタの首筋にキスをしていった。


「やめてってば!!」

「!?」


 アンリエッタはとうとう我慢の限界に達し、X-2ndの右頬に平手打ちを食らわした。

 アンリエッタからの平手打ちを食らい、X-2ndは軽くよろめく。


「ハァ…ハァ…」


 アンリエッタは息を切らしながら服の乱れを直していく。


「…」


 X-2ndはしばらくの間、平手打ちを食らった頬を抑えて呆然としていたが…何を思ったか、不意にニヤリとした笑みを浮かべ…アンリエッタの腹に拳を叩き込んだのだ。


「ブグッ!」


 腹部に不意の一撃を食らってアンリエッタは痛みで顔を歪ませる。

 続けてX-2ndはアンリエッタの顔面に左フックを叩きこんだ。


「ウブッ!」


 アンリエッタは左頬に青アザを作り、床にうつ伏せの状態で倒れた。

 X-2ndはその隙を付くようにうつ伏せのままのアンリエッタに跨がり、戦闘服の袖の部分を手錠代わりにするように縛った。


「いや…やめて、X-2nd(シャーリー)さん…やめて…」


 アンリエッタは涙を流しながら懇願したが、X-2ndは全く止める素振りを見せず、アンリエッタの下半身に手を伸ばそうとしていた。


「い、イヤアァァァァ!!」


 まさしく貞操の危機…だったが、


「おーい!」

X-3rd(アンリエッタ)~!まだアルカァ~?」


 間一髪の所で更衣室のドアが開き、X-6th/マイホンとX-7th/ロナルド、X-5th/ロブリコがやってきたのだ。


「いくらなんでも、着替えに時間掛けすぎアルヨ~。みんなもう待ちくたびれて…えっ?」


 X-6thは更衣室内の様子を見て目を見開いた。


「ちょ、ちょっと何やってんの君たち!?」


 X-6thだけではない。

 一緒にいたX-7thも、X-2ndが仲間であり同性であるX-3rd/アンリエッタに馬乗りしている姿を目にし、ピエロメイクの上から冷や汗を流したのだった。


「チッ!良い所だったのに…」


 一方、X-2ndは犯行の現場を抑えられたというのに反省する様子も見せずに舌打ちを打った。

 そんな中…


「!!」

「うわっ!!」


 X-5th/ロブリコがX-2ndの襟首を掴み上げたかと思うと…


「ブグゥッ!!!?」


 そのままX-2ndの頭を更衣室の壁に叩きつけた。

 顔面から頭を壁に叩きつけられて、X-2ndは鼻の穴からたらりと血を流す。


「この…ケダモノが!」

「ち、ちょっと待てって!これには深~い訳があってだな…」

「言い訳するな!!」

「うがっ!!」


 X-5thはX-2ndの言葉に全く耳を貸さず、そのままX-2ndをサンドバッグのように何度も殴り付けた。


 X-2ndがX-5thからの制裁を受けている間に、X-6thとX-7thが床に横たわるアンリエッタに駆け寄っていった。


「だ、大丈夫アルカ!?X-3rd(アンリエッタ)!?」

「うわぁ~!アザが出来てるじゃないか!?起きれるかい?」

「は、はい…なんとか…」


 X-6thとX-7thに支えられながらアンリエッタは体を起こす。

 左頬には青アザが浮かび、右目は大きく腫れ上がり、口の端から血を流れ出ていた。


「へ、へへへ…」


 その時、X-5thから殴られていたX-2ndが不意に笑いだした。


「どうだい?楽しいんだろ?こうやって人を殴るのが、面白くてしょうがないんだろ?」


 X-2ndは鼻血と青アザまみれの顔に笑みを浮かべながらX-5thをまっすぐ見ていた。


「…」


 X-5thは一瞬真顔になった後に、X-2ndを解放した。


「…出ていけ」

「あぁ、言われなくても出てくさ。これだけは言っとくよ、X-5th(ロブリコ)?この礼はいつか100倍にして返してやるから。覚えてなよ」

「…出ていけ!」


 X-2ndはそのまま更衣室から出ていった。

 アンリエッタはその後ろ姿をじっと眺めていたのだった…。


 ☆☆☆


「…」


 アンリエッタはかつての忌まわしい記憶を拭い去るように、カップの中の紅茶を飲み干した。


「…あ~あったあった!」


 ふと顔を上げると、いつの間にかロナルドが高級そうなウィスキーのボトルと小さなグラス二つを持って来ていた。


「これさぁ、こないだスコットランドでショーの公演した時にもらった奴なんだよ。やっぱりウィスキーはスコッチに限るよねぇ~」


 ロナルドは揚々と語りながらボトルを開け、グラスにウィスキーを注いでいく。

 ウィスキー独特の癖の強い香りがアンリエッタの鼻をくすぐった。


「…良いんですか?まだ真っ昼間ですよ?」

「なぁ~に、地球の反対側じゃあ真夜中さ♪それに、『紅茶で献杯』なんて…X-2nd(シャーリー)のキャラに合わないでしょう?」

「…」


 ロナルドの言い分に一理あると思い、アンリエッタはグラスを手に取った…。


感想よろしくお願いいたします。

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