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平和を守った正義の瞳 2

お待たせいたしました。

 ☆☆☆


 雨の降りしきるアメリカ・マンハッタンから離れること数千km-


 イギリス・ブリテン島、イングランド西部に位置する小さな農村には、雲一つ無い青空が広がっていた。

 畑には良く実った麦が青々と繁り、秋に収穫されるのを今か今かと待ちわびているかのようだ。


 畑から少し離れた位置を走る道には石畳が敷き詰められ、遥か地平線の先まで伸びているかのようだった。


「♪~♪~」


 そんなのどかな田舎道をうら若い女性が一人、中型の肩掛けバッグだけを荷物にして歩いていた。

 X-3rd/アンリエッタ・アルヌールである。


 彼女は白地にチェック柄のブラウスと自身の髪と同色のジャケットという私服姿で、石畳の敷き詰められた田舎道を鼻歌を口ずさみながら歩いていたのだ。


 しばらくして、アンリエッタは一軒の民家にたどり着いた。

 灰色のレンガを積み重ねて建てられた、築何十年も経っていそうな古めかしい家だ。


 壁面には緑色のコケや蔦が生い茂り、この家が建築されてから今日までの歴史を静かに物語っていた。


 アンリエッタは石できた塀門をくぐり抜けて玄関にたどり着くと、木製ドアのすぐ横に備え付けられているチャイムを鳴らした。


「はぁ~い、はいはいはい…」


 チャイムのブザー音が数十秒ほど響き渡った後、玄関のドアが開け放たれてこの家の住民が顔を出した。


 それは赤いアフロヘアーに白塗りのピエロメイクという、奇抜というか奇妙というか…一歩間違えば『不審者』扱いされても仕方がない姿をした男性だった。


 その上、顔はピエロのメイクだというのに、服装は白いワイシャツの上から赤茶色のベストを着て、青無地のスラックスを履いているというごく普通の装いをしていたのだ。


 ミスマッチにも程がある外見だったが、男性の目の前に立つアンリエッタは至って平静としていた。


「やぁ!久しぶり、X-3rd(アンリエッタ)!こんな『生ける死人の屋敷』にわざわざ来てくれるなんて、嬉しいねぇ!」


 ピエロ姿の男性は芝居がかった仕草と口調を交えた大げさなリアクションでアンリエッタを歓迎した。


「…」


 しかし、当のアンリエッタはピエロ姿の男性のリアクションに対して呆れたような視線を向けていた。


「…X-7th(ロナルド)さん、『生ける死人の屋敷』なんて言い方、止めなさいよ。そんな皮肉が言えてる内はまだまだ元気よ」

「あはっ!こりゃあ一本取られたねぇ!」


 アンリエッタからの突っ込みにピエロ姿の男性はまた大げさなリアクションをすると、「ハッハッハッハッハッ!」と笑い声を挙げた。


「…まぁ、立ち話もなんだし、上がりなよ。大したもてなしも出来ないけどさぁ」

「…はい。それじゃ、お邪魔しますね」


 ピエロ姿の男性に誘いに、アンリエッタは笑顔で答えたのだった。



 この派手なピエロメイクの男性はX-7th/ロナルド・マック。

 アンリエッタと同じくX-サイボーグの一人だ。


 X-サイボーグの解散後、彼は故郷であるイギリスに帰国すると、片田舎の農村で隠居生活を初め、月に数回程、ロンドンでピエロとして舞台に立っては、生活費を稼いで暮らしていた。


「…ミルクと砂糖はいる?」

「それじゃ、砂糖を少し」


 ロナルドはティーカップに紅茶を注ぎながら、居間のソファーに腰を下ろしているアンリエッタと会話を交わした。


 ロナルド宅の居間は、部屋の中央に置かれたテーブルを囲むようにソファーや椅子が並べられ、壁際には若草色のカーテンが付けられた窓が二つと辞典のように分厚いハードカバーの本が納められた本棚が一つ、薪の代わりに電気ヒーターが入れられている暖炉が一つあり、暖炉のすぐ左にハイビジョンテレビが置かれていた。


「どうぞ」

「…ありがとう」


 ロナルドは紅茶の注がれたティーカップと角砂糖を乗せたソーサーをアンリエッタに渡した。

 アンリエッタは紅茶に砂糖を加えると、香りを楽しみながら紅茶を口に含んだ。


「…おいしい」

「それは良かった。近所の人からお裾分けされたんだけど、1人で飲むんじゃあ、味気無くてさぁ~」


 ロナルドは紅茶を口にしながらも楽しそうに会話を続けていた。


「…来た理由は分かるよ。こんな田舎でもネットは繋がるし…新聞にも載ってたよ。今日はX-2nd(シャーリー)の葬式なんだってね」

「…」


 ロナルドが急に真剣な口調で語り始め、アンリエッタはロナルドに視線を向けた。


「いやはや…『空が飛べる』彼女が『ビルから落ちて死ぬ』とは…皮肉な最後だよねぇ。まぁ…」


 突然、ロナルドの全身が粘土のようにぐにゃぐにゃと崩れたかと思うと、その形を変え始めた。

 そしてそれが収まると、今までロナルドが座っていた椅子には改造人間(サイボーグ)用戦闘服を着用したX-2nd/シャーリーが足を組んで座っていた。


「…アタシの『死に様』としては一番ふさわしいのかもなぁ!はっはっはっ!!」

「…」


 高笑いを挙げるX-2ndの姿に、アンリエッタは静かに紅茶を飲みながら冷ややかな視線を向けた。


「…X-7th(ロナルド)さん、今はそういうブラックなジョークはやめて。せっかくの紅茶が不味くなるわ」

「あっ…ごめん」


 アンリエッタからの冷たいツッコミを受けると、X-2ndの体は粘土のようにぐにゃぐにゃとなり、また私服姿のロナルドになった。


 これがX-7th/ロナルド・マックの改造人間(サイボーグ)能力。

 自身の肉体を細胞レベルで組み換えることで、どのような姿・形にも『変身』する事が出来るのだ。


 人間以外の生き物や無機物などの物体にもなれるし、大きさや声も自由自在。


 応用として、体の色をカメレオンのように周囲の景色に溶け込ませて『透明人間』になることもできるし、某海賊漫画の主人公や某アメコミヒーローチームの天才科学者のように手足をゴムのように伸ばすこともできるのだ。


 X-サイボーグの解散前、彼は自身の能力を活かして潜入による情報収集や裏工作などを担当し、同時にチームの空気を和ませるムードメーカーも兼任していたのだ。


「…もしかして、まだX-2nd(シャーリー)にされたことを怒っているのかい?」


 ロナルドは頬杖をつきながらアンリエッタに話しかけた。


「…当たり前じゃないの」


 ロナルドからの問いかけに、アンリエッタは顔をうつ向かせながら答えた。

 ロナルドはその返事を聞くと深いため息をついた。


「君ねぇ…あれから何年経っているのさ?まぁ、被害者である君からしたら、年月なんて関係無いかもしれないけど…いつまでもその事にこだわってたら、前になんか進めないよぉ?」

「それは…分かっては、いるんだけど…」


 アンリエッタは顔をうつ向かせながら、ティーカップの中を覗き込んだ。


「今でも…時々あの時のことを夢に見るの…そして真夜中に飛び起きる…まるで昨日のことみたいに…」


 カップの中の紅茶には憂いを秘めた表情のアンリエッタの顔が映っていた。


「…もう忘れた方が良いのは分かっているけれど…どうしても頭にこびりついて離れないの…あの時の光景が…」


感想よろしくお願いいたします。

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