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蒼いマフラー、なびかせて ⑤

 ☆☆☆


 週末の夜-


「う~ん…」


 東京スカイツリーの真下に位置するとあるレストランで、X-9th/朱雀キョウジは窓際に位置するテーブル席に腰を卸しつつ、ソワソワとしていた。


 X-3rd/アンリエッタから数年ぶりに連絡を受け、ディナーのお誘いを受けた。

 舞い上がってしまうのも仕方がない。


 X-サイボーグが解散する前、キョウジとアンリエッタはパブロフ博士含むメンバー全員公認のカップルとして知られていたものの、チームの解散とともにお互い別の道を歩みだしたこともあり、数年以上もろくに連絡すら取り合っていなかったのだ。


 いかに体内を機械化された改造人間(サイボーグ)と言えど、心は生身の人間と変わらない。

 内心キョウジは、小躍りしそうになるほど舞い上がっていたのだ。


 だからこそ、持っている中で一番上等なスーツを着て、何度も鏡とにらめっこしながら念入りに身だしなみを整え、約束の1時間以上前から予約したレストランでアンリエッタが来るのを待っていたのだ。


「…って、ちょっと舞い上がり過ぎか」


 自分の行動を振り替えってみて、キョウジは少し反省した。


 その時である。

 ガッシャャンという何か固いものが割れるような音が店内に響き渡った。


「!加速」


 反射的にキョウジは席から立ち上がり、音のした方向に顔を向ける。


「装…」


 体内の加速装置を作動させようとして、キョウジは凍りついたかのように固まった。


「ちょ、ちょっとお姉さん、大丈夫?」

「は、はい!申し訳ありません!」


 壁際のテーブル席で、ウェイトレスの一人が男性客に謝罪しながら床の上に散らばった割れた皿の破片やフォークなどの食器を片付けていた。


「…」


 ほぼ条件反射で反応してしまったキョウジは、そのまま彫像のように固まってしまった。


「…あの、お客様。どうかなされましたか?」

「!」


 心配そうに話しかけるウェイトレスの声で、ようやくキョウジは我にかえった。


「は、はい…えぇ…大丈夫です…はい…」


 しどろもどろになりつつウェイトレスに答えると、キョウジは服の乱れを直して、席に座り直す。


「フゥ…またか…」


 大きなため息をつきながら額に手を当て、キョウジは疲れが混じった声で小さく呟いた。


 一般人として生活を始めて半世紀近く。

 キョウジは…サイボーグX-9thは未だに、かつての『戦いの日々』から抜け出すことが出来ずにいた。


 街中を歩いていて突然、破裂音や火薬の匂いや煙などを発見すると、つい条件反射で加速装置を作動させようとしてしまう。


 しかし、そこにあるのは『道路工事』や『花火』や『焚き火』といった何て事のない日常風景であり、いつもすんでの所で作動させる事はなく、キョウジはただあっけにとられて思考を停止させ、我にかえるとただただ未遂に終わった自分の行動を深く後悔する…まるで日常に馴染めない帰還兵のように、キョウジは『戦い』にどっぷりと浸かり込んだ自分自身が恨めしくて仕方なかった。


 幸いというべきか、現状キョウジが実際に事件を起こした事がないことだけが、救いと言えば救いではあった。


「…ウジ?キョウジ!」

「!」


 誰かに名前を呼ばれて、半ば思考停止状態だったキョウジはようやく我にかえった。


 気がつくと、そこにはX-3rd/アンリエッタが立っていた。

 オレンジ色のイブニングドレスを着て、頭には青いヘアバンドを付けており、まるで絵本に出てくるお姫様のような気品ある美しさを漂わせていた。


「や、やぁX-3rd(アンリエッタ)。ひ、久しぶりだね…」


 疲れの混ざったキョウジの様子を見て、アンリエッタは首を傾げた。


「…大丈夫?何だか疲れているみたいだけど?」

「えっ!い、いやなんでもないよ!久しぶりに会った君があんまり綺麗だったから…」

「えっ!そ、そう…」


 キョウジの咄嗟に出た言葉に、アンリエッタはまんざらでもなさそうに顔を赤らめたのだった。


 ☆☆☆


 そうしてささやかな夕食会が始まった。

 お互いの近況報告から始まって、周囲の人間(キョウジならパブロフ博士、アンリエッタならX-1st/リーシャ)の様子、そして昔話などに花が咲いた。


「あの人達のこと、覚えている?確か…コードネームは…そう、『エッダ・サイボーグ』!」

「あぁ、覚えているよ。北欧神話に出てくる神様や怪物がモチーフで、自分たちのこと『神の化身』とか『選ばれた存在』とか自称していたよね」

「そうそう!アイスランド沖の『アスガルド島』って島で戦ったわよね。ドラゴンやら巨人やら怪獣みたいな狼やら…本当に神話から出てきたみたいな姿をしていたわ」

「…リーダーの『トール』と戦った時、彼は僕に『加速装置以外にどんな武器を持っている?』と聞いたんだ。言ってやったよ。『勇気と仲間の絆だ』ってさ。懐かしいなぁ…」


 キョウジとアンリエッタはかつての戦いの日々に思いを馳せるように、どこか遠い場所を見つめるような目をしていた。


「にしても…こんな風にあの頃の思い出話ができる日が来るなんてね…なんだか変な感じがするよ」

「そうねぇ…あの頃は、それこそ世界中駆け回ってシュバルツガイストと戦い続けて…何時になったら戦いが終わるのかも分からなかった…解散命令を出した国連の人達には、感謝しなくちゃね♪」

「…そうだね。だからこその『今』なんだ」


 屈託の無い純粋な微笑みを浮かべるアンリエッタの姿に、キョウジもつられて笑みを浮かべた。


「それにしても、今夜は本当に楽しいわ。最近は笑えるような事がほとんどなかったから・・・」

「それはまぁ…しょうがないよ」


 アンリエッタの呟きにキョウジはため息を漏らしながら答えた。

「…X-2nd(シャーリー)が死んだんだからね」





第1章はここまで。

第2章もお楽しみに。

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